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危機8

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 リーの出現で中央で混乱が起こる。汎王の騎馬隊が丘から方向を右側に変える。茉緒が手を上げて丘の柵の中に戻されていた鉄砲隊を前面に押し出す。茉緒は下忍を連れて馬に跨りリーを見つけて走り出す。リーはまだ現在の状況が見えていない。下手に中央に突っ込み過ぎると取り囲まれてしまう。
 汎王はゆっくり後ろに下がり始めた。ちょうどリーの隊がぽっかり空いた穴に吸い込まれつつある。汎王の後ろにはまだ後詰の1千の兵が控えている。茉緒の合図で下忍が馬から火薬玉を投げる。それで空いた道を中央に向かってひた走る。ようやくリーの騎馬隊の背中が見える。2百騎ほどが突き抜けて走ってきたのだ。歩兵はまだこの草原に現れていない。
 茉緒は空に向けて火薬玉を投げる。下に落ちればリーの騎馬隊に当たる。空で爆発したのを敵も味方も見上げている。リーは気づいたのか半円を描いて戻ってくる。それに合わせて茉緒の後ろから鉄砲隊が追い付いてきている。
「リー和寇はまだ後ろに殿がいる。下がって陣を構えろ」
 中央の草原の入り口まで陣地を戻したことになる。汎王も慌てていない。騎馬隊を後ろに下げて鉄砲隊を前面に持ってきた。リーのそばに馬を寄せる。
「これでもまだ兵力は半分だ。それより造船所は?」
「小競り合いはあるようですが和寇の本隊はまだなようでした」
「ここからアユタヤに入れないなら船でそちらに向かうだろうな」
 だが今の数なら押してくるだろう。汎王は下がってその横に梨花が来ている。梨花が来たというより汎王が下がったということらしい。騎馬隊が下がり鉄砲隊が前に出てきた。
「相手次第と言うことだ」
 茉緒は下忍を呼ぶと、
「あの崖まで走れ。もし和寇船に兵が戻るようなら狼煙を上げろ」
 引き上げたら茉緒は全力で造船所に戻らないといけない。押してくる来るなら守り切るしかない。
 陽が落ちてリーの歩兵がようやく陣に揃った。汎王は暗闇の中での戦いは避けるだろう。数で勝るのでゆっくり押してくるだろう。逆に茉緒が闇を利用するという方法があるが、今は守りに徹するしかないのだ。アユタヤはこれ以上援軍を期待できない。





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