黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第一章 黄色い目をした少女

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 次の日。原付バイクは、木片の下敷きになっていて、掘り出すのに苦労した。傷だらけで、片方のミラーが割れているし、左のブレーキとハンドルが曲がっている。

 良かった。エンジンは掛かるみたい。
 ヒカルは、リオンと出会った草原の中を一日中走り回った。ストンストン、とへんな音が鳴るけれど、ちゃんと走ってくれた。考え事は尽きない。村人たちからこの世界について色々と教わったから。

 この世界には黄金に輝く竜が住んでいる。

 空を優雅に飛び回り、その神秘的な姿を持って、人々は神として崇拝し信仰していた。だが、ある日突然、その神は地獄への使者へと変わったのだ。黄金竜は空から化物を落とし始めた。化物は野生の獣だ。人を襲って、村や都市、国を破壊させる。
 人々はそれを「鱗」と呼んだ。鱗によって壊滅する村は後を絶たなかった。信仰の対象が一変し、絶対的な脅威へと成り果てたのだ。

 国境のない大空を、黄金竜は飛び回る。いつ現れるのかも分からない。現れてもいつ鱗を落としてくるのか分からない。予知できない恐怖に、世界は選択を迫られたのだ。

 黄金竜を討伐せよ。簡単なことではない。大きな黄金竜から落ちる小さな破片一つでさえ、村や国を亡ぼすには充分すぎるのだから。

 そして、リオンのことも。
 世界には、黄金竜とその鱗に共鳴出来る人間がいる。リオンがそう。彼女は黄金竜や鱗が襲来してくる前に、その存在を察知できるのだ。赤ん坊のころ、突然泣き出すと黄金竜が村の上空を飛んでいったことが多々あった。
 昨日、リオンが草原に居たのも、鱗の襲来を察知したからなのだと、村人たちは言う。襲撃が来る前に皆に知らせ、被害を無くすこと。これが、リオンが自ら手をあげた役割なのだと。

 あっちの世界で預かった小包は、陽が落ちる少し前に見つけることができた。探し物を見つけたところで、ヒカルの心は晴れやしなかったのだけれど。
 村に帰ると、木片はほとんど残ったままだ。家を失い、家族を失い、目の中の光を失った村人たちが、ただそこに居て、影を伸ばしているだけであった。

 ヒカルは、この惨状を前に、何もすることが出来ない自分が少しだけ悔しかった。この世界の理不尽さにも腹が立つ。台風や災害とはわけが違う。こっちの世界の脅威は、あからさまに人を狙ってきているのだから。

「もし、旅のお方」

 声を掛けられたヒカルは、原付バイクに座ったまま振り返る。

「これからどうなされるおつもりで?」

 ヒカルのおばあちゃんくらいの歳の女性。昨夜、この世界のことを丁寧に教えてくれた村長だ。

「目的がある旅かな? それとも探し物を探す旅でございましょうか?」
「わかりません」

 自分がどうすれば良いのか。どうすれば良かったのか。ヒカルはリオンの顔を思い出した。赤毛で目の大きな少女。怒ると怖そう(実際に怖かったのだけれども)なのに、どこか悲しそうな秘め事を宿していた。しかし、集めた黄色い布切れがすべてを悟っていた。

 リオンにはきっと会えないのだろう。この世界でも、元の世界でも。

「もしよろしければ、この村で少しばかり住んではいかがかな?」

 呆然と、ただ記憶を見つめていたヒカルは、村長のその申し出に眉を動かすことしかできなかった。

「いえいえ。ずっととまでは言いません。ただ、ご覧の通り村はこのありさま。もし行く当てがなければでございますが、復興には一人でも多くの若い力持ちが居た方が良いのです」

 単なる老人のわがままでございます。と村長は笑顔で付け加える。ヒカルは、強い人なんだな、と思った。

「ありがとうございます。ですが――」

 一呼吸を置くヒカル。これから自分が何を言おうとしているのか、それがいかにバカな話であるのかを気が付いたから。

「黄金竜を探します」

 でも、もう止まれない。村長は驚いた顔をして見せたけれど、すぐに笑顔を取り戻した。

「危険な旅でございますね」
「はい」
「終わりがない旅かもしれません」
「わかっています」
「それでも旅にでられますか?」

 ヒカルはうなずいた。しっかりと村長の目を見つめながら。

「わかりました」村長もこくりと頷く。
 そして、村長は両手を前に出して手のひらを上に向けた。

「すべては竜神様の御心に」

 祈りの型だとヒカルはすぐに気が付いた。

「ありがとうございます」と、ヒカルも両手を前にだして真似をする。

 ヒカルは原付バイクのエンジンを掛けた。ガソリンがどれほど持つかは分からない。
 ガソリンがこの世界にあるのかも。無くなったらその時だ。自分にはこの足があるのだらか。


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