けもの

けもの吠える11

　狗と鼠が走り出すと修験者が四方から現れてくる。狗が飛びかかってくる修験者を切り払っていく。すでに1刻を東側に向かって走っている。後ろに修験者が５０人追いかけてきている。矢を射るとその修験者は遅れて行く。狗の背中も鼠の背中にも矢が刺さっている。
「鼠走れるか？」
「私は走るしかないくノ一です」
「いや、戻ったらムササビの子を産むのだ。ここから北に向かう」
　狗は昔走ったことのある谷に入る。この川は蛇行しながら後から逃げた狐達の尾根道の山に向かっている。さらに１刻走ると後ろから来る気配はなくなった。足を止めて互いの矢を抜く。鼠はもう走るのは限界なほど血を失っている。狗は鼠を背負って走り出す。
「昔お前の小さい時によく背負って走ったな？あまり重くなっていない」
　鼠は拾われてきたのは狐のさらに２年後だった。狗がお婆に言われて痩せ細っていた赤ちゃんを洞窟に連れ帰ったのだ。走りは狗が教えた。その時茂みが動いた。
「ムササビか？」
「胡蝶に謀られました。爆発の後空を飛んで逃げる我らを見つけてこの岩山に追いつめられました」
「どれほどいる？」
「2百はいるとか？」
「ムササビは鼠を背負って港まで走るのだ。お前たちだけでも子をなして生き抜くのだ。鼠はもう血が抜けすぎている」
　それだけ言うと狗も走った。だが狗も同じだけ血を失っている。半刻走ると戦いの最中に出くわす。だが状況を見ただけで最後と分かった。狐を囲んで下忍たちが戦っているが、すでに半分の１０人も傷だらけだ。京之助が３０人ほど切ったようで顔が蒼白になっている。
「もうお終いよ」
　胡蝶が平然と言い放つ。まだ修験者は百人ほどが残っている。胡蝶の呪いの棒剣が飛ぶ。まるで鳥のように思い通りに飛ぶ。これも傷だらけで膝をついている蝙蝠の胸に突き刺さる。
「止めろ！」
　狗が立ちはだかった。
「次は狗か？」
　呪いが出て棒剣が飛び出す。͡この棒剣が飛んで来たところに京之助が飛び込む。京之助の胸を貫いている。