涙色ミルキーウェイ

保桜さやか

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片恋切符は天の川をこえて

14、そして、現実へ

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 それからのことは、よく覚えていない。
 電車からバスに乗り換え、下関駅から自宅に向かうと、家の前にはパトカーが止まっているのが見えた。母が捜索願を出そうとしていたらしい。到着と同時に母が飛び出してきて、思いっきり頬を引っ叩かれた。
 わたしの代わりに前に出て、頭を下げてくれたセイが母の金切り声に攻撃されていて、ただ茫然と他人事のようにその様子を見ていた。
 謝るべきはわたしだったのに。
 どんな大きな声もすべて右から左へと流れていき、自分だけ別世界にいるような感覚だった。
 来てくれていたらしい祖母に手を引かれて家の中に入ったのは覚えている。
 そして、わたしの夢のひとときは終わりを告げた。
 その日を境に、わたしはみもすそ川公園から少し離れた祖母の家で暮らすことが決まった。
 それから数ヶ月は、すべてがぼんやりしていて、気付くと一日が経っていた。
 学校にはちゃんと通っていた。
 言われたとおりの時間に起きて、朝食を取って、バスに乗って。
 規則正しい生活はちゃんとできていたと思う。
 泣きじゃくった母の姿に申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、わたしは少しずつ意思を持たない人形に戻っていった。
 尖った雰囲気がなくなったためか、人が寄ってきてくれるようになった。不思議なものだ。
 あんなにもみんなが遠くにいた気がしたのに。
 でも、一言言葉を交わせば、セイと話した時と同じように心でなにかが小さく弾け、宝物を見つけたようなそんなそわそわした気持ちになり、学校に行くことが楽しくなった。

『万美子』

 親友となった理沙がそう呼んでくれた時、とても嬉しく思えた。
 もう一度、人と触れ合う大切さを教えてくれたのは、セイだ。
 だけど、お礼を言うことは叶わなかった。なぜならあの場所で再び彼と同じ時を過ごすことはなかったからだ。
 話すことは叶わなかったが、一度だけ下関駅で見かけた。
 背が高いから、よくわかる。
 何度も何度も謝りたいと思っていた。
 冷静になって、事の重大さに気が付いたからだ。
 だからこそ、戸惑いながらも声をかけようと一歩踏み出した時、『ホッシー』と彼を呼ぶ愛らしい声が後ろから聞こえた。

『なにしちょるん?』

 思わず背を向けて隠れてしまったその背後で、セイとまったく同じ声……それでも聞いたことのないイントネーションで話す彼の言葉に、また動けなくなってしまった。
 記憶に残るセイを目にしたのは、それが最後だった。
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