一般ノームに生まれ変わった俺はダンジョンの案内人から成り上がる

山本いとう

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10.風呂

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ステータスの確認が終わったので、俺は労働に参加する事にした。
アナグマ族の仕事は、ここ下層にあるダンジョンから採掘される、魔鉄鉱石を中層に運ぶ事である。
中層には、魔鉄鉱石を納める倉庫があり、運んだら運んだ分だけウルが手に入る完全歩合制である。
アナグマ族と魔鉄鉱石を荒いロープで出来た網で背負い、徒歩で縦穴状になっている坂を登り、中層に運んでいる。
俺から見れば、何とも原始的なやり方のように思えた。

「やっと起きたのね。ノームはそんなに眠らないとならないの?」

「モ…」

そんなに長い時間寝た気分ではないのだが、フマからすれば俺は眠りすぎのようだ。

「魔鉄鉱石ならダンジョンの入り口にあるわよ?」

網がないのか、魔鉄鉱石を両手に抱えるフマが縦穴の下の方を見る。下の方にダンジョンがあるよと言いたいのだろう。暗い。
灯りは一切見えなかった。怖い。

「モモ?」

マジで? この暗闇の中に行けと俺に言ってるの? とフマに問いかける。
フマはジト目で俺を見てくる。
耐えきれなくなった俺はフマの持ってる鉱石をぶんどると、上に行くぞとジェスチャーした。
この暗闇の中、フマさん無しで働くのは俺には不可能である。

「ノームって不便ね…」

灯りのない社会では、夜は働かないのだと反論したい。切実に。
そこではたと俺は気付く。
もしかして、灯りをつくる仕事は、夜に仕事をするためにあるのだろうか?
仕事を増やすために仕事をする…?
ということは、仕事をすればするほど、仕事は増える?
うっ。頭痛が痛い。
俺は直ぐ様考える事をやめた。
夜、みんなが仕事を出来るようになるフマの存在は尊い。
夜、みんなが仕事を出来るようになるフマの存在は尊い。

よし、危なかったな。

中層の倉庫に魔鉄鉱石を持ち込むと、大きな秤の直ぐとなりに座っているアナグマ族が重さを計っていく。

ウルの引換券が差し出され、フマが受けとる。
鉱石が1ウルに満たない時、ウルの引換券を受けとるようになっているのだ。
ウルの引換券はそのまま通貨としても支える。
両手に抱えられるだけの量なのだ、当然鉱石は少なかった。

アナグマ族の使っている網目の荒い綱か何かがあれば、効率は全然違うと思う。
俺は、巨大天秤の横に座るアナグマに、網を指さしして自分に寄越せとジェスチャーする。

「貰えないわよ大食らい。もっこはアナグマ族の大事な資産なんだから」

「モッモ?」

「もっこよ」

網はもっこというのか。とは言え、網がないままだと不便だ。なんせ手取りがめちゃくちゃ少なくなる。
昼になって安かったら中層で買ってきてやろう。

というか実際に働いてみて思ったのだが、鉱石運びは完全に肉体労働だ。
魔法スキルを育てたい俺向きではない。
フマも体格的に合ってない気がする…。
報酬も時給に戻すとあまりよくない。
これなら、本格的にルッツの所に潜り込んだ方が良いのではないだろうか?
椅子にさえ座らなければ、何とかなるし。
そう思いながら、鉱石を運び下層と中層を行き来していれば、やがて縦穴の空が白やんできた。
朝だ。

がらんがらんと汚い金属の音がなり響いて、アナグマ族が中層の倉庫前に集まる。
見れば俺もフマとアナグマ族もみんな薄汚れている。

「ぐーぐまぐま!」

「「「ぐまぐま!」」」

本日もお疲れ様でした的な挨拶だろうか、アナグマ族は思い思いの方へと解散し始める。

「あまり儲からないのね…」

「モモモ… 」

勘定をしながら呟くフマ。
寝ていて殆ど働いていない俺の稼ぎは雀の涙である。
俺達と一緒に働いていたアナグマ族が、ついてくるようにとジェスチャーしてきたので、一緒に同じ方向へといく。
やがて、たどり着いたのは窓から湯気を吐くキノコの形の建物だった。

アナグマ族はウルの引換券を受付に渡して入っていく。
フマと目を見合せどうした物かと思っていると、受付の蜘蛛人の女性に話かけられる。

「銭湯だよ、2ピリウルだ。入っていかないのか? 鉱石の運搬をしてたんだろう?」

ピリは十分の一を指す。
ウルの引換券は10枚で1ウルだから、引換券2枚で銭湯に入れるのか。

「お金を使うのはちょっと…」

フマは銭湯に入りたくないようだが、俺達は一晩働いて汚れているし、俺は久しぶりに風呂に入りたかった。
俺は自分で稼いだ分の引換券2枚を蜘蛛人の女性に渡して、フマを女性側の入り口へと押し込む。
精霊にきちんとした性別があるか知らないが、フマは女でいいだろう。多分。
フマの支払いですかんピンになった俺の分の支払いは、MP払いだ。
40MPをそのままマナの玉に変えて番台へと渡す。

「毎度」

マナ払いで問題ないようなので、俺はキノコの建物の男湯側へとスタスタ入っていく。
いや、入れてよかった。
アナグマ族でごった返した脱衣場を素通りして、服の見た目をしている身体部分を裸に変える。
精霊の服は見た目だけの飾りなのだ。
精霊の身体のレベルが低ければボロしか着れないが、精霊の身体Lv5となるとそこそこ立派な見た目になれる。
風呂場に入ると薬湯なのか、ツンとした匂いが漂ってきた。

「モモモ…」

辺りを見渡すと、湯船はあるが、身体を洗う所はなく、せっけんやシャンプーも見当たらない。
しかし、湯船に入る前の薄汚れたアナグマ族が並んで地べたに座っている所があった。
アナグマ族は疲れているのか一様に項垂れている。
俺もそこに並んで座ると、ガシッと突然現れた壁に囲まれて地面がゆらゆら揺れだした。
そして、脇からは薬湯が飛び出し、俺達はゴロゴロと転がされながら、ジャガイモのように洗われた。

「「ぐまま…」」
「モモモ…」

やがて揺れは止まり、壁は無くなる。
綺麗になった俺達は、皆ふらふらしながら湯船へと向かった。
湯船の温度は熱めだ。
ゆっくりと湯船につかる。

「「ぐま~」」
「モー」

──お風呂! お風呂!

久しぶりの風呂だ。
綺麗になった俺は一時の癒しを楽しんだ。


  ◆


「で、これからどうするのよ大食らい? 鉱石運びも悪くなかったけれど、あまり儲からないみたいだし」

風呂から出ると、フマが待っていた。
結構長く湯船につかっていたので、どこかへ働きに行ってないか心配になったが、フマはちゃんと成長しているらしい。

「モ」

俺は下を指差す。

「下層で働くの?」

「モ」

俺は頷く。
まぁ、働くというより下層にあるダンジョンの様子を見に行くんだが、言葉が話せないので、多少の相違はあっても仕方ないだろう。
鹿の人ブーマンさんによると、ダンジョンには俺達を比較的まともに雇ってくれるかもしれないダンジョンマスターという奴らがいる。

午前中はダンジョンに様子を見に行って、MPがきちんと回復すれば、中層でアナグマ族の使っていたもっこ? も買えるだろう…今のMPで買えるかな?

うまく行けばダンジョンマスターに雇っても貰える。
最悪なんかダンジョンで拾ってくるだけでも良いだろう。

俺はフマの手を引いて下層へと歩きだした。
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