咎の園

山本ハイジ

文字の大きさ
38 / 49

恋の罪(17)

しおりを挟む
 ロッキンホースバレリーナを履いて……厚底で、幸いにも走りづらそうな靴でした……エデンを出て、使用人が運転してくれる車に乗り込みます。街へ行き、ひっそりとした、まだ日が落ちる前なのにどこか薄暗く感じる裏通りに入りました。彼女はずっと、車窓から外を眺めていました。……やがて、見つけづらいであろう小さな飲食店の前で車はとまります。おりて、中に入ると狭い店内は、孔雀の羽根となんらかの部族の仮面などで飾り立てられていて、怪しい雰囲気に満ちていました。
 現れたウエイターが抑揚のない声で挨拶してくれたあと、関係者以外立ち入り禁止といったふうのドアを開けて、お客さまと待ち合わせをしている地下のテーブル席へと案内してくれます。リンボを連想してしまうような階段をおりると、室内装飾は一階とほとんど変わりありませんがずっと広い空間の真ん中に、一卓だけ置かれているテーブルにはすでにヴィヴィアン好きの男性のお客さまと、男装の笹沼夫人がついていました。
 このお客さまと夫人はお友だちらしく、私たちはダブルデートのお誘いを受けていたのです。夫人はアーマーリングをした手をあげて――やあ、二人ともかわいいね。似合うじゃないか、ヴィヴィアン。と、微笑を向けてくれました。そのまま私たちも席につきます。私はお客さまの向かいに、伊織は夫人の向かいに座って、それぞれかけられる冗談まじりの求愛の言葉に応じていました。
 そのうち、地下の厨房へ引っ込んでいたウエイターの手で料理が運ばれてきます。幾何学模様のテーブルクロスの上に置かれた葉の皿には素揚げしたタランチュラとサソリ、芋虫が盛られてありました。瞬間、表情が凍った伊織を見て、夫人が――なんだい、普段もっとひどいものを口にすることもあるだろう? 我々の文化にはあまり馴染みがないというだけで、こんなの国によってはただのおいしいスナックだよ。と、からかいます。
 私は慣れています。実はこの店、何度か夫人に連れられていて、初めてではありません。サソリを手に取り、口に運ぶと伊織の視線を感じます。少ししてから、恐る恐るといった様子で伊織も食事をはじめました。味はエビかカニに似ていて、悪くはありません。しかし、歯触りが気に入らないのでしょう。噛むたびに彼女は眉間に皺を寄せていました。
 それから、羊の脳のスープ、牛の陰茎と睾丸のソテー、アリの卵のピラフ、飲み物とデザートには蛇の生き血とそれを使った真紅のゼリーが供されました。お客さまのおごりですから、どれも残せません。食事をおえると、伊織はトイレに行きたいと言い、立ちあがりました。単純に、気分が悪くなってしまったのだろうと思いましたが、ウエイターにトイレの場所を聞いた彼女は一瞬、私に明らかに意味ありげな目配せを送ってからテーブルを離れていきます。
 しまった。この地下には厨房以外、ほかに部屋がないことに気づいていたのか。目配せの意味をわかっていないマヌケのフリをしようか? 携帯にメールが届くかも知れないが、お客さまのお相手をしているのだから見れなかったことにして。……あとで彼女からすごく怒られるだろうな。いや、そもそも店の前には使用人が待機しているのだから無謀だろう。などと悩んでいると、夫人から思わぬ助け船が出されました。――俺も行きたい、と。一階に一室しかないトイレを目指して、階段をのぼっていった伊織の後を夫人が追っていきます。これでは、もう逃げるだなんて不可能です。
 しばらくすると、夫人に肩を抱かれた伊織がおりてきました。伊織は口元に手を当てて、うつむいていました。夫人はにやにや笑っています。普通に用を足せたとは思えません。どうやら、伊織の気分はよけいに悪くなってしまったみたいです。
 それから店を出て、待たせてあった車に乗り、みんなで駅前へ行きました。私はヴィヴィアン好きな方と、伊織は夫人と過剰なスキンシップを取りながら人々が行き交うなかを歩きます。時折、お客さまが私のピーコートの裾をまくるという悪戯をしました。元々感じていた肌寒さと通行人の視線が強くなります。夫人もこのご友人の真似をしていました。
 私たち兄妹、丈の短いコートの中はランジェリーしか身に着けていないのでした。そのまま駅ビルに向かいエスカレーターや、商品が並ぶ棚の前でお客さまから合図されるたびに屈んだりします。背後にいたまじめそうな青年にショーツを見せてからかったり、唇を噛んで……感情を隠さずに仕事をしている彼女の姿は久々に見ます……私と同じことをしている伊織を見たりしていたら、性器や血を口にしたせいもあるのかショーツの前を張り出させてしまいました。
 そして酔狂でプラットホームに向かって電車に乗り、満員のなか、お客さまの気をスラックスの中で遣らせます。おりた先ではとくになにもせずまっすぐ帰りの電車に乗り、そこでは私と伊織が抱きあい、嫌らしく愛撫しあい、深い接吻を交わしました。ロッキンホースバレリーナの脚を互いに絡ませて。
 十分衆人の視線をいただいて、ヴィヴィアン好きのお客さまが趣味を満足させると、駅前の駐車場に戻ります。使用人を待たせていた車に乗りました。紛れられそうな雑踏に、遠くにいる使用人。ぶらぶらしていたあいだこそ絶好のチャンスだったのでしょうけれど、お客さま方は私たちを片時も離してはくれませんでした。
 私たちはそのまますぐには帰らず、車内で窮屈に乱交をはじめました。食事してから今までショーツに硬いふくらみを生じさせていた陰茎を夫人が器用に扱き、とくに亀頭をしつこく弄り廻すものだから、私は所謂男の潮吹きをしてしまいました。――俺のズボンが汚れてしまったじゃないか。なんて淫乱な娘だ、と、この美男子は相変わらず私を女の子扱いしてくれます。淫乱さを尻を叩いて罰していただきました。再び達してしまいます。
 ……伊織の前でアブノーマルなことで嬌声をあげ、素で乱れてしまっていますが、彼女がエデンに来てもう一年近くが経とうとしています。彼女の私に対する信頼はそうかんたんにヒビは入らないだろうとわかり、大胆になっていました。少し怪しいところがあるくらいで、私という唯一の精神的支えを捨てられるわけがないですからね。それに、帰りの電車に乗っているときに気づきましたが、伊織も濡れています。今は車内で弄ばれて、さらに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...