黄金竜のいるセカイ

にぎた

文字の大きさ
31 / 94
第四章 迷い山の地下神殿

しおりを挟む
 「マフラー」さんは黄金竜を見なかった。

 偵察の振りをして、自分たちを魔の鳥籠であるこの山の中に誘った。
 見事に計画は的中。来た道は瓦礫で塞がれた。閉じ込められたのだ!

「ちょっと待って」

 ヒカルが世界に足を踏み入れる。
 「マフラー」さんの計画が成功するには、彼の行動だけでは不完全だ。思えば、人の立ち入りを禁じていたこの山に入ることになったのは、黄金竜が居るという大義名分があるからなのだ。

 でも……。

「マフラー……その人は黄金竜を見ていない。でも俺たちは黄金竜が居ると信じて、いや、知ってるからこそこの不気味な山の中を進んできたよね?」

 それを証明するものが「マフラー」さんの虚偽の報告。

 そして黄金竜と共鳴が出来るカリンダの存在だ。

「そもそもが可笑しいんだよ。だって俺たちは山の中の地下深くにいる。ここまで来るのだって、狭い道を進んできたじゃないか」
「何が言いたいの?」

 ウインに睨み付けられたけれど、ヒカルは怯まなかった。たとえ、「マフラー」さんに向いていた氷の剣がこちらに向けられていたとしても。

「巨大な黄金竜がこんな狭い地下の洞窟に居るわけがないってこと」

――カリンダは嘘をついている。
 ヒカルはそう信じていた。そう言ったつもりだった。

 当のカリンダは表情一つ変えず(前髪で目は見えないけれども)、自分を疑っているヒカルではなく倒れた「マフラー」さんを見つめていた。

「なるほど……カリンダが間違っているって言いたいんだね?」
「もしくは、その人と裏で通じあっていたのか」

 ヒカルはウインをキッと睨み返した。いつしか牢屋を挟んで睨みあっていたあの時のように。
 ヒカルだからこそ分かることがある。記憶喪失擬きの部外者にしか分からないことがある。

 この世界に悪者はいない――。
 保護派も討伐派も、黄金竜だって悪ではない。
 黄金竜を中心にこの世界は回っている。
 争いが渦を巻き、振り落とされないように必死にしがみついているのだ。
 生まれてからすぐに与えられる善悪の価値観のお陰で、客観的な目を失ってしまう。

 そんな世界に落とされたヒカルという滴が、静かに波紋を広げていく。

「おい! 新入り! はっきり言えよ!」

 ウインの後ろからぴょこぴょこと燃える小熊のパッチが近づいてきた。

――カリンダは嘘をついている。

 世界にさらなる大きな波紋を作ってしまう言葉。口から、まさに声が零れそうになったその時、渦中である銀髪の少女カリンダが、突然口を開いた。

「と」
「……と?」

 その場にいた隊長、ウイン、ヒカル、そしてパッチでさえも、各々が持っていた一触即発の刃を手放した。

「昨日の問題……」
「昨日の……問題?」
「弟に二つあって、妹には一つしかないもの……」

 ヒカルは思わず「あ」と言ってしまった。
 他の皆は面白い具合にポカン、と口を開けている。

 いったい何のことだ?
 知るか。俺に聞くなよ。

 ヒカルはカリンダがこちらを見つめていることに気がついた。まるで「合ってる?」と聞かんばりに。その黄色く光る眼で。

 昨日の夜。ジャスパー街道の廃墟の中で、ヒカルがカリンダに仕掛けたイタズラだ。
 彼女は今の今まで、こんな状況の中でも考えてたと言うのだろうか。

 そう思うと、ヒカルはすっかり牙を抜かれてしまった気がした。もともと牙なんて無いのだけれも……。

「正解だよ」
「お、おい! なんだよ? とって!?」

 パッチがヒカルに詰め寄ってくる。自分の知らないことが気に食わないのだ。
 可愛らしい……。やっぱり小熊は小熊だ。

「カリンダは嘘なんか着いていないよ」

 そう言いながら、ウインは気を失っている「マフラー」さんの前で膝を折った。

「楽にしてあげます」

 ウインが何かを呟くと、両手を「マフラー」さんにかざす。その掌は、仄かに光っているようにも見えた。

「カリンダは竜の子だ。そして、僕の妹でもある」
「え?」

 カリンダはウインの妹。ならば……。

 「マフラー」さんの体が優しい色の炎に包まれていく。そして不思議なことに、彼の体が煙になって消えていくではないか。

 熱さで叫び声をあげることもなく、むしろ、幸せそうな笑みを浮かべながら。

「すべては竜神様の御心に」

 ブリーゲル、カリンダ、それから周囲の兵士たちも、消え行く「マフラー」さんを囲んで、ウインと同じように膝を折り、目を閉じていた。

――すべては竜神様の御心に。

 そして、消えた。

 裏切り者である「マフラー」さんが跡形もなく。敵側であるはずの兵士たちに見送られながら。

「さて、と」

 ウインが立ち上がると、ヒカルの方へ優しい笑みを向けた。いつものウインの笑顔だ。

「カリンダほどてはないけれど、僕にも微かながら竜神様の気配を感じることができる。当然、兄である隊長もね」
「で、でも……」

 ウインは目が黄色くない。ブリーゲルだって。

「彼女が特別なだけなんだ。共鳴にも強弱があってね。選ばれた者のみ持つことができる黄色い瞳。まさしく竜の子の証さ」

――選ばれた者。
――竜の子の証。

 ヒカルはリオンを思い出した。ならば彼女もまた、選ばれし竜の子なのだろうか。

「じゃ、じゃあウインも隊長も、黄金竜の気配を感じていたからこそ、こんなところまで進んで来たってこと」
「そうだ」

 ウインの代わりに今度はブリーゲルが答えた。
 黄色い甲冑の大男。彼もまた、黄金竜と共鳴が出来るのだと言う。だからこそカリンダを信じていた。だからこそ裏切り者を見抜けなかった。

 ウインがジャラジャラと腕輪を振って見せた。

「この下には、必ず竜神様が、もしくはそれに値する何かがいる」

 黄金竜と共鳴が出来る三人の兄妹。
 ヒカルはまっすぐ彼らの視線を受け止める。

「分かったなら進もう」
――竜神様の元へ。

 ウインがヒカルの肩をポンと叩いて通りすぎていった。

 ゴゴゴゴ……。
 余震。爆発の余波かしら?
 ヒカルの横をカリンダも通りすぎていく。華奢な骨ばった肩が見えた。

 竜の子であるカリンダとその兄たち(と小熊のパッチ)。ヒカルは小さくなった彼らの背中を慌てて追いかけた。

 ゴゴゴゴ……。
 再び地鳴りがした。

 一行はまだ知らないのだ。彼らの足元に眠っているこの世界の秘密に。
 そして、「マフラー」さんの爆発で目を覚ましてしまったことに。



(第五章へつづく――)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...