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20.ボロボロの木箱を見つけた!

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リッキーのお誘いに乗った俺は、ダンジョンマスターであるリッキー自らダンジョンを案内して貰っている。
わざわざダンジョンのトップが動くその理由とは、悲しいかな、他に人手がいないためだ。
リッキーのダンジョンは洞窟型で、地面は不安定でゴツゴツしていて、歩きにくい。
所々に薄く発光している苔みたいなのがあって、視界が全くない訳ではないが、不便な程度にはほの暗かった。
俺はその苔らしき物を採ってみる。
すると、苔は光らなくなった。

「取ったら光らなくなるワン。ダンジョン苔は、ダンジョン内にある小さな魔孔から出る魔力を、光と栄養に変えているんだワン。魔孔から離したら意味ないワン」

「モ」

苔を元の位置に戻すと、苔はモゾモゾと動いて壁に張り付いた。
どうやら元に戻したと思ったが、魔孔からずれていたらしい。
苔が光を発し始める。
植物ってやつは異世界でも、元いた世界でも動きが気持ち悪い。

「アバターは問題ないワン?」

関係者になるまで俺は知らなかったが、地上世界と繋がるダンジョンとの往き来は、明確に制限されている。
レーベン川の畔の大樹という世界に、地上からの危険が入る可能性を排除するためだ。
ダンジョンには、自身を模したアバターのような物だけが入れる。
ダンジョンにアバターが入っている間、本物の身体はアバターに繋ぐ魔方陣に固定され、アバター状態で死ぬか、アバターがこちら側の世界に戻るスポットにたどり着かないと、魔方陣からは出られないようになっている。
アバターが死ぬと、魔力で作り直すそうだが、そのコストは元となった者の強さによって変わる。
さして強くないハズの一般ノームの俺だが、極貧のリッキーには、絶対に死なないように注意された。

「モモ…」

手を膨らませたり、萎ませたりして、俺はアバターの使い勝手を確かめる。
若干のラグはあるが、概ね本物の身体と変わらなく、スキルもかわりなく使用出来るようだ。
俺たちが移動に使うスポットは、壁にグルグル巻きの模様がついているそうで、俺は今さっき移動に使ったグルグル模様を眺めて確認する。
如何にも魔法的要素のなさそうなセンスの悪い模様だった。

「ここがおいらのダンジョンの入り口だワン。ほら、通路が狭くて長いワンねぇ。何でこうなってるか、大食らいにはわかるワン?」

リッキーのダンジョンは衰退したとは言え、構造は凶悪ダンジョンだ。
大人数の移動を困難にするために、出入口部分は狭く長くなっているそうだ。
リッキーは、そんなことを俺に得意気に説明してくるので、俺はげんなりとする。

「この通路のお陰でいざという時、大人数だと逃げるのが遅れるんだワン。構造体はたいしたランニングコストもかからないし、この仕組みはとても優秀なんだワン」

リッキーは深く、満足気に頷いた。
この二足歩行のシベリアンハスキー、なんというか、人への殺意マシマシである。
徘徊しているモンスターは、ボロボロのおもちゃの兵隊の残骸みたいな奴や粘体型のモンスターで、こちらを見かけると敬礼してくる。
モンスターは俺たちをダンジョン内の仲間だと認知している上に、上下関係を理解する最低限の知能もあるようだ。

「中の通路は広めにとってあるんだワン。いざ中に入れば、人間が大量に奥まで簡単に早く来れるようになってるんだワン」

ダンジョン内には、複数の分岐があり中の通路は広めにしているそうだ。
俺たちは薄暗いダンジョン内を暫く歩く。

「これがエリアを区切る通路だワン。さっきの入り口みたいに通路が狭く、長くなっているのが見えるワン?  この作りが味噌なんだワン」

「モ?」 

「入り口の仕組みを取り入れて、次のエリアからの退却を難しくしてるんだワン」

「モモ、…モモモモ(ダメだこいつ、早くなんとかしないと)」

幾つかの通路を越えると、俺たちは一つの小部屋にたどり着いた。

「人間たちがダンジョンに来る理由は幾つかあるワン、一つはモンスターが時々落とす魔石や素材。ダンジョンの素材は地上世界では希少なんだワン。そしてもう一つは、これだワン」

そう言ってリッキーは小部屋の真ん中にある物を指差した。
それは、リッキーの部屋にも置いてあった、ダンジョンコアを隠すための、椅子にも使えるおんぼろな木の箱だ。

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