黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第六章 鉛色の空

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 まずはじめに、オルストンにある仮の自宅へ向かった。

 兵士たちがあちこちにいるもので、なおかつ足場は瓦礫だらけだ。
 音を立てぬよう歩くのは、思いの外苦労したけれど、なんとか自宅にたどり着いた。

 なんか、懐かしい気がする。目が覚めると知らない人がいて、決して敵意を見せはしない。そして、足場の悪い所を何かに気付かれないよう用心しながら歩き抜ける。

 ヒカルと出会った森の中と同じ。あの時は見つかったけれど、今回はきっと上手く行く。
 バルは自宅の屋根であった破れた毛布を全身に被った。それから、貯めていた缶詰めをポケットに入るだけ持って、空を見上げる。
 嫌気がさしていた鉛色の空も、今では味方をしてくれている。

 そろそろ、僕が居なくなったことに騒ぎ始めるころかしら?

 目を細めて、周囲を見渡す。まだだ、瓦礫の山を歩き回る音や、掛け声はまだ聞こえない。松明の火も一つも見えない。

――さあ……早くしろ。



 滅んだ都市にいた謎の少年が、いつの間にか姿形を消してしまった。

――今度は僕の番だ。僕がお化けになる番だ!

 そうこうしている内に、闇の中で灯りが一つ、二つと増えていった。
 兵士たちが消えた少年を探し始めたのだろう。あちこちで声が聞こえ、瓦礫の崩れる音もあった。

 ふぅー、と細く息を吐く。痛みはもう無いのに、まだ声が出ない。
 でも、関係ない。

――きっと取り返してみせるから。

 バルは身を低くして、闇夜のなかに消えていった。兵士が食べ物を持って帰ってくると、そこにはすでに少年はいなかった。

 ニンジンのスープと固いパン。兵士はスープが溢れないようにゆっくりと先程まで少年がいたはずの場所に座った。

 何となくそんな気がしていた。
 自分に向けられた底知れない恐怖と敵意。あえて口にはしなかったけれど、子供の心からトゲを抜くことなど、自分には到底無理な話だったのだ。

「こんなもので」

 兵士はニンジンのスープを一口食べると、顔をしかめた。

「まずい……」

  二口目の気分にはなれず、皿をその場に置くと、固いパンだけをムシャムシャと食べ始めた。

 祖国の――妻の料理が食べたい。娘の手料理だって、まだ食べたことは無いのに。
 あの少年だって同じはず。
 こんな瓦礫の山ではなく、暖かな布団が良いはず。腐った冷たい肉ではなく、湯気の立つコーンスープの方が良いはず。

 固いパンを食べ終えた兵士は、ぐいっとニンジンスープを飲み干した。

 今はこれで良い。

「でも――」

 彼の願いは決して叶わない。ノリータも襲撃にあったのだ。

 絶望をこれ以上を増やさないために。理由は分からないけれど、彼にとって、少年バルは希望の光を灯すための燭台の様に見えたのだ。

 鉛色の夜空の下、立ち上がった彼の目には光が見えた。

 トゲは抜けなくて良い。憎しみを持ったままでも良い。暖かな幸せさえあれば――。



 瓦礫の隙間で、バルは息を殺していた。
 案外、これは骨の折れる仕事なのかもしれない。

 兵士は多数。オルストンを一周したくらいの気持ちでも、バルの住まいはすぐ目の前にあった。

 頭上を数人の兵士が通りすぎる。

「おい! こっちに何かあるぞ!」

 住まいに気が付いた兵士が、バルの頭上で声を上げた。瓦礫の上を何人もの兵士が次から次へと通りすぎる。パラパラと砂ぼこりが顔に当たり、くしゃみを我慢するのに苦労した。

 しかし、これは好機だ。
 隙間から恐る恐る顔を覗かせると、辺りにいた兵士たちは皆住まいの方へ集まっているではないか。

――よしっ!
 勢い良く、されど静かに柔らかく。
 バルは兵士たちの拠点――自分が目覚めたベースキャンプ地へと足を進めた。

 運は自分に味方をしてくれている。鉛色の夜空や、うまい具合に住まいが囮になったりと、バルの進行は止まらず、いよいよベースキャンプにまで到着することができた。

 そこには誰もいなかった。代わりに空いた皿が一つ。
 ニンジンの香りだ。空腹の少年は残った食べかすにさえも涎を垂らしたけれども、寸でのところで我慢。

 ここからはより慎重に。
 瓦礫の隙間をぬって、原付バイクを探さなくては。

 闇のなかで目を凝らし、辺りを確認するが、どうにもおかしい。

 兵士たちの声が、足音が聞こえない。
 遠くに見える松明の火がどんどん消えていく。

――なんだ?
 バルはとっさに近くの瓦礫の下に潜り込んだ。静かすぎる静寂が、鉛色の空の下に蔓延している。

 カランコロン――。
 固い音がバルの頭上でした。

 足音はしないのに、誰かが上にいる気がする。
 得たいの知れない恐怖が汗となり、バルの心臓をきゅうと締め付けた。
 声が出ないのに、口元に手を当てて、早くこの状況が過ぎ去って欲しいと祈った。

――誰? 何なの?

 すると、瓦礫の隙間と隙間から、ちょうどそれは見えた。

 頭に布を巻いた兵士の後ろ姿。
 バルを介抱し、優しく問いかけ、食べ物を恵んでくれたあの男。

 兵士は周囲を見渡すと、ゆっくり頭の布をほどいていく。

  バルはこの時、心底声が出なくて良かったと思った。

 ニンジンのスープはウサギの心臓だった。
 固いパンはネズミの頭たった。

 布がめくれた兵士――その後頭部はえぐれていて、脳みそがまる見えではないか!
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