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片恋切符は天の川をこえて
15、エピローグ
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「……万美子」
顔を上げると前方に愛おしい婚約者様の姿が見えた。
「うそ、迎えに来てくれたの?」
前に住んでいたあたりに寄ってから帰ると連絡をしたのは、少し前のことだ。
「万美子が当時の好きな人を思い出してたら嫉妬しそうだから」
「……よく言う」
あたりを見渡し、近づいてきた彼はずいぶん機嫌が良さそうだ。
「ごめん、寒かったよね」
待っていてくれたのだろう。
ほんのり赤く染まった頬に手を添えるとひんやりとした感触が伝わってくる。
「大丈夫。同窓会は楽しかった?」
「うん。高校時代を思い出しちゃった」
あれから、わたしは大人になった。
大学は広島にある国公立の大学に通うため、一人暮らしを始め、そのまま広島で就職した。
ずっと一生ひとりで生きていくのだと思っていたし、結婚なんてもってのほかだと思っていたけど、高校三年生の時に全力で想いを伝え、向かってきてくれた人と付き合うことになり、もうすぐ家族になることを決めた。
ずっと離れて暮らしていた母とも結婚を決めてから、少しずつ話せる機会が増えた。
わたしは、少しずつ少しずつ経験を重ね、大人になった。
ずっとずっと世界が狭かったのだって、今ならわかる。
小さな箱の中で必死にもがいていた。
だけどあの頃のわたしはあれが精一杯でその世界の狭さに気付くことができなかったんだ。
「もう一回ここへ来たかったんだよね」
今は、海の向こうだけがきらきらして見えることもない。
きっと、向こうから見たこちら側も同じくらい輝いて見えるんじゃないかって今なら思える。
「あの頃のわたしに、大丈夫だからねって言ってあげたかった。わたしにとって、すごくすごく大切な言葉だったから」
そうして、もう一度あの優しい笑顔を思い出す。
大丈夫。
何度も言ってくれていたけど、わたしは一度だって信じたことはなかった。
「……あーあ、高校時代の門司港男を超えるのはまだまだ難しそうだな」
ふっと笑って抱き寄せてくる彼からは大人の香りがした。
「そんなことないよ。同窓会では門司港男より、体育祭の時にみんなの前で大きな声を出して告白してきてくれた男の話で盛り上がっていたから」
「……さ、最悪」
「高校時代の恋愛を思い出すと、そのインパクトが一番強いかも」
えー、と声をあげるものの、まんざらでもなさそうだ。
もう間違えることはない。
「ここに来たらまた自転車の後ろに乗せてほしくなっちゃった」
「いやいや、今そんなことしたら捕まるから」
笑いながら手を差しのべてくる彼の腕にそっとしがみつく。
「……マミちゃん」
「え?」
「あ、いや……自転車じゃないけど、我が愛車へご案内いたします」
おどけて見せる彼はもうわたしの腕を振り払ったりしない。その様子に思わず頬が緩む。
大丈夫。
ここで泣いていた女の子はもういない。
みもすそ川公園に背を向けて、新しい一歩を踏み出す。
わたしが天の川が渡れなくたって、迎えに来てくれる人がいる。
だから、わたしは片恋切符を改めて握りしめる。
まだ見ぬ未来に向かって。
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