咎の園

山本ハイジ

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人工楽園にて(11)

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 旦那さまが戸渡さんに、私へ冷たい水を一杯よこすようにと命令します。それから旦那さまは私の頭をそっと撫でて――明日はゆっくり休みなさい。明後日、私の手でエデンの奴隷の印を押すからね。烙印が赤いうちにお前を買いたいという客もいるんだよ、と。
 翌日は一日中、遊んで過ごしました。そして私が奴隷になった日。旦那さまが私の部屋で、金属でできた大きなはんこのようなものをライターで熱します。私はショーツ一枚だけを穿いた姿でベッドに寝て、怖々とその様子を眺めていました。奴隷に押される烙印については説明を受けています。けれどいざそのときになると、予防接種の注射を刺される直前以上の緊張に襲われました。烙印は見ての通り、左腿に。押された途端、一瞬息がとまりましたよ。何十秒か経ってから離されると、薔薇の形に焼けた皮膚が剥がれます。
 旦那さまが私の真っ赤な薔薇を指の腹でなぞり、口づけを落としてからかんたんに手当てをしてくださいました。火傷がひりひりしているうちに、私は紐を締めきったいつものレザーのコルセットの上にガウンを羽織った格好で旦那さまと、旦那さまの部屋でお待たせしているらしいお客さまのもとへ連れ立ちました。
 旦那さまいわく私を水下げしてくださるお客さまは、旦那さまにも快楽のお供をするようにご要望しているとのことです。なにをすればいいのか、お客さまはどんな方なのか不安はたくさんありましたが、隣の旦那さまの存在に安心感を得ることができました。旦那さまのコレクションで埋め尽くされた、室内自体がオブジェのような部屋へ通ります。笹沼夫人、夫人の夫君、ご子息がお茶を楽しんでいました。
 夫人は一昔前の洋画などで貴婦人がよく身に着けている、やや肩が張って見えるデザインの上品なスーツを着て、造花を飾ったつばの広い帽子をかぶっていました。――お久しぶり、と微笑みかけてくれたあと、夫人は私たちもお茶の席にまざるようすすめます。さほど広くはないサイドテーブルをかこんでいる椅子の空きは一脚だけでした。夫人に言われて、例の少年は父君の膝の上に移動します。戸渡さんの教育で控え目になった私は、立っていますと遠慮しましたが夫人は――いいの、いいの。そっちのほうがやりやすいから、と。
 夫人の夫君がご子息の半ズボンの前を開き、陰茎を取り出すと愛撫をはじめました。私はもうたいして驚きもせず、少年が尻であたためていた席につきました。控えていた使用人が、飲みかけが入ったままのティーカップにお茶を注いでくれます。旦那さまには新しいカップとお茶が用意されました。
 そのまましばし歓談します。その会話のなかで、少年の父君は実の父君ではないことを知りました。夫人が茶菓子のチョコレートをつまみながら――影次、もうリンボにはおりてみた? あたしね、夫との子供を、夫が見ている前でリンボで堕胎したの。夫は直前まで本当におろしてしまうのかと悲しんでいたけれど、あたしの中から自分の種で実った胎児が掻き出されるのを目にすると泣きながらも手淫して、放出してしまったわ。……夫君は赤面してうつむいてしまいました。夫人が夫君の手で陰茎をふくらませているご子息を指差して――で、普通に産んだこの子の種は清十郎さんのものだったりするわ、と。だいぶ前に夫人が私と少年を兄弟と称したのは、つまりそういうことだったのです。ふいに、夫人はため息を吐いて――ああ、あのおろした子、食べておけばよかったわ。なんで思いつかなかったのかしら、と残念そうに呟きました。
 そのうち、父君とご子息は旦那さまのベッドに移動します。夫人も私に口淫をするように求めてきました。――お手並み拝見させていただくわ、とシガレットケースから出した煙草をくわえて。そばの席についていた旦那さまが使用人よりも早く、マッチを擦り夫人の煙草に火を点けました。
 椅子からおりて夫人の足下にひざまずき、恐る恐るスカートをまくらせてもらいました。夫人は、ショーツを穿いていませんでした。夫人が自ら座っている椅子を斜めにずらし、私の体がサイドテーブルの下から出られるようにしてくれます。――四つん這いになって、舐めてちょうだい。その注文通りに、慰安婦たちと戯れることで自然と訓練されていた女陰の愛し方で、夫人に奉仕しました。
 夫人は潤ってくれました。でも、濃厚なにおいを発する夫人の女陰から愛液を溢れ出させている源泉は私の舌にではなく、この状況にあったのだと思います。ベッドでは不義の子に抱かれて、夫君が喘いでいました。――まったく、ひどい妻と息子を持ったものだよ、ああ。……夫人はそれに同調するように鳴いています。――清十郎さん、影次に挿入して! と、夫人が呼吸を荒げながら申しつけました。
 旦那さまが席を立って私の背後に廻り、膝をつく気配を感じます。ショーツを腿までおろされて、そのまま抱かれました。この家族の交わりの様子は使用人がカメラに収めていました。……これが私の初仕事です。ではこの辺で。今宵は少し長くなってしまいました。次回は趣向を変えて、奴隷生活のなかで接してきたお客さまとの交わりの様子を、いくつか取り上げてご紹介したいと思います」
 立ちあがり、舞台をおりて原稿を観客たちに供してから、サテュロスに口づけを。それから舞台の椅子に座るためにずらしたショーツを直さないまま、客たちと下品に交わる。解放されてから、夕食をともにした客が帰宅の様子だったので、広間を出て大理石のエントランスで見送った。
「相手、してくんない?」
 見張りの使用人が開けたドアから客が外界に消えて、媚びて振っていた手をとめてから、かけられた声に振り向く。男はスーツをさらに乱した姿で、傷んだ金髪を適当に手で整えている。とても、議員の息子だとは思えない。
「……リンボで?」
「ああ」
「風呂入ってからのほうが」
「いいよ、別に」
 口の中には客たちの分泌液と糞尿の味が残り、肌も髪も汚れていて洗い流したかったが相手は一応客だ。注文に素直に従い、リンボへと向かう。のぼり階段の隣、無機的な鉄のドアはエデンの中でも異様な雰囲気を漂わせていた。開ければ、ノブにぶらさがるlimboと彫られたプレートが揺れる。
 暗い階段をおりて、呻き声の響く檻をいくつも通り過ぎた。
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