涙色ミルキーウェイ

保桜さやか

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【番外編】デネブの英雄伝説

2、彦星の秘密の恋とその結末

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『しばらく恋愛はいいかな』

 なんて、ホッシーに言わせた相手が、この街のどこかにいる。どこの誰かはわからないけど。
 好きな子ができたから告白がしたい……なんて相談を受けたのが一年前の夏頃で、その頃のホッシーは親友の俺たちもびっくりするくらいふわふわしていて、毎日がすごく楽しそうだった。
 もともと頭は悪くなかったけど、さらに勉強に励むようになって、加えて下関についても調べることが増えた。
 フランシスコ・ザビエルがやってきた経緯をいちいち説明された俺の身にもなってみろ。この街に憑りつかれて頭がおかしくなったのかと思ったくらいだ。
 かと思えば、誰よりもこってこての下関人だったくせに、標準語の練習を始めた。
 いつかは県外に出るから方言ばかりで話せないから、なんて言ってたけど、絶対嘘だ。
 最初はモテたいがため、そんなことをしているのかと思っていたけど、これ以上モテてどうする。絶対にそうではないだろう。
 びっくりするくらい優しく笑うようになったなと思った時、この男は、恋をしているのだという結論に至った。間違いないだろう。

(おいおいおいおい、いったい誰だ。誰が俺たちの大切なホッシーを骨抜きにした!)

 最初はそんな風に思ったものだけど、生き生きした様子のホッシーに『誰が下関の歴史を語られて嬉しいんだよ!』とか『イケメンに語られるからこそ意味がある』と俺もアヤちゃんも思わず笑顔が増えて、そんなホッシーのことをこっそり見守ることにした。
 ホッシーは本当に楽しそうだった。
 楽しそうで楽しそうで、そして幸せそうで。
 見ているだけでも嬉しかった。




 そんなホッシーが変わってしまったのは、ちょうど一年前の今頃のことだった。
 暑い夏が終わって、だんだん涼しい風が吹くようになった頃、健康体が自慢で休むことのなかったホッシーが学校を休んだ。
 翌日元気になって出てきたホッシーはちょっと寝不足で、なんて言っていたけど、あの日から、ホッシーは笑わなくなった。
 いや、いつもにこにこと笑っていたのだけど、から元気で心から笑っておらず、ぼんやり心ここにあらずなことが増えた。そして、下関の歴史を口にすることはなくなった。

「ザビエルが恋しい……」

「は?」

 思わず口にしてしまって、ホッシーから何言ってるんだこいつ?と言わんばかりの顔をされる。

「ホッシーから最近、ザビエルの話を聞いてない」

「なにそれ」

 だからこそ開き直ると、ホッシーはあははと声をあげて笑う。
 笑っているけど、違うんだ。
 俺たちには、あの頃の笑顔を引き出してやることはできない。
 叶うならもっといろいろと話してほしかったし、相談してくれたら全力で力になるつもりだった。だけど、それができないのなら、今後の未来でホッシーが幸せそうにまた笑ってくれることを願いたい。
『巌流島』『源平合戦』『赤間神宮』『耳なし芳一』『唐戸市場』そして、『フランシスコ・ザビエル』。
 今なら絶対に笑うことなくしっかり耳を傾けたいと思っている。
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