冥道

夢人

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陥穽7

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 新宿を出た時は快晴だったが3時に着いた時は甲府は大雨になっていた。駅前で遅めの昼飯を食べ案内所でビジネスホテルを決めた。離婚してから旅行に出たこともなく休日はごろごろ寝ていたので普段着がなくスーツ姿にネクタイをせずに出て来た。鞄には月曜日から面接する社員の履歴書のコピーとアンケートを入れている。
 ぶらぶら歩いてホテルに寄ってチェックインする。ホテルからのオリオン通りを確認して真っ暗になった街に出た。案内所ではオリオン通りというのは昔ここにオリオンパレスという映画館があったからだと説明を受けた。そう言えば子供の頃祖父によくこの映画館に連れて来てもらっと言っていた。すでに今は映画館はなくなり名前だけが残っている。
 夢の中で見たオリオン通りの入り口に立った。ずいぶん見覚えのないビルや店が出来ている。だがオリオン通りという看板は変わらない。昔はこの時間には店の前に行列ができていたはずだが。通り過ぎてしまったのか。引き返してもう一度ゆっくり見て行く。あった!記憶にある暖簾が日焼けして文字が見えなくなっている。
 暖簾を潜ると中は立ち飲みではなく背の高い椅子が据えられている。だがカウンターはそのままだ。客は誰もいず白髪混じりの女性だけが俯いて煮炊きをしている。おばんざいの皿が並んでいる。
「お酒下さい」
「はい」 
とカンターにグラスと銚子が並ぶ。
「松七五三聖子さんのお母さんですね?ずいぶん前に寄せてもらいましたが」
 驚いたように顔を上げたがすぐに俯いた。目の前にできていたいわしの煮魚を頼んだ。ようやく年配の客が入ってきてビールを注文する。常連らしく小皿が出た。板前の男性も従業員の姿もない。
「娘さんは元気ですか?」
という問いに隣の客が答えた。
「娘さんは大学4回生の時に亡くなったさ」
「へえ!」
 私が訪ねて来た1年後だ。聖子は大学には一度も顔を見せなかった。だがそういう私も就職活動でほとんど授業には出ていなかった。その年は空前の就職難だったのだ。私は100社ほど回り晩秋に補欠で地方銀行に決まったのだ。同期の友は実家の関係の会社に入った。だから聖子の話題も出なかったのだ。
「イランの領事館から死亡の通知があったけど死体は帰ってきていないので私は信じていません」
 小さな声だがしっかりと言った。私は酒を5本飲んで10人ほどの客が帰った後、聖子の母からお参りをしてもよいと言われて2階に上がった。彼女は暖簾をしまって2階の聖子の部屋に案内した。仏壇はなく生活感のある部屋で今にも聖子が笑って出てきそうだ。机の上に花瓶に花が飾って会って聖子の写真が置かれていた。大学の正門で写った写真だ。私がここに置いてきた手紙が机の上に残っている。まるで時間が止まったようだ。
 私は黙ってあの頃の若い聖子をじっと見つめていた。入学当時は長いお下げだったのだ。その彼女がたった3年で活動家になるとは思ってもみなかった。彼女を変えたのは同じゼミのあの男だ。
 何が彼女に起こったのだ。










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