夢追い旅

夢人

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命綱

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 8時を20分過ぎた頃に、マキが遅れて来るのは当たり前というような顔で、ホテルの最上階にあるレストランに入ってくる。彼女とは、何度かこのホテルに泊まっている。その時に、マキの方から取締役の彼女であると告白されている。その頃はまだ舅の娘とは結婚していない。その当時会長のお手付きだった彼女を、舅が口説いて、会長のスパイとして使っていた節がある。
「まさか、あんたが鈴木の娘と結婚するとは思わなかったわ」
 マキはこのレストランをよく使ってるらしく、
「いつもの」
と言うだけで、ウエイターが食事の準備を始める。
「そろそろ私も引退ね」
「いくつになった?」
「女に歳を聞くものじゃないわ。30歳になる。秘書課では2番目の古参」
 ワインが運ばれてくる。マキは酒が強い。いつも一人で1本空ける。
「最近彼氏を変えたらしいね」
 思い切って切り出す。彼女にはストレートがいい。
「私の秘書課にも、スパイを飼ってるのかしら?今度は社長」
「これはまた?」
「会長も皺いし、取締役もね。私約束守らない人は嫌いよ」
「何か約束してたんだ?」
「功労金でクラブを買って貰う約束だったのになあ、契約不履行よ」
「それを社長に挿げ替えたわけだ」
「それもある。でもあんたも調べていると思うけど、今度の戦いは会長は不利よ」
「独自の情報があるわけだ」
「鈴木も最近は会長の信用がもう一つ薄れている」
「柳沢開発部長が1歩リードと言うことだね」
「どちらに転んでもいいように、もう1本命綱掴んでおかないこと?」
 確かに今の流れは不可解だ。
「ということで部屋をとってあるわ」




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