黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第三章 「すべては竜神様の御心に」

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 格子を殴ることをやめ、いったいどれほどの時間が経ったのか。

 小窓からは、もう光が入ってきていない。

 格子の向こう側には、若い男が椅子に座って分厚い本を読んでいた。兵士では無さそうだけれど、首輪や腕輪、両手も様々な指輪で埋まっていた。

「出してくれよ……」
「残念だが無理なんだ」

 二人と交代で入ってきたこの青年に、何度説得したことか。こっちは必死なのに、青年は足を組み直して呑気に本のページを捲る。ジャラジャラ、と腕輪の高い音がなった。

 黄金の懐中時計は腰に着いたままだ。時を止めようと思えばいつでも止められる。でも、牢屋の中では意味がない。

 ぐうぅ……、と腹が鳴る。そう言えば何も食べてなかった。胃が捻れる。喉もカラカラだ。

「お腹すいた?」

 青年がパタン、と本を閉じると、ヒカルのお腹がまた鳴った。

「聞こえただろ?」

 ヒカルがギロリ、と青年を睨み付ける。

「もうすぐだと思うから、ちょっと待ってて」
「何を?」
「ご飯」

 青年が再び分厚い本を開いた途端、一人の兵士がやって来た。 

「ウイン様。出発です」
「あらら? ご飯じゃなかった」

 残念だったね、と青年はヒカルを見て呟いた。

「出発ってことは、竜神様がオルストンにいらっしゃったのは本当だったんだね?」
「はい。先ほど帰って来た騎兵隊が証言しました」
「隊長は?」
「はい。船の準備中でございます」
「最短ルートだね」
「はい。そのように聞いております」

 ウインと呼ばれた青年が、再びヒカルをチラと見る。二人が会話している間、ヒカルは睨みっぱなしだった。

「分かった。準備しよう」
「はい」

 青年が立ち上がる。さっきよりもジャラジャラと大きな音が鳴った。

「俺も連れていけ――」
「無理だよ。君には関係ない話だ」

 青年はため息をつきながら答えた。何言ってるんだ、無理に決まってるだろ、と。

「心配するな。食事はちゃんと持ってこさせるからさ」

――関係ない? 
 ヒカルの奥底から、怒りの熱が込み上げてくる。
 この世界に散々振り回されたのに、関係ないとはどういうことだ。

「関係なくはない! なんなら今からお前らの仲間になっても良い! 迷惑はかけない。なんでもする! 必ず役に立つから……早くここから出せよ!」
「貴様! ウイン様に向かってなんと失礼な!」

 剣を抜こうとする兵士を、青年が落ち着いて制する。

「どう役に立つって言うの? 剣も無ければ弓もない。力も無さそうだしさ」
「俺は技術者だ」

 ヒカルの突然の発言に、青年と兵士が目を丸くする。飄々と「何でも知ってますよ」と余裕ぶっていた青年さえ、驚きを隠せていない。

「嘘を着くな! お前ごときが技術者だと?」

 兵士の噛みつきを無視して、ヒカルはじっと青年を見つめる。

「お前が技術者であるという証拠は?」

 ヒカルは何も言わず、青年の前に腕時計を差し出した。
 綺麗なスカイブルーの文字盤の上を、チクチクチク……と、滑らかに秒針が動く。

「これは……まさか時計?」

 青年が、先ほどよりも大きく驚く。ヒカルはニヤリ、と笑ってみせた。
 やっと分かってくれる奴がいたか。素晴らしい時計のことを。

「そうさ。自分で設計し、自分で作ったものだ」
「初めて、見た」

 青年の声が震えた。手も震えているようで、小刻みに腕輪が揺れる。

 ステンレスの腕時計が、まるでダイヤモンドの宝飾であるかのように。侵しがたい、神聖で脆弱な物であるかのように。

「なんなら、分解して組み立ててやっても良い。そこの鞄を取ってくれ。中に道具が入ってるから」

 青年がヒカルの目を見つめ返す。ヒカルも目をそらさない。そらしてしまうと、バルやリオンや黄金竜、この世界の全てから逃げ?ことになってしまうと思ったから。

 青年がそっとヒカルの額に指を当てる。
 目を閉じる青年。隣の兵士は、「時計」だの「分解」だの、何の話をしているのかが分からないかった。ただ、牢屋の閉じ込められたこの「浮浪者」が本物の技術者なのかも知れない、と思い始めたのだった。

 青年がゆっくりと目を開けて、ヒカルの額から指を離す。

「大丈夫。出してやれ」
「し……しかし」
「兄貴には僕から言っておくから」
「は、はい!」

 兵士が格子の鍵を開けてやる。ギィ、と充分に空いてから、ヒカルはゆっくり外に出た。

 青年が荷物を放ってやる。ヒカルはその荷物を背負い、二人の後をついていく。

 目指すは再びオルストンだ。青年や兵士たちが、なぜオルストンを目指すのか。ヒカルには関係ない。

――バル。必ず迎えに行くから。
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