一般ノームに生まれ変わった俺はダンジョンの案内人から成り上がる

山本いとう

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19.今なら幹部

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「ひょっとして大食らいは、おいらのダンジョンを手伝いたいのかワン?」

察しの良いリッキーは俺の目的を見抜いたらしい。
尻尾をフリフリと揺らして、リッキーの目は期待に満ちている。
リッキー、俺はリッキーのダンジョンを手伝うつもりだったんだ。
本当だよ?
最初は無償でもいい、本当に手伝うつもりだったんだ。
でも世の中って不思議だよな。
リッキーの話を聞いたら、何だか手伝いたくなくなっちゃったんだ…。
不思議だよな。
俺は夢いっぱいで目をキラキラさせた二足歩行のシベリアンハスキーに、げんなりとした気持ちになった。

「今なら幹部になれるチャンスなんだワン。人手は居ないし、ウルの取れない日は給料もないワン。けれど未来の展望と仕事はたくさんあるんだワン」

幹部という響きは良い。
響きは良いんだが、リッキーの運営するダンジョン、いや、屠殺場に恐らくリッキーの期待する未来はこないだろう。
となれば、残るのは終わらない無報酬の仕事だけだ。
俺は、いっそ、壊れたおもちゃの兵隊たちを壊して回り、リッキーのダンジョンの未来を守ろうかと思案する。
兵力がなければ、リッキーの屠殺場は完成しないだろうから。

「スペードの7号がお気に入りワン?  気にいったのなら、稼ぎの安定した将来は、大食らいにも兵隊をつけるんだワン」

いや、ウルを消費するような部下は要らない。
その分のウルで精霊を雇って良いなら、考える余地はあるけれど。
…とりあえず一度働いてみるか?
幸いにも、今ならこのダンジョンにも希望はある。
長年の月日を経て、このダンジョンの恐怖は人々から忘れ去られ、冒険者は来るようになったのだ。
さっきリッキーの触っていた剣と斧の分の希望は、多分消えちゃっただろうけれど。
俺が頑張って、リッキーに何度も冒険者の来るようなダンジョンを作って貰えば良いのではないだろうか?
侵入者を殺さなくても、撤退させるだけでウルは手に入るんだろう?
リッキーの誘いは大きなチャンスなのかもしれない。
もしダメなら辞めれば良いだけなのだから。

「どうするワン?」

リッキーの運営方針を意思伝達のできない俺が変えられるだろうか?
厄介な事にリッキーは長年の経験で、自分の運営方針に大きな自信を持っているだろう。
一寸、俺は頭の中で勝算を考える。
濃密に詰まった俺の黄色の脳ミソを、マナが駆け巡る。


──俺の出した結論は


        ◆


「ねぇ。  入り口近くに居たあの子って、まだ助けられるんじゃない?」

「ダメだよフマ。魔女がどこで見てるかわからないじゃないか」

「でも、あの子まだ普通に話せたし、椅子との癒着も少なかったわ。そんなに時間はかからないと思うのよね。きっと消費する魔力も少なくて済むわ」

火と鳥の精霊フマは仕事もそこそこに、周りの精霊を見て回った。
ボクの止めるのも聞かずに。
その結果、まだ助かるような精霊を見つけて来ていた。
まるで、夜の不真面目だった大食らいを見ているようだ。
ボクだって助けられるなら助けたいとは思うけれど。

「フマ、ボクは目立つ訳にはいかないよ。みんなのウルを運ぶ係なんだから。君だって、今は仕事を優先すべきだよ。大食らいもジェスチャーで何か言ってたろう?」

「あいつが言いたかったのは、ここに居る精霊を助けて逃げろって事かもしれないじゃない?」

「…彼は仲間にそんな危ない事をさせるのに、どこかに行ったりしないよ。多分」

大食らいは、マナをいつまでも食べ続けてたし、普通じゃないかもしれないけれど、信用出来る精霊だと思う。
今は何処かに出かけちゃったけれど。
何処に行ったんだろうなぁ、大食らい。
ボクは不穏なフマと、何処かに行ってしまった大食らいを思い、淡く光る下層の天井を見上げる。

「ああ、思い出した。大食らいは慎重だって言ってたのは君じゃないかフマ。あれ?  フマ?  どこに行ったの?」

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