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9、作中に登場しないキャラクター
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その作中に、テオルドという人物が存在していた。
混乱した。
わたしは書籍の中の登場人物を現実世界の人間と錯覚していたというのだろうか。
わたしは誰なのか。
愛理? アイリーンではなくて?
わからなかった。
想像にしてはあまりにもリアルすぎた。
震える指先がページをめくるごとに少しずつ忘れていた記憶が鮮明になって思い出されていく。
まるで閉じられた扉が順番に開放されていくようだった。
主人公は『美琴《みこと》』という現代を生きる女の子でひょんなことから物語の世界に転生したところから物語は始まる。
わたしは『美琴視点』で読み続けていた。
ちょうどそのころ、美琴が転生した先の世界では、突如として街を魔物が襲うという悲劇的出来事が起こっていた。
とても大きな被害で、街の中は恐怖と大混乱に襲われたという。
そんな時、伝説の宝剣に選ばれし勇者が誕生していた。
魔物に立ち向かい、街に平和をもたらす。
そんな存在が現れた。
それが鍛冶屋の息子、テオルドで、彼が十六歳になったばかりのことだった。
勇者は勇敢に街を守り、街こそ被害はあったものの危険に侵されていた街の人々は彼のおかげで事なきを得た。
しかし、作中では逃げ延びた一部の魔物に美琴が攫われるという次から次へと目まぐるしく事件は起こる。
そんな彼女を救いに向かったのが勇者、テオルドであった。
とはいえ、転生直後から備わっていたチートな能力で美琴は魔物にもしっかり対抗し、負けじと戦っていた。
彼女の勇気と行動力、そして逞しさは読者の心を掴むには十分で、明るく前向きなその様子は好感度が高く、とても好きなキャラクターだと認識したのを覚えている。
いわゆる推しのヒロインだった。
そして、勇者と美琴は出会う。
必然的でドラマチックな展開だった。
胸がときめいて何度も何度もそのシーンを読み返したから忘れもしない。挿絵のイラストはポストカードにだってなっている。
神のような能力を持った美琴は街人から『巫女』と呼ばれるようになった。
美琴《みこと》が巫女ってどんなネーミングセンスなんだと突っ込んだ覚えさえある。
(ちょっ、ちょっと……待って……)
何度読んでも魅了されてしまう愛読書をパラパラとめくり、挿絵にも盛大に胸をときめかせながらあることに気がついた。
(あ、アイリーンって……誰……?)
それからも物語は続く。
勇者テオルドと巫女と呼ばれた美琴は魔物退治の旅に出る。
そして、旅を通して様々な人間に出会い、舞台を変えて成長を続けていく。
途中で彼を自身の護衛に置きたいという美琴のライバル役である悪役令嬢も登場したりして、本当に彼らの旅の分だけ物語は広がっていった。
難を乗り越えるごとに深まるテオルドと美琴の絆に何度悶えたことか。
だけど、今、脳裏に浮かんで離れないのは勇者の幼なじみというポジションにあったはずの『アイリーン』という存在のことだ。
誰のことなのだろうか。
たしかに、勇者が旅に出る際、彼の古くからの仲間たちは彼との別れの瞬間をひどく惜しみ、そして激励を送っていた。
もしかしたらその幼なじみの存在もその中のひとりだったのかもしれない。
彼を想って泣いた女の子が何人かいたという描写もあったから、きっとそうなのだと思う。
それでも『アイリーン』という名前は作中に一文字足りとも登場することがなかった。
書籍を閉じたと同時に、この上ない絶望感でいっぱいになり、目の前が真っ暗になった。
わたしは物語のすべてを覚えている。
何度も何度も読んだのだから。
完結はしていないにしても、最新刊までは隅々まで完全に熟知している。
『アイリーン』という存在以外は。
混乱した。
わたしは書籍の中の登場人物を現実世界の人間と錯覚していたというのだろうか。
わたしは誰なのか。
愛理? アイリーンではなくて?
わからなかった。
想像にしてはあまりにもリアルすぎた。
震える指先がページをめくるごとに少しずつ忘れていた記憶が鮮明になって思い出されていく。
まるで閉じられた扉が順番に開放されていくようだった。
主人公は『美琴《みこと》』という現代を生きる女の子でひょんなことから物語の世界に転生したところから物語は始まる。
わたしは『美琴視点』で読み続けていた。
ちょうどそのころ、美琴が転生した先の世界では、突如として街を魔物が襲うという悲劇的出来事が起こっていた。
とても大きな被害で、街の中は恐怖と大混乱に襲われたという。
そんな時、伝説の宝剣に選ばれし勇者が誕生していた。
魔物に立ち向かい、街に平和をもたらす。
そんな存在が現れた。
それが鍛冶屋の息子、テオルドで、彼が十六歳になったばかりのことだった。
勇者は勇敢に街を守り、街こそ被害はあったものの危険に侵されていた街の人々は彼のおかげで事なきを得た。
しかし、作中では逃げ延びた一部の魔物に美琴が攫われるという次から次へと目まぐるしく事件は起こる。
そんな彼女を救いに向かったのが勇者、テオルドであった。
とはいえ、転生直後から備わっていたチートな能力で美琴は魔物にもしっかり対抗し、負けじと戦っていた。
彼女の勇気と行動力、そして逞しさは読者の心を掴むには十分で、明るく前向きなその様子は好感度が高く、とても好きなキャラクターだと認識したのを覚えている。
いわゆる推しのヒロインだった。
そして、勇者と美琴は出会う。
必然的でドラマチックな展開だった。
胸がときめいて何度も何度もそのシーンを読み返したから忘れもしない。挿絵のイラストはポストカードにだってなっている。
神のような能力を持った美琴は街人から『巫女』と呼ばれるようになった。
美琴《みこと》が巫女ってどんなネーミングセンスなんだと突っ込んだ覚えさえある。
(ちょっ、ちょっと……待って……)
何度読んでも魅了されてしまう愛読書をパラパラとめくり、挿絵にも盛大に胸をときめかせながらあることに気がついた。
(あ、アイリーンって……誰……?)
それからも物語は続く。
勇者テオルドと巫女と呼ばれた美琴は魔物退治の旅に出る。
そして、旅を通して様々な人間に出会い、舞台を変えて成長を続けていく。
途中で彼を自身の護衛に置きたいという美琴のライバル役である悪役令嬢も登場したりして、本当に彼らの旅の分だけ物語は広がっていった。
難を乗り越えるごとに深まるテオルドと美琴の絆に何度悶えたことか。
だけど、今、脳裏に浮かんで離れないのは勇者の幼なじみというポジションにあったはずの『アイリーン』という存在のことだ。
誰のことなのだろうか。
たしかに、勇者が旅に出る際、彼の古くからの仲間たちは彼との別れの瞬間をひどく惜しみ、そして激励を送っていた。
もしかしたらその幼なじみの存在もその中のひとりだったのかもしれない。
彼を想って泣いた女の子が何人かいたという描写もあったから、きっとそうなのだと思う。
それでも『アイリーン』という名前は作中に一文字足りとも登場することがなかった。
書籍を閉じたと同時に、この上ない絶望感でいっぱいになり、目の前が真っ暗になった。
わたしは物語のすべてを覚えている。
何度も何度も読んだのだから。
完結はしていないにしても、最新刊までは隅々まで完全に熟知している。
『アイリーン』という存在以外は。
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