11 / 94
第二章 大都市オルストン
3
しおりを挟む
バルとヒカル(原付バイクも一緒に)は、ゆっくりと、足音を立てないよう細心の注意を払って森の中を歩いていく。
大丈夫だ。森に入ってすぐに休んだから、同じくすぐに森を抜けられる。
そう思ってはいたものの、音を消して歩くことは至難の業だ。かつ、夜の森の中となると、果たしてちゃんと出口に向かっているのかと不安にもなる。
ゆっくり、ゆっくりと。バルの言葉が本当ならば、この森には夜に現れるお化けの蛇がいるのだ。
「夜の森に近づいてはいけない。お化けの蛇に食べられるから」
この世界はあっちの世界とは違う。黄金の竜が居て、鱗を落とし、それが巨大なワニになる世界だ。
お化けの蛇が一匹や二匹いてもおかしくはない。
やれやれ。黄金竜のいる世界は生きずらいな、とヒカルは頭の中で愚痴をこぼした。
すると、前を歩くバルが止まった。肩を叩いてみると、強張った顔をしたバルがゆっくりと振り返る。
目が合う。月明かりのせいなのかは分からないが、少年の顔は真っ青だ。
「どうしたの?」
少年はヒカルの顔を見つめながら、いや、目の前のそれに顔をそむけるようにしながら、前方を指さす。
指先――バルの指し示すその先には暗い森があるだけ。暗い? 違う。森の中は月明りが届いているはず。
目を凝らすと、なんだか暗い森が動いている。
嫌な予感。二つの小さな白い光。すぐ下には、紅色の舌が見え隠れしている。
月明かりを隠してしまう程の、大きな蛇だ。
ヒカルとバルは固まった。蛇に睨まれた蛙。俺たちは岩ですよ。食べても美味しくありませんからね。
幸いなことに、大蛇は二人には気が付いておらず、すぐ目の前を通り過ぎて行く。
パキパキパキと枝が折れる。まだまだ続く長い体。二人はずっと、大蛇が通り過ぎるのを待っていた。
ようやく道が開けた。目の前に青白い森が戻ってくる。
枝の折れる音が聞こえなくなってから、二人は再び歩き出す。さっきよりも慎重に、それでいてさっきよりも素早く。
びちゃり。
ヒカルとバルの間に何かが落ちた。バルも振り返る。足元に集中すると、それは粘り気のある水たまりだった。
びちゃり、びちゃり。また落ちてきた。恐る恐る顔を上げる。目が合った。大蛇の白く光る小さな(と言っても、ヒカルの顔より大きいけれど)二つの目。
先ほどの水たまりは大蛇の涎だったのだ。
一匹や二匹いてもおかしくはない? 本当に二匹いるなんて聞いてないぞ。
固まる二人と一匹。バルは今にも泣き出しそうであった。
ヒカルも足が震えてきた。そして、無心で原付バイクのカギを回す。この際、森の中だからとは言っていられない。
逃げるが勝ち。出口はもうすぐなのだから。たぶん……。
「逃げろ!」
ヒカルが叫んだのと同時に、大きな口を開けた大蛇が二人にめがけて飛びついてきた。間一髪。原付バイクで走りだしたヒカルは、とっさにバルの腕をひっぱって後ろに飛び乗せることに成功した。
大蛇が猛スピードで追いかけてくる。ワニの次は蛇だ。しかも、今度は確実に自分たちを食べてしまおうと狙ってきている!
ヒカルの後ろで必死にしがみつくバルは、もうすでに泣いていた。
そりゃそうだ。お化けの大蛇が追いかけてきているのだから。
でこぼこの地面のせいで、思うようにスピードが出せない。大蛇はお化けだ。木々たちをすり抜けて、最短距離で二人を追いかける。
追いつかれてしまう。追いつかれたら最後。お化けの大蛇に丸飲みだ。焦る気持ちがハンドルを回す。スピードが出てくる。
「あ」
ドン、と全身に衝撃が走った。固い根っこに前輪がぶつかってしまったのだ。
ヒカルとバルが宙を舞う。
世界が反転する。
すぐ後ろには大蛇だ。ミキサーのワニとは違って、大蛇の口は生生しい上下四本の太くて長い牙。紅色の舌。糸を引く涎。そしてその奥には地獄へと続くような喉の奥の闇。
スローモーション。
視界に入る風景が、すべて手に取るようにわかる。空中で涙目のバルと目が合った。
――やばいな。
――僕たち食べられちゃうの?
その時、ヒカルの腰から黄金の懐中時計が地面に落ちた。
カチ――。
地面とぶつかった瞬間――懐中時計の文字盤が赤く輝く。そしてどさり、とヒカルだけが地面に落っこちる。
何が起こったのか。ヒカルが顔を上げると、すぐそこには口を大きく開けて舌を出す大蛇と、絶望の表情をしたバルが空中に浮かんでいる。
いや、止まっている?
赤く光る懐中時計を拾い上げる。不気味に、それでいて神秘的な深紅の光。
ためしに、バルの頬をつついてみた。しかし、何も反応がない。
今度は大蛇の大きな白い目を力いっぱい殴ってみた。固い。殴ったことを後悔したけれど、それでも大蛇は全く動かない。
これって、まさか――。
「時間が止まったのか!」
大丈夫だ。森に入ってすぐに休んだから、同じくすぐに森を抜けられる。
そう思ってはいたものの、音を消して歩くことは至難の業だ。かつ、夜の森の中となると、果たしてちゃんと出口に向かっているのかと不安にもなる。
ゆっくり、ゆっくりと。バルの言葉が本当ならば、この森には夜に現れるお化けの蛇がいるのだ。
「夜の森に近づいてはいけない。お化けの蛇に食べられるから」
この世界はあっちの世界とは違う。黄金の竜が居て、鱗を落とし、それが巨大なワニになる世界だ。
お化けの蛇が一匹や二匹いてもおかしくはない。
やれやれ。黄金竜のいる世界は生きずらいな、とヒカルは頭の中で愚痴をこぼした。
すると、前を歩くバルが止まった。肩を叩いてみると、強張った顔をしたバルがゆっくりと振り返る。
目が合う。月明かりのせいなのかは分からないが、少年の顔は真っ青だ。
「どうしたの?」
少年はヒカルの顔を見つめながら、いや、目の前のそれに顔をそむけるようにしながら、前方を指さす。
指先――バルの指し示すその先には暗い森があるだけ。暗い? 違う。森の中は月明りが届いているはず。
目を凝らすと、なんだか暗い森が動いている。
嫌な予感。二つの小さな白い光。すぐ下には、紅色の舌が見え隠れしている。
月明かりを隠してしまう程の、大きな蛇だ。
ヒカルとバルは固まった。蛇に睨まれた蛙。俺たちは岩ですよ。食べても美味しくありませんからね。
幸いなことに、大蛇は二人には気が付いておらず、すぐ目の前を通り過ぎて行く。
パキパキパキと枝が折れる。まだまだ続く長い体。二人はずっと、大蛇が通り過ぎるのを待っていた。
ようやく道が開けた。目の前に青白い森が戻ってくる。
枝の折れる音が聞こえなくなってから、二人は再び歩き出す。さっきよりも慎重に、それでいてさっきよりも素早く。
びちゃり。
ヒカルとバルの間に何かが落ちた。バルも振り返る。足元に集中すると、それは粘り気のある水たまりだった。
びちゃり、びちゃり。また落ちてきた。恐る恐る顔を上げる。目が合った。大蛇の白く光る小さな(と言っても、ヒカルの顔より大きいけれど)二つの目。
先ほどの水たまりは大蛇の涎だったのだ。
一匹や二匹いてもおかしくはない? 本当に二匹いるなんて聞いてないぞ。
固まる二人と一匹。バルは今にも泣き出しそうであった。
ヒカルも足が震えてきた。そして、無心で原付バイクのカギを回す。この際、森の中だからとは言っていられない。
逃げるが勝ち。出口はもうすぐなのだから。たぶん……。
「逃げろ!」
ヒカルが叫んだのと同時に、大きな口を開けた大蛇が二人にめがけて飛びついてきた。間一髪。原付バイクで走りだしたヒカルは、とっさにバルの腕をひっぱって後ろに飛び乗せることに成功した。
大蛇が猛スピードで追いかけてくる。ワニの次は蛇だ。しかも、今度は確実に自分たちを食べてしまおうと狙ってきている!
ヒカルの後ろで必死にしがみつくバルは、もうすでに泣いていた。
そりゃそうだ。お化けの大蛇が追いかけてきているのだから。
でこぼこの地面のせいで、思うようにスピードが出せない。大蛇はお化けだ。木々たちをすり抜けて、最短距離で二人を追いかける。
追いつかれてしまう。追いつかれたら最後。お化けの大蛇に丸飲みだ。焦る気持ちがハンドルを回す。スピードが出てくる。
「あ」
ドン、と全身に衝撃が走った。固い根っこに前輪がぶつかってしまったのだ。
ヒカルとバルが宙を舞う。
世界が反転する。
すぐ後ろには大蛇だ。ミキサーのワニとは違って、大蛇の口は生生しい上下四本の太くて長い牙。紅色の舌。糸を引く涎。そしてその奥には地獄へと続くような喉の奥の闇。
スローモーション。
視界に入る風景が、すべて手に取るようにわかる。空中で涙目のバルと目が合った。
――やばいな。
――僕たち食べられちゃうの?
その時、ヒカルの腰から黄金の懐中時計が地面に落ちた。
カチ――。
地面とぶつかった瞬間――懐中時計の文字盤が赤く輝く。そしてどさり、とヒカルだけが地面に落っこちる。
何が起こったのか。ヒカルが顔を上げると、すぐそこには口を大きく開けて舌を出す大蛇と、絶望の表情をしたバルが空中に浮かんでいる。
いや、止まっている?
赤く光る懐中時計を拾い上げる。不気味に、それでいて神秘的な深紅の光。
ためしに、バルの頬をつついてみた。しかし、何も反応がない。
今度は大蛇の大きな白い目を力いっぱい殴ってみた。固い。殴ったことを後悔したけれど、それでも大蛇は全く動かない。
これって、まさか――。
「時間が止まったのか!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
東京ダンジョン物語
さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。
大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。
ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。
絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。
あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。
やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。
スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。
無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる