冥道

夢人

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陥穽1

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 田町の駅を降りてレインボーブリッジに麓にある会社に戻ろうととぼとぼ歩いている。小さな漁船がひしめくあうように並んでいて、オレンジ色の夕日が何となく足を止めてしまう。この会社に入ったのは5年前だ。降ってわいたような自分には相応しくない幸運にこわごわ飛び乗って単身東京に出て来た。ちょうどバブルの終わりの頃だ。本社は銀座にあった。土地の融資をひたすら続け会社は1年で日本で純利益で9位に上り詰めた。
 私は僅か2年で役員待遇の審査部長に就任した。系列会社や関連会社の融資が怒涛のように押し寄せて来る。それぞれが圧力をかけてくる。銀行出の私にはこれはまともな融資でないと感じていた。前の審査部長は本社の生え抜きで言われるままに3年間決裁の判を押し続けていた。今の融資は利息込みの繋ぎ融資ばかりなのだ。これを貸さなければ不良債権になるのだ。否決することができないものばかりだ。そして本社オーナーの未公開株事件を皮切りに日本が同時にバブルに陥ったのだ。
「私はどうすればいいのですか?」
 その頃唯一話が出来た銀行から転職してきた社長に問いかける。
「生え抜きたちはいいところばかり食い散らして本社に戻る。残されるのははみ出し者か外人部隊だけだよ。辞めさせても貰えないさ」
 この言葉ばかりが蘇ってくる。
 すっかり陽が落ちてこんな大都会なのにまるで寂しい漁村のような風景だ。ここに座り込んでもう2時間が過ぎている。私は無意識に携帯のボタンを押す。私はせめてもの慰みのように融資した物件を見て回っている。見たこともないのだ。8千億もの融資を抱える審査部長の姿がこのざまだ。
「遠くまで来すぎた」
「直帰ですね?判は翌朝で急ぎませんから」
 私の直帰はもう日常のようなものだ。彼女ははみ出しもので本社に帰れない唯一の私のスタッフだ。当時3000人いた社員が今は300人しかいない。
 私は分厚いファイルを入れた鞄を重石のように立ち上がる。もう影の映らない時間だ。駅までの道を戻り細い道に曲がる。ここには今でも漁師たちが住んでいる街がある。その一角に大きな日焼けした提灯の掛かった店がある。時代屋という名前も古びている。本社がここに移って来た1年前から通い詰めている。
「いや今日も早いね?」
 すっかり常連になっている。声をかけたのはママだ。銀座でホステスしていたと言う変わり者だ。65歳の猟師の親父とこの店を25年も続けている。55歳だが35歳位にしか見えないから化け物だ。噂ではここの客と何度も騒ぎを起こしている化け物だ。
「ごりの唐揚げはどうだ?これは昔からある魚だ」
 親父のカウンターから声がする。




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