夢追い旅

夢人

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いわく

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 どうも腑に落ちないことがある。あの合理的な発想の旗手社長が小林には歯切れが悪い。ケイ君の調査書もSハウスの報告も入れている。それなのに今回も何の明確な処分がない。
 わざわざ総理の私設秘書に周平が届ける記事をミーに頼んで、帰りにお返しで彼女の常連のスナックに誘った。ミーもカオルのことがあったので飲みたい気持ちを抑えていたのだ。
「飲みだけだよ」
「分かってる。でも団長とはこれからどうするの?」
「伯母になるな」
「複雑」
 マスターがミーにブラデイのロック、周平にはビールの小瓶を抜く。マスターはこちらが話しかけない時は空気になりきる。
「前から気になっていたんだが、旗手社長と小林にはどういう関係があるんだ?」
「聞いてる通りじゃない?」
 軽く流す。
「そうは思わない」
「仕方がないな。でも社長に知られたら周平首になるかもね」
 ミーはブランデイを飲み干して話し出す。
「もともと私が男だったときから小林はある店の常連だったの。この店は今のママもいた店だったけど、まだ男の子が手術代を稼ぐ店で有名なの。初めてそこで女になった時の最初の客が小林だった。足らない金は小林に援助してもらった。小林の女だったの。幻滅した?」
「いや」
 それぞれが重い歴史を背負っている。伯母のことが頭をかすめた。いずれミーのように団長に告白しなければならない時が来る。
「その小林が紹介してくれた銀座の店に社長を連れてきて来たの。そしたら社長が私に熱を上げてしまって、結果小林が私を譲ったことになっているの。社長は初めて女を知ったと大興奮だったの」
 男と女、窺い知れない世界があるものなのだ。











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