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落とし穴
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「もうそのくらいにしときなはれ」
屋台の親父の声が、耳の中で駆け回っている。
周平は押されるように、山手線の電車に押し込められている。中国人の観光客の声が耳を突き刺す。車窓からはM商事のガラス張りのビルが見えている。周平はここ数日、同じことを繰り返している。環状線をぐるぐる回っているのである。何かが見えてくるはずだ。あの日の記憶!
あの日は、ある公団の理事の接待で、銀座の料亭に取締役と並んで出席した。この人は変わった人で、車が嫌いで帰りはいつも電車に乗る。取締役は、他の理事と2軒目に向かうが、この人はここでいつも帰る。でも、この公団では古くから地盤を持っているので、周平が道ずれになる。
「こんなあほな奴らが、日本を動かしとる」
そういうこの人は嫌いではない。昔は学生運動の活動家で旗を振っていたと思いだしながら言う。
品川で一緒に降りて見送りをする。それから確かに、走ってきた電車に乗り込んだ。その日は、ビールを挨拶しながら2本ほど飲んだだろう。それからホステスに勧められて、水割りを3杯くらい空けたくらいである。その程度の接待商談で酔うことはない。ここで記憶が一旦切れてしまっている。
「ネクタイどうしたの?」
その声にハッとして目が覚めた。周平は首元に手をやったが、確かにネクタイがない。スーツの上着も着ていない。慌てて、ズボンのポケットに手をやる。財布は残っている。
「酒乱かいな?」
後ろから声がかかる。
「追剥にあったの?」
カウンターの中から少女の声がする。
「いや こいつは詐欺師や!」
「たとえば、街に徘徊するメンフィスト、おい魂を売らんかや」
やたらと周りが騒がしい。
「お店を間違えたのかした?」
「いあ間違えない詐欺師やぞ。詐欺師らしかぬ風貌、だから詐欺師になれる」
屋台の親父の声が、耳の中で駆け回っている。
周平は押されるように、山手線の電車に押し込められている。中国人の観光客の声が耳を突き刺す。車窓からはM商事のガラス張りのビルが見えている。周平はここ数日、同じことを繰り返している。環状線をぐるぐる回っているのである。何かが見えてくるはずだ。あの日の記憶!
あの日は、ある公団の理事の接待で、銀座の料亭に取締役と並んで出席した。この人は変わった人で、車が嫌いで帰りはいつも電車に乗る。取締役は、他の理事と2軒目に向かうが、この人はここでいつも帰る。でも、この公団では古くから地盤を持っているので、周平が道ずれになる。
「こんなあほな奴らが、日本を動かしとる」
そういうこの人は嫌いではない。昔は学生運動の活動家で旗を振っていたと思いだしながら言う。
品川で一緒に降りて見送りをする。それから確かに、走ってきた電車に乗り込んだ。その日は、ビールを挨拶しながら2本ほど飲んだだろう。それからホステスに勧められて、水割りを3杯くらい空けたくらいである。その程度の接待商談で酔うことはない。ここで記憶が一旦切れてしまっている。
「ネクタイどうしたの?」
その声にハッとして目が覚めた。周平は首元に手をやったが、確かにネクタイがない。スーツの上着も着ていない。慌てて、ズボンのポケットに手をやる。財布は残っている。
「酒乱かいな?」
後ろから声がかかる。
「追剥にあったの?」
カウンターの中から少女の声がする。
「いや こいつは詐欺師や!」
「たとえば、街に徘徊するメンフィスト、おい魂を売らんかや」
やたらと周りが騒がしい。
「お店を間違えたのかした?」
「いあ間違えない詐欺師やぞ。詐欺師らしかぬ風貌、だから詐欺師になれる」
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