結末いらずのヒロインキャラは仕方がないので自身の舞台の幕引きに自ら花を添えよう

保桜さやか

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2章 ネイデルマーク城

16、一難去ってまた一難

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「手荒な真似をしたことは謝ります。手っ取り早く、あなたの実力を知りたかったというのが正直なところです。ルイス兄上はずっと反対をしていたし、止めにも入ろうとしていたので、怒らないであげてくださいね」

 腹黒極悪王子は名の通りの表情と態度で淡々と告げる。

「ただ、腹黒極悪だなんて……言われているとは思いませんでしたけど」

 ぷっと合いの手王子が吹き出し、彼もふうっとため息をついた。後ろの方で白金色の天使が「そのとおりじゃないの」とつぶやき、人間凶器フードの男に制されていた。

「きっと兄につけば危険は伴う。わたしはこの国の王子として、いち国民を巻き込んでよいのかと確認したかったんです」

 そこまで言って彼は笑った。

「よく言う。こんな触れただけで八つ裂きにされそうな人間凶器のような男を準備しておいて」

「まぁ、わたし自身はあなたの実力を目の当たりにしたことはありますから」

「ほう」

 人間凶器はフードを外し、頭を下げる。

 腹黒極悪王子の護衛と言ったか。

「また手合わせを願おう。君のような実力者と一戦交えることは、とても興味深い」

 手を差し出すと、表情を崩すことなく男も握り返してくる。

「あ、そうだった……」

 思い出して彼の足元に向かい、声を掛ける。

「貴方がたの存在を確かめたかったんだ。危害を加えるつもりだったわけじゃない。申し訳ない。心から申し訳ないと思っている」

 頭を下げるとそこにとどまっていた妖精たちがビクビク震えながら顔を出し、また彼の足元に隠れた。

「ああ、やっぱり……とてもひどいことをしてしまったね」

「……エクテス、君は誰と話しているんだい?」

 不思議そうに首を傾げたのはルイで、王子が全員揃いも揃って同じ表情を浮かべていた。

「彼の足元で逃げ損ねた妖精たちを逃がしてから本気を出そうと思ったんだ。しかしながら、あたしのやった行為は逆効果で彼女たちを怖がらせることになってしまって、ひどく反省している……」

「グレイスにも妖精がついているというのですか?」

「そちらの愛らしい白金色の天使にも」

 珍しく驚いた表情を見せたのは、腹黒極悪王子で、言っていいのかと悩んだが、今わかっていることを口にした。

「シルヴィアーナ様の加護の力がまとっている。だからこの他の四人とは違って、このふたりはあなたの部下なのだと判断した。この答えで満足だろうか」

「……はは。驚きましたね」

 腹黒極悪王子は複雑そうに口もとを覆った。その瞳は笑っていない。

 シルヴィ……とだけ、小さく聞こえた。

 残念だけど、この王子があの囚われの姫君の婚約者というのは間違いないのだろう。

 この妖精たちは、あの塔で出会ったときに見たものたちと同じオーラを持っていた。

 彼の表情からして、あたしの言っていることは間違いないのは確信できた。

「あはは、すごいや。戦わせたら無敵だし、ヘイデンをここまでたじたじにできるなんて」

 次に拍手を送ってきたのは、合いの手王子だった。

「ひとつの舞台を鑑賞した気分だよ」

「……はっ! 失礼しました」

 正気に戻ってはっとする。

 目の前に倒れ込む騎士たちと観客に回り、出てきた王子たちの視線を一気に浴びて、あたしはバルコニーの真ん中で大口を叩いていたのだ。

 興奮状態にあったとはいえ、相手は王族。

 無茶なことをしてしまった自覚はある。

「も、申し訳ございません。第四王子様には失礼な物言いを。罰は重んじて受けます。もちろん、国外追放でも……」

 いや、むしろもうどこでといいから放り出してくれたら本望だ。

「はは、今更ですよ」

「そうだよ。手荒な真似をしたのはこちらだからね。エクテス、君は君のままでいればいい」

 と、肩の力を抜き、今度こそ少年のように笑った腹黒極悪王子の後ろからルイがそれこそ今更ながら現れ、頭を垂れた。

 このペテン師王子には言ってやりたいことは山ほどあったが、ここで行った無礼な振る舞いの方が気になり、言葉に詰まったのは事実だ。

 さぁ、中に……と手を引かれ、室内に戻ると、もう一つの悲劇が待ち構えていた。

 こちらを見守るように見ていたのは、先ほどの美少年と、そこには……

「!!」

 目が合った瞬間に、地面に吸い寄せられた気分だった。

 尻もちをついてから、自分が腰を抜かしたことに気づく。

「あっ……」

 ペテン師王子があたしの視線の先を見て、再び困惑した表情を見せた。

「申し遅れた。わたしがこの国の第一王子、アローデルだ」

 目を隠せと言われた意味が、ようやくここでわかった気がする。

 突然目の前に姿を現した王子を目の当たりにして、言葉を失った。

 高い身長に薄紫の瞳、王族の特徴と言われる長いアッシュゴールドの髪を無造作にかき上げた男は座り込んだあたしに気にする様子もなく頭を下げた。

 人間凶器とは、このことかもしれない。

 発色しているなんてものじゃない。

 地の底から響くような甘い声に未だかつて見たこともない美貌を持ったこの男を一目目にしただけで吸い込まれそうな心境に陥り、一瞬意識が遠のきそうになったのだ。

(おいおいおいおい……)

 冗談じゃない、と思ったけど、この国の第一王子が姿を見せなかった理由を、こんなにも屈辱的な形で知ることとなった。
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