結末いらずのヒロインキャラは仕方がないので自身の舞台の幕引きに自ら花を添えよう

保桜さやか

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2章 ネイデルマーク城

8、王家の秘密は内密に

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「エクテス、ここが演習場であの奥が弓場だ。必要あればそこに馬小屋があるから使ってもらって構わない」

 どこでも自由に使ってくれ、と言いながら王子様バージョンのルイによって案内されるネイデルマーク城は凄まじく広い。

 とてもじゃないけど、今日一日では回れそうにない。

 それでもあたしが使いそうな場所を優先して連れて行ってくれた。

「ここはほとんどわたしの部下しか使用していないんだ」

 他の王子たちはそれぞれの持ち場を与えられていて、そこで過ごしているのだという。

 遠くの方で非常に暑苦しい大きな声が聞こえた気がしたけど、気にしないことにした。

 触らぬ神に祟りなし。

「あとで改めて騎士たちも紹介するよ」

「……ああ」

「むさ苦しいとか言わないで仲良くやってくれよ」

 言う前に釘を刺されて思わず口を噤む。

 げっと言わなかっただけ褒めてほしい。

 どうやらこの男もだんだんあたしのことをわかってきたようだ。

「……先に、紹介しておこうかな」

「え?」

「少し、歩きながら説明をしよう」

「あっ、ああ……」

 心なしか表情を引き締めたルイに違和感を覚えつつも後ろに続く。

「あの塔に向かうよ」

「塔? なんでまた……」

「ランバドル王国の姫君を紹介するよ。わたしの婚約者……というべきか弟の婚約者というべきか……まぁそんなお方だ」

「なんだい、その曖昧な表現は……。というより、弟君と君の婚約者だなんて、取り合いでもしているのか? ただごとじゃないね」

 それにしても、

「いいのかい? そんな……仮にも婚約者様にあたしのようなものを紹介してしまって。こんな格好をしていてもあたしは女だ。一目見て嫌な気持ちにされるんじゃ……」

 料理長や庭師、身の回りの世話をしてくれる侍女たちに紹介されるのとはまたわけが違う。

「大丈夫だよ。むしろ何か言ってくれたら嬉しいのだけど」 

 ルイが小さく笑う。

 瞳がどこか切なそうだ。

「……ああもう、当て馬になるのは勘弁してほしいね」

「シルヴィアーナ様はご病気でね。我々のことを認識できないんだ」

「は?」

「でも、もしもわたしや弟に何かあったら、彼女のことを守ってもらいたいんだ」

「おいおい、縁起でもないことをいうのはやめておくれよ」

 ここへ来てから不吉なことばかり口にする。

 早歩きで足を進めるルイはどこかしら焦っているようにも見える。

「エクテス、今日はこのあと今後について兄弟で集まる予定だから、そのときに君のことを紹介するつもりだ」

「いや、そこまでしてもらわなくても結構だ。どうせ数年後には去る身なんだし……」

 そんな堅苦しさしか感じられない場所へ行くなんて、冗談じゃない。

「わたしの騎士を任せるんだ。申し訳ないけどそういうわけにはいかない」

 とはいえ、他の王子たちに面会させられるのは気が引ける。

 なんでこんな目に遭う必要が……と嘆きたくもなる。

「王位継承者は第一王子である兄上が第一候補なのだけど、兄上はきっとシャンティ様の間に子がなせないと思うから、昨日も言った通り、王位継承はわたし……もしくはわたしの子に回ってくるだろうと言われている」

 もちろん、知っているのは我ら王族だけだけど、と彼は何事もないように続ける。

「子をなせない? なぜ?」

 王太子妃は体調でも思わしくないのだろうか。

 数年前にどこぞの国からお姫様と婚姻の儀を交わしたと大々的にお祭り騒ぎだったことは記憶に新しい。

 遠く離れたシロンドの街にさえ、その速報と浮かれた雰囲気は届けられた。

「兄上は同性愛者だ。異性は愛せない」

「……はい?」

 なんともただ事ではないことをさらりと言われた気がする。

 ここでようやくルイが足早に進む理由がわかった気がする。これは、そう安々と聞かれるわけにはいかない内容だからだ。

「で、では、シャンティ様は……」

 まさか……男……

「いや、シャンティ様は女性だよ。列記としたお姫さまだった人だ」

 あたしの気持ちを読み取ったように続け、「驚くよね」とようやく状況を察したらしいルイが苦笑する。

「カモフラージュで婚姻を結ばせてもらっているが、偽装婚だ。ふたりの間には関係どころか会話もない」

「ぎ、偽装婚? 王族なのに、か?」

 あたしは人類みな同じだと思っているし、男だろうと女だろうと自由に恋をしてそれぞれの幸せを作り上げてほしいと思っている。

 だが、王族だけはそれを例外と言われる存在なのだということはさすがに分かっているつもりだ。

 子をなさないと、血を残せない……すなわち後継者を生み出せないからだ。

「……な、なんて個性的な」

 情報量が多すぎてついていけない。

「それに、兄にはもうひとつ大きな問題があって、人前には出られない」

「人前には出られない? なぜ?」

 先ほどから「なぜ?」しか出てこない。

 ネイデルマークの他の王子は知らなくても、第一王子の顔は知っている。

 婚姻の儀のときはもちろん、何かあるごとに彼が声明を出すたびに彼の姿は美しい姿絵で表現され、そんな通達文は街の広間にでかでかと貼り出されていることが多かったからだ。

「……うん。それは、改めて話すよ」

「ちょっとちょっと、こんなことを言うのはなんだけど……君たち、なかなか問題が多すぎないかい」

「はは、そうなんだよ」

 困ったもんだろう、とルイは他人事のように笑う。

 お、おいおい……。

 第一王子は同性愛者で偽装婚。

 第二王子とその他の王子が同じ婚約者を取り合っていて、その当事者である姫は病気で人を認識できない……と、ざっとまとめるとこんな感じだが、あまりにも複雑すぎる。

 まともなやつはいないのか。

 いや、なによりもこんなやつらに国を任せていていいものかと改めて頭を抱えたくなったのは事実だった。

 絶対聞かなかったほうが良かったと後悔しても後の祭りだ。
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