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片恋切符は天の川をこえて
11、それはあなたの街
しおりを挟むセイに言われるがまま、彼の自転車に乗って、彼の住んでいる街を走り抜けたのはそれからすぐのことだった。
『あれが観光列車の線路』『ここからが浜町アート通り』などと一定の場所でセイの声がして、街を説明してくれているようだったけど、怖くて怖くてたまらなかったわたしは、彼の背にしっかり捕まってぐっと目を閉じていた。
ずっと暗い道が続いていたように思ったけど、瞼の向こうに光を感じ、うっすら目を開くと少しずつ暖色のきらめきが視界に飛び込んできて、遠くから見ていた暖色の明かりが見え始めた。
街はまるで異国のような光景だった。
『す、すごい……』
思わず漏れた言葉はその景色と共に、わたしの脳内のもやもやとした深い霧を一気に晴らしてくれた。
『そして、ここが門司港レトロ地区』
ゆっくり自転車を止めたセイがこっちを見て笑顔を作ったのがわかった。
『マミちゃん、おいでませ!』
『それ、この前……わっ!』
先日、唐戸市場で見た言葉だ……と言いかけた時、あたり一面に広がった眩い輝きがぱぁっとより一層大きく光って見せ、一気に目を奪われた。
ずっと見てみたかった世界が、そこにあった。
迎えいれられたような、そんな気さえした。
『どう? マミちゃんの想像通りだった?』
『……そ、それ以上に素敵』
想像の何百倍も美しい。
『それはよかった』
ちょっと回ろうか、とセイが言って、少しずつ、少しずつあたたかい光に包まれていく。
きらきらと星が瞬くように。
この人は、この土地の人だからこんなにも優しいオーラに包まれているのだろうか。
わたしもこんな優しい気持ちで過ごせたらいいのにといつも思っていた。
『あー、この時間だとほとんど閉まってるか』
あちらこちらへと自転車を走らせ、ぽつりとつぶやくセイに小さく首を振った。
今まで感じたこともないくらい、幸せだと思えたからだ。
『門司港はバナナの叩き売りの発祥地なんだよ』
『バナナ?』
『休日は実演もしてたりするんだ』
『そ、そうなの?』
いきなり何を言い出したのかと顔を上げる。
バナナの叩き売りだなんて初めて聞いた。いったいどんな売り方なのだろうか。
『あとは、焼きカレーが有名かな。マミちゃんにも次の機会に食べてもらいたいな』
セイの視線の先に、普段はその光景が広がっているのだろう。
彼を通して、わたしにも見えた気がした。
『ここが門司港駅。小倉や下関駅に行く時に使う駅で、あっちは船。通学の時に使ってる。マミちゃんの通学路にある唐戸市場まで続いてる。乗車時間はだいたい五分くらいかな』
『………』
なんでわたしの通学路を……と言いかけて、彼はすべてお見通しだったのだと悟った。
別に、隠していたわけではない。
だけど、言ってしまったら今までのすべてが終わってしまう気がした。
少しずつ何かがはがれていく。
『マミちゃん、何があったか、電車で聞いてもいい?』
『え……』
セイの言葉にびくっとした。
『十一時半くらいが下関駅に着く最終電車だと思う。俺も一緒について行くから』
(サイシュウデンシャ? ツイテイク……? ドコヘ?)
言葉の意味をゆっくり噛み砕く。
頭を固い何かで殴られたようだった。
ここから電車に乗って、帰れというのか。
あの苦痛な日々に。
『か、帰れない……』
思わず首を振る。
『わ、わたしは悪いことなんてしてない。わた、わたし……』
帰りたくない。
セイに迷惑をかけてはいけないとわかっていたのに必死に首を振っていた。
『セイ、ごめん……、でも、わたし……』
『マミちゃん』
言うなりセイの大きな手に抱き寄せられた。
『落ち着いて、大丈夫だから』
大丈夫。大丈夫。
ドックンドックンと響く大きな音に耳を澄ませて、同じように呼吸を合わせる。
『大丈夫』
『本当に大丈夫なの? すっごい大きな音がしているけど』
少し落ち着いたところで顔を上げると『今それ言う?』と外灯の明かりと同じ顔色になったセイが困ったように口元を覆ったところだった。
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