結末いらずのヒロインキャラは仕方がないので自身の舞台の幕引きに自ら花を添えよう

保桜さやか

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1章 囚われた真紅の歌姫

3、舞台を降りた歌姫

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「きゃぁぁぁあ~、マリア様ぁぁぁ!!」

 舞台が幕を下ろし、拍手喝采で迎えられたとき、あたしの名を呼ぶ声が四方八方から聞こえた。

 右から、左から、上からも……劇場内は色とりどりの花と熱気に包まれ、一体化していた。

 誠意を込めて再び深く一礼し、見える限りのすべての客席に向かって手を振った。

 鳴り止まない拍手の先でゆっくりマイクを置き、前を向く。

 こんな日こそ、堂々としなくてはならない。

 幾度かあたしの名を呼び、泣き叫ぶ乙女たちには心から申し訳なく思う。

 あたしは今日という日をもって、この舞台を降りることが決まった。

「マリア様!」

 舞台を降りた先で花束を持ち、目元を真っ赤にした乙女たちに囲まれ、精一杯の笑みを作る。

「可愛い顔が台無しだわ。泣かないで」

「マリア様……舞台から降りてしまうというのは、本当ですか?」

「ええ、本当よ。しばらくは歌のない世界で自分と向き合い、新しい一歩を踏み出してみたいの」

 でも、きっとまた会えると伝えると、彼女たちは可憐な表情をゆがめ、フリルのついたハンカチでそれぞれの目元をぬぐった。

「お姉様……」

「まぁ、アンネ」

 振り返った先に、大切な妹の姿を見つけ、両手を広げると彼女はそのまま飛び込んできた。

 長い髪を編み込み、とびっきりのおしゃれをしてきてくれたようだ。

「可愛い可愛いアンネ。あたしの最後の勇姿を見てくれたかしら」

「も、もちろんよ!」

 ごめんなさい……と繰り返し、彼女は大粒の涙をこぼす。

「しっかりしなさい。次はこの場で、あなたがあたしのかわりにみんなに笑顔を与えるのだから。……できるわね」

「はい、お姉様……」

「泣かないで。愛らしいお顔が台無しよ」

「うううっ……」

 ああ、本当に。

 何が楽しくて麗しの乙女たちの涙を見なければならないのか。

「……さすがだね、マリア。お疲れ様」

 真紅のドレスの裾を上げ、真っ赤なバラの花束を片手にまっすぐに進んだその先で、元凶となる男が手を叩きながら待ち構えているのが目に入った。

 まばゆいアッシュゴールドの髪はどのスポットライトよりも眩しく見える。

「ああ、来ていたのか、ペテン師くん」

「その呼び方はひどいなぁ……」

 よく知る柔らかな笑みを浮かべ、ルイは一礼をする。

 まるでこの街に合わせたかのようなお粗末な衣装に身を包んでいるものの、彼から滲み出る洗礼された雰囲気は隠すことができない。

 正直なところ、この男の真の姿を知ってしまってからは常々疑問に思っていたアンバランスな違和感にも納得がいったし、なんならこの笑みすらも嘘なのではないかと思えてしまうほどだった。

「マリア、本当に素晴らしかったよ。いや、いつもだけど」

「……最後の機会を与えてくれたことは感謝する」

 無事、この高いヒールを脱ぎ捨てることができる。

「君の可能性を奪ってしまったことは、本当に申し訳なく思う」

「この国のためだ。あたしも理解している」

 あのあと、ルイからはしっかりと説明を受けた。

 そのうえで納得し、自らの意思を持って彼の元へついていくことを決めた。

 この国で起きている悲劇を知らないわけではない。

 不自然な天災が繰り返される不安定なご時世の中、野盗が増え、怪盗を名乗る不届き者まで現れ、挙句の果てにかつて名だたる術師たちが総出になって封印したという魔王が復活を遂げるかもしれないという窮地の事態に陥っていることはあたしだけでない……ここに住むものみんなが知る事実だった。

 魔物の騒ぎがあちこちで被害を及ぼすようになり、二年前にある街で大きな事件が起こったと話題になったことは記憶に新しい。

 王族は全力でこの問題に立ち向かうのだと声明を出したのだが、それでも不安は拭いきれるものではなかった。

 この街のみんなは陽気で明るい。

 いつも笑顔を絶やさず、飲んで食べ、歌って踊るなど、日々の暮らしでの些細な出来事から楽しみを見出し、娯楽を楽しむことができる人たちだ。

 楽しむことで恐怖さえも紛らわそうとしていたのだろう。

 あたしもその手助けとなるひとりになりたかった。

『魔物討伐に協力してほしい』

 そのルイの言葉に、頷くしかなかった。

 不安要素があるのなら、根こそぎそこから取り除いていくしかないのだから。

 大切な乙女たちを悲しませたのは非常につらいが、それでも絶望させてしまう未来よりはずっといい。

 だからこそ、自ら舞台を降りることを選んだ。

「あたしが決めたんだ。だから、そんな顔をしないで、大きく送り出してくれ」

 男は再び満面の笑みを浮かべる。

 まるでその場に大きな花が咲いたようだ。

 周りの人間の視線を、悔しくもあたしよりも盛大に集めて、彼は笑った。

「誰よりも君を、誇りに思う」

「ああ、嫌だね。やっぱり顔のいい男は嫌いだよ」

 あたしはこの街を去る。

 そして、唯一無二と思っていた相棒を失った。
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