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【15歳 春】
9、【15歳 春】囚われの騎士と引きこもり魔女
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今が何時なのかわからない、薄暗い森の中で漆黒の闇だけが夜の訪れを告げてくる。
毎日毎日変わらない日々の中で、時間の感覚がおかしくなるのを感じた。
王家の運び屋である丸い鳥が定期的にやってくるたび季節の頼りを手にすることができるため、かろうじて世の中との繋がりを感じることはできたものの、このままこの暗い森の中に閉じ込められたらとふと脳裏に浮かんでは頭を振ることもあった。
毎日日課のように呼びかけ続けても一向に彼女が出てくる気配はなく、心配になることはあるが、たまに部屋の戸口に置いた果物だけがなくなっていることがあるため、元気かどうかはわからずとも生存確認はできたため、安心している。
おかげで最近は丸い鳥がたくさんの果物を運んできてくれることが増えた。
好きな果物があれば嬉しい。
手持ちの懐中時計が今もまだ正常に動いているのなら、いつもは十一時頃に床に就き、朝の五時前に目覚めている。
日頃やることが少ないせいか、元気が有り余っていてなかなか寝付けない夜もある。
外へ出ても結界が張られていることもあり、静かな夜の世界に足を踏み入れることになる。
変わらない毎日は心をダメにしていくのかもしれないな、と今までに見てきた騎士たちをなんとなく思い出してため息を吐く。
俺自身も、しっかり誓った目標がなければどうなっていたかわからない。
ぼんやり湖の縁を歩いていた。そんなとき、
「…………うっ」
何かのうめき声が聞こえた気がした。
何の?
結界が張られたこの場所で、考えられる場所はひとつしかない。
「魔女様っ!」
閉ざされた空間の中で聞こえるのは彼女の声しか考えられなかった。
「魔女様!」
一目散に彼女の部屋までかけていく。
呻くような声が少しずつ大きく聞こえ始め、間違いなく彼女であることを悟る。
彼女の部屋の戸に手をかける。
「すみません。魔女様……」
今までは、この先に踏み込まないようにしていた。
それぞれに与えられたギリギリのパーソナルスペースを守ってきたつもりだ。
それでも、彼女に何かあったら別の話だ。
「入ります!」
勢いよく引いたその先に、布団にくるまってうずくまった彼女がいた。
真っ暗闇の世界でもはっきりわかるほど灰色の双方は見開かれ、大粒の涙が頬を伝っていた。
「魔女様……」
慌てて駆け寄る。
もののない室内でひとり体を震わせる彼女がとてもとても小さく見えたからだ。
「魔女様……、もう大丈夫です」
大丈夫ですから、と布団ごと引き寄せるも彼女はガタガタ震え、何かを呟いていた。
「……なさい。ごめんなさい」
その言葉が謝罪であることに気がついたとき、胸が張り裂けそうになった。
今にも折れそうな細い指先が、俺の胸元をしっかり掴む。
「ごめ……なさい……ごめんな……さい……」
無意識なのだろう。
呪文のように彼女の言葉はこだまする。
引き寄せても拒まれることはなく、俺はただただ大丈夫だと繰り返した。
「あなたは何も悪くない」
悪くない。
何も悪くないんだ。
そう言いたくてもぐっと喉が詰まるのを堪えるしかできず、違う言葉を必死に探す。
「お、俺はここにいます」
俺がいたところで何になるのだろうか。
考えれば考えるほど迷宮入りしてしまいそうだったが、彼女はひとりでないことを伝えたかった。
謝り続けた末に、彼女は意識を失うようにぐったりした。
それでも俺を掴む手の力は緩められることなく、シャツが伸びてしまうほどしっかりと握りしめられている。
「……っ、大丈夫です」
こうして彼女は今でも苦しみ続けている。
たった数日この場所で過ごしただけで悶々としていた自分が情けなく恥ずかしい。
彼女は毎日を変わることなく今の今までこの生活を虐げられてきたのである。
なにより、原因はわかっている。
それなのに何もできなくて、その事実が叫びだしたくなるほどつらかった。
「俺がいますから」
声がかれるまで叫びたい。
「絶対絶対、お側にいますから!」
俺の声は、彼女には届かない。
毎日毎日変わらない日々の中で、時間の感覚がおかしくなるのを感じた。
王家の運び屋である丸い鳥が定期的にやってくるたび季節の頼りを手にすることができるため、かろうじて世の中との繋がりを感じることはできたものの、このままこの暗い森の中に閉じ込められたらとふと脳裏に浮かんでは頭を振ることもあった。
毎日日課のように呼びかけ続けても一向に彼女が出てくる気配はなく、心配になることはあるが、たまに部屋の戸口に置いた果物だけがなくなっていることがあるため、元気かどうかはわからずとも生存確認はできたため、安心している。
おかげで最近は丸い鳥がたくさんの果物を運んできてくれることが増えた。
好きな果物があれば嬉しい。
手持ちの懐中時計が今もまだ正常に動いているのなら、いつもは十一時頃に床に就き、朝の五時前に目覚めている。
日頃やることが少ないせいか、元気が有り余っていてなかなか寝付けない夜もある。
外へ出ても結界が張られていることもあり、静かな夜の世界に足を踏み入れることになる。
変わらない毎日は心をダメにしていくのかもしれないな、と今までに見てきた騎士たちをなんとなく思い出してため息を吐く。
俺自身も、しっかり誓った目標がなければどうなっていたかわからない。
ぼんやり湖の縁を歩いていた。そんなとき、
「…………うっ」
何かのうめき声が聞こえた気がした。
何の?
結界が張られたこの場所で、考えられる場所はひとつしかない。
「魔女様っ!」
閉ざされた空間の中で聞こえるのは彼女の声しか考えられなかった。
「魔女様!」
一目散に彼女の部屋までかけていく。
呻くような声が少しずつ大きく聞こえ始め、間違いなく彼女であることを悟る。
彼女の部屋の戸に手をかける。
「すみません。魔女様……」
今までは、この先に踏み込まないようにしていた。
それぞれに与えられたギリギリのパーソナルスペースを守ってきたつもりだ。
それでも、彼女に何かあったら別の話だ。
「入ります!」
勢いよく引いたその先に、布団にくるまってうずくまった彼女がいた。
真っ暗闇の世界でもはっきりわかるほど灰色の双方は見開かれ、大粒の涙が頬を伝っていた。
「魔女様……」
慌てて駆け寄る。
もののない室内でひとり体を震わせる彼女がとてもとても小さく見えたからだ。
「魔女様……、もう大丈夫です」
大丈夫ですから、と布団ごと引き寄せるも彼女はガタガタ震え、何かを呟いていた。
「……なさい。ごめんなさい」
その言葉が謝罪であることに気がついたとき、胸が張り裂けそうになった。
今にも折れそうな細い指先が、俺の胸元をしっかり掴む。
「ごめ……なさい……ごめんな……さい……」
無意識なのだろう。
呪文のように彼女の言葉はこだまする。
引き寄せても拒まれることはなく、俺はただただ大丈夫だと繰り返した。
「あなたは何も悪くない」
悪くない。
何も悪くないんだ。
そう言いたくてもぐっと喉が詰まるのを堪えるしかできず、違う言葉を必死に探す。
「お、俺はここにいます」
俺がいたところで何になるのだろうか。
考えれば考えるほど迷宮入りしてしまいそうだったが、彼女はひとりでないことを伝えたかった。
謝り続けた末に、彼女は意識を失うようにぐったりした。
それでも俺を掴む手の力は緩められることなく、シャツが伸びてしまうほどしっかりと握りしめられている。
「……っ、大丈夫です」
こうして彼女は今でも苦しみ続けている。
たった数日この場所で過ごしただけで悶々としていた自分が情けなく恥ずかしい。
彼女は毎日を変わることなく今の今までこの生活を虐げられてきたのである。
なにより、原因はわかっている。
それなのに何もできなくて、その事実が叫びだしたくなるほどつらかった。
「俺がいますから」
声がかれるまで叫びたい。
「絶対絶対、お側にいますから!」
俺の声は、彼女には届かない。
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