黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第一章 黄色い目をした少女

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 ぼこぼこの草原の中を、ヒカルはリオンと一緒に、原付バイクで走っていた。



 ヘルメットはこの際不要だ。

 フルスロットルで加速していく原付バイクは、金色の巨大ワニを追い越し、リオンの村へと一直線に向かっていく。

 村には木の囲いがあった。日本史の教科書のはじめのページで見たような家が、ぽつりぽつりと立っている。藁の屋根に土壁の家。窓にはガラスがなかった。

 村の入り口に到着すると、リオンは一目散に中へ入っていく。

「鱗よ! 鱗が来てる!」

 牛を連れた老人や軒先で果物の皮を向いていた人々が、リオンのその報せを聞いたとたん、すべてを放り投げて走り出す。そして、村のいたるところにあった穴の中へと入っていく。

「みんな、早く!」
「急いで! もうすぐ来てるから」

 リオンや村の青年たちも一緒になって、皆を穴の中へと誘導していく。村の入り口で見ていたヒカルも、原付バイクをその場に残して、彼女の元へとかけていく。

「俺はどうすれば良い?」
「君も隠れて!」

 ヒカルもすぐそばにあった穴の中へ、逃げ惑う村人たちと一緒に押し込まれてしまった。

「リオンは!?」

 目があう。その時、リオンは初めてニコリと笑って見せた。

「私は大丈夫だから」

 ありがとう――
 次から次へと穴の中に入ってくる村人に押され、ヒカルはその声を聞くことが出来なかった。

 ヒカルが入ってすぐに入り口が閉じられた。穴の中は真っ暗だ。顔のすぐそばで荒れた呼吸が聞こえてくる。巨大ワニの襲撃から、この穴の中で身を守る。まるで戦争だ。さっきまでは冒頭だった日本史の教科書が、いっきに近代の項目へとひとっ飛び。

 穴の中の人たちも、突然のことに騒然としている。子供たちだけではない鳴き声が四方から聞こえる。息子が、親が、家族がいない、という怒号さえも。

 中はパニックだ。
 狭く窮屈なのに、あれが無い、これが無い、と皆が動きまわっている。ヒカルの足が踏まれた。背中を押された。肩がぶつかった。
 しかし、それらの声も大きな地鳴りでピタリと止んだ。

 皆が、地上へとつづく天井を見ているのだろう。すくなくともヒカルはそうであった。あいつが来た。今頃、逃げた人々を血眼になって探しているに違いない。

 地鳴りが続く。地上でワニが暴れまわっているのだ。
 パラパラと土が落ちてきて、ヒカルの顔に当たったけれど、彼は目を閉じなかった。閉じれなかった。少しでも動けば気付かれる。それは先ほどまで煩かった他の村人たちも同じ考えだった。

 ヒカルは、左腕に巻いた時計を抑えた。秒針の音がうるさい。鼓動がうるさい。息さえしてはならない。死神が頭の上を歩いているのだから。



 どれほど時間が経ったのだろうか。やがて、地鳴りが小さくなっていく。

 ワニが去ったのだ。
 それでもヒカルを含めた穴の中にいる人たちは、静かなままだった。生気を失ってしまったのだ。死神の仕事は立派に果たされたように。

 誰も口を開くことなく、穴からゆっくりと出て行く。外に出たヒカルは、目の前の光景に思わず息をのんだ。いつの間にか西日が差していた。遠くの双子山のちょうど真ん中に太陽が沈んでいく。蜃気楼が出来ていて、山と空がゆらゆらと赤く揺れていた。

 綺麗な夕日は、がれきの山を残酷にも照らしていた。村が確かにあった場所には、木のもくずが散らばっている。その上に、牛が何頭も横たわっていた。ヒカルのそばで、木片が足に刺さり蹲っている村人がいる。よく見れば、村人たちは草履をはいていた。

 子どもと抱き合う人。家だった場所の前で泣き叫ぶ人。夕日は皆を平等に照らして見せた。反対側の空には濃紺の夜が迫ってきている。一番星が走る。次第に点々と星が増えてきた。雲ひとつない快晴の夕映えの空の下。ヒカルは、彷徨う村人たちの中で、黄色い布切れを見つけた。

「リオン?」

 マヒした頭が動き始める。途端に喉が震えてくる。木片の上を走り回って、黄色い布切れをかき集めた。中には血のついた物もあった。先ほどまで、どこか蚊帳の外気分だったヒカルだったが、集めた黄色い布切れを見つめて、ようやく大切なことに気が付いた。

 巨大な金色のワニに襲われようが、赤毛の少女に怒られようが、見ず知らずの村人たちと窮屈な穴の中に押し込まれようが、心のどこかでずっと思っていた。

――俺は部外者だ。だから関係ない。この世界のことなんて……。
 でも違うのだと。自分も「この世界」の立派な一部になったといことを、ようやく思い知らされたのであった。

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