19 / 32
19.今なら幹部
しおりを挟む「ひょっとして大食らいは、おいらのダンジョンを手伝いたいのかワン?」
察しの良いリッキーは俺の目的を見抜いたらしい。
尻尾をフリフリと揺らして、リッキーの目は期待に満ちている。
リッキー、俺はリッキーのダンジョンを手伝うつもりだったんだ。
本当だよ?
最初は無償でもいい、本当に手伝うつもりだったんだ。
でも世の中って不思議だよな。
リッキーの話を聞いたら、何だか手伝いたくなくなっちゃったんだ…。
不思議だよな。
俺は夢いっぱいで目をキラキラさせた二足歩行のシベリアンハスキーに、げんなりとした気持ちになった。
「今なら幹部になれるチャンスなんだワン。人手は居ないし、ウルの取れない日は給料もないワン。けれど未来の展望と仕事はたくさんあるんだワン」
幹部という響きは良い。
響きは良いんだが、リッキーの運営するダンジョン、いや、屠殺場に恐らくリッキーの期待する未来はこないだろう。
となれば、残るのは終わらない無報酬の仕事だけだ。
俺は、いっそ、壊れたおもちゃの兵隊たちを壊して回り、リッキーのダンジョンの未来を守ろうかと思案する。
兵力がなければ、リッキーの屠殺場は完成しないだろうから。
「スペードの7号がお気に入りワン? 気にいったのなら、稼ぎの安定した将来は、大食らいにも兵隊をつけるんだワン」
いや、ウルを消費するような部下は要らない。
その分のウルで精霊を雇って良いなら、考える余地はあるけれど。
…とりあえず一度働いてみるか?
幸いにも、今ならこのダンジョンにも希望はある。
長年の月日を経て、このダンジョンの恐怖は人々から忘れ去られ、冒険者は来るようになったのだ。
さっきリッキーの触っていた剣と斧の分の希望は、多分消えちゃっただろうけれど。
俺が頑張って、リッキーに何度も冒険者の来るようなダンジョンを作って貰えば良いのではないだろうか?
侵入者を殺さなくても、撤退させるだけでウルは手に入るんだろう?
リッキーの誘いは大きなチャンスなのかもしれない。
もしダメなら辞めれば良いだけなのだから。
「どうするワン?」
リッキーの運営方針を意思伝達のできない俺が変えられるだろうか?
厄介な事にリッキーは長年の経験で、自分の運営方針に大きな自信を持っているだろう。
一寸、俺は頭の中で勝算を考える。
濃密に詰まった俺の黄色の脳ミソを、マナが駆け巡る。
──俺の出した結論は
◆
「ねぇ。 入り口近くに居たあの子って、まだ助けられるんじゃない?」
「ダメだよフマ。魔女がどこで見てるかわからないじゃないか」
「でも、あの子まだ普通に話せたし、椅子との癒着も少なかったわ。そんなに時間はかからないと思うのよね。きっと消費する魔力も少なくて済むわ」
火と鳥の精霊フマは仕事もそこそこに、周りの精霊を見て回った。
ボクの止めるのも聞かずに。
その結果、まだ助かるような精霊を見つけて来ていた。
まるで、夜の不真面目だった大食らいを見ているようだ。
ボクだって助けられるなら助けたいとは思うけれど。
「フマ、ボクは目立つ訳にはいかないよ。みんなのウルを運ぶ係なんだから。君だって、今は仕事を優先すべきだよ。大食らいもジェスチャーで何か言ってたろう?」
「あいつが言いたかったのは、ここに居る精霊を助けて逃げろって事かもしれないじゃない?」
「…彼は仲間にそんな危ない事をさせるのに、どこかに行ったりしないよ。多分」
大食らいは、マナをいつまでも食べ続けてたし、普通じゃないかもしれないけれど、信用出来る精霊だと思う。
今は何処かに出かけちゃったけれど。
何処に行ったんだろうなぁ、大食らい。
ボクは不穏なフマと、何処かに行ってしまった大食らいを思い、淡く光る下層の天井を見上げる。
「ああ、思い出した。大食らいは慎重だって言ってたのは君じゃないかフマ。あれ? フマ? どこに行ったの?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる