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22.トラップ

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リッキーの説明でダンジョンの奥には、宝箱が点々とある事はわかった。
しかし、洞窟というのは方向感覚も掴み難いし、特徴的な地形や目印でもない限り、俺の目にはどこも同じ風景にしか見えない。
迷えば元の世界に戻れるスポットはあちらこちらにあるので、触れれば良いんだが、全く覚えられる気がしない。
地図は無いんだろうか…。

現代日本で、俺は地図のない不親切RPGなど聞いた事がない。
俺は不親切なリッキーの凶悪ダンジョンに憤った。
せめて道案内の矢印くらい置いたらどうなのだろうか?
このままだと全体像もわからないぞ。
俺は土魔法を使い、ダンジョンの壁を盛り上がらせると、何とかでっぱりが他の形に成ならないかと、魔法を操作する。

「ダンジョンの形を変えたいワン? 残念ワン。ダンジョンの構造は壊されても治るように保護されてるワン。少し変えても元に戻るんだワン。きちんと変える方法は今度教えるワン」

何という理不尽。
壊されても変えられても元に戻る、それがダンジョンか。
この時、俺はダンジョンに必須のある要素をリッキーにまだ聞かせれていない事に気づいた。
冒険者を苛立たせ、疲れさせ、危機に陥れ、時には即死させるあの要素が。

「概ね教えた所で、ワンワンワン。侵入者が来たワン」

突如リッキーが薄暗い天井を見上げて呟いた。
エスパー的な勘だろうか?
リッキーは侵入者を感知出来るらしい。

「多分小動物だワン。 入り口の方に行って様子を見るんだワン」

リッキーは近くのスポットへと手をかざすと、元の世界へと戻っていく。俺もリッキーに続いた。
転移した先は幾つかの転移陣の置いてある部屋だ。

「入り口はこの陣だワン。その前にこの腕輪を付けるワン」

リッキーは俺に古臭い腕輪を差し出してきた。

「気配隠しの腕輪だワン。気づかれにくくなるワン」

なんと、リッキーの差し出してきた腕輪は魔法の道具である。
仕組みはわからないが、ここは魔法の世界。
付与魔法の一種だろうか?
手持ちの付与魔法に気配隠しの魔法があるか確認してみるが、まだ俺には使えないようだ。
それとも、時間に制限のある付与魔法ではなく、永続的に効果のあるアイテムだろうか。
腕に腕輪を通して効果を確認するが、自分では何も変わった感覚はなかった。
腕輪をつけているリッキーの方向を見れば、存在感が薄れたように認識しにくくなっている。

「大丈夫みたいだワン。それじゃあ行くワン」

俺とリッキーは転移魔方陣で、ダンジョンの入り口へと飛んだ。

「侵入者は少し奥にいったみたいだから静かに追うワン。大きな音を立てると、気配隠しの腕輪も意味なくなるワン」

小声でリッキーが話しかけてくる。
俺は忍び足でリッキーの後についていった。
やがて、侵入者に追い付く俺たち。
侵入者は人ではなく、ハイエナのような動物だった。

ハイエナは粘体の魔物を一蹴している。
もしかしてこのハイエナは強いんだろうか?

奥へ進めば、ガラクタの兵士がガタガタと音を立てながらハイエナと接敵する。
唸りごえを上げるハイエナの前足に、俺は土魔法を使って出っ張りを作り上げた。

「強そうなハイエナだワン。兵士じゃな敵わないかもしれないワン。いったい何するつもりなんだワン?」ひそひそ

「モモモ(倒してしまっても、構わんのだろう?)」ひそひそ

「相変わらず、何が言いたいのかわからないワン…」ひそひそ

続けて、俺は魔法で地面のでこぼこをならすように、ハイエナの周りに表面の滑らかな硬い土を生成する。
俺がつくった物とは、リッキーのダンジョンに足らない、俺の知っているダンジョンに必要不可欠な要素。

そう、即席トラップである。

ハイエナがガラクタの兵士に飛びかかろうとすると、ハイエナはさっきまで無かった出っ張りに足を引っ掛け、踏ん張りの効かない地面に足を滑らせた。
ガラクタの兵士はハイエナの隙を逃さず、壊れた槍をハイエナの腹につきいれる。

「ヒィン!」

柔らかな腹を突かれてビクビクとハイエナが痙攣する。

「見事な援護だワン」ひそひそ

「モモモ、モモ(だろう? これがトラップだ)」ドヤァ…ひそひそ

「言葉は通じないけど、ドヤってることだけはわかったワン…」ひそひそ

「モモ…、モモモモ、モモモ(リッキー、お前のダンジョンに足らない重要な物を教えよう。それがこのトラップだ。地形一つが罠になるのだ)」ひそひそ

「通じないけどその顔、なんだか、むかつくワン」ひそひそ

「モモ、モモモ…(トラップの導入によって、侵入者をより効率よく…あれ? 効率よく倒してどうすんだ俺)」ひそひそ

トラップの導入によって、殺意マシマシのリッキーダンジョンが更に極悪になるだけではないか。
俺は自分の失敗に気付き、トラップ導入演説をはたと止めた。

「いきなり止まったワン」ひそひそ

俺とリッキーが小声で話してると、ガラクタの兵士がハイエナに止めを刺しおえる。

「倒した獲物がダンジョンに吸収されると、ウルになるんだワン。普通は吸収に時間がかかるけれど、今回はマスター権限で手早く吸収するワン」

リッキーが言うが途端に、ハイエナの死体が泥に呑まれるようにダンジョンに沈んでいく。

「さっきの物陰からの援護は良かったワン。これからも侵入者をどんどん倒して欲しいんだワン。そうしたら給料も払えるようになるワン」

「モモモ…」

ダメだリッキー。
侵入者を片っ端から殺害してるからお前のダンジョンはすかんぴんなんだ。
俺は自分の実力アピールの失敗に頭を抱えた。

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