黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第八章 サボテン岩の戦い

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「パッチやリリーってさ、召喚されてない時ってどうなってるのかな?」

 サボテン岩の中は意外と入り組んでいた。中には誰の気配もなく、突入した時には持っていた警戒心は、角を曲がる度に薄れていった。

 太陽の光が無くても、壁に並べられた蝋燭たちが、ひっそりと洞窟内を照らしてくれている。

「召喚って疑問が多いんだ。例えば、召喚されているときに、魂が込められていた器のアクセサリーが壊れたらどうなるの? とかね」

 握りしめていた警戒心を放り投げた途端、妙に手持ち無沙汰になってしまったヒカルは、何でも良いからカリンダと話がしたかったのだ。

「そんなの私にも分からないわよ。ウインに聞いたら?」
「知らないの? お兄さんのことなのに」
「ウインはウイン。私は私なの」

 二人はさらに奥へと足を進めた。サボテン岩の中は一本の上り坂から枝分かれした小部屋が、蟻の巣のようにたくさんある。

 坂道をどのまで登ったか分からないけれど、突然、前を歩くカリンダが立ち止まった。

「どうしたの?」
「しっ! 今、何か音がした」

 カランコロン。
 急に緊張感が走る。

 小部屋へ続く曲がり角の前だ。カリンダとヒカルは足を止めて先の様子を伺っていると、蝋燭の火で照らされた壁を、一体の影が通り過ぎていった。

 この先に誰かがいる。
 カリンダと目があった。黄色い瞳は「準備は良い?」と言っている。

 コクンと頷くと、すぐにカリンダはヒカルの手を引っ張った。

「ちょ、ちょっとタイム!」
「なに!?」
「いや……てっきり、タイミングを合わせて行くのかと」
「確認したでしょ? ちゃんと合わせたじゃない」

 そういう訳じゃなくて、とは言えなかった。再び、曲がり角の向こう側からカランカランと音がしたから。

 気付かれた? 
 二人は顔を見合わして、「静かに」とお互いに合図を送りあった。

「三、二、一で行こう」
「……わかったわ」

 ヒソヒソ声で、再度確認し合う。
 呼吸を整え、カウントを始めようとカリンダに目で合図を送る――と同時に、カリンダはまたしてもヒカルの手を引っ張った。

 二回目の急ブレーキ。二回目のカリンダの「何なの?」という顔。

「今、行けって合図くれたじゃない!」
「三、二、一で行くって言ったろ?」
「だから何よそれ?」

 喉元まで出かけた反論の言葉を飲み込んで、ヒカルはぐっと堪えた。

 ここは大人になろう。姿はパピーだけど。

 ヒカルは何も言わず、ずっと左手に着けていた腕時計を外した。自分の処女作だ。青い文字盤が綺麗でお気に入りだったから、パピーの姿でもちゃんと着いていてくれて安心した。

 懐中時計と確認し、竜頭を操作して、秒針の進みを同じにする。

「よし」
「何してるのよ?」

 進みが同じ事を確認してから、カリンダに腕時計を渡してやった。

「何これ?」
「いい? このずっと動いてる細くて長い針があるでしょ? これが一番上の『12』のところに来たら行く。それが合図だ」

 秒針はもう四〇秒を経過している。

「もうすぐだ。準備はいい?」
「ねえ、ちょっと!」

 有無を言わさず、今度はヒカルが前に立つ。

 あと一〇秒――五二、五三、五四……。

 カリンダも覚悟を決めたのか、視線を腕時計の文字盤に移す。

 五七、五八、五九――『12』!

 秒針が『12』を指した瞬間、ヒカルとカリンダは同時に曲がり角から飛び出した。

 良し! 成功だ!
 そして見つけた。曲がり角の向こうに潜んでいた物陰の正体を。

「助けて!」

 意を決して、ようやくお互いのベストタイミングで飛び出せた二人の先に見えたもの――それは、オレンジ色と黄色の肌をした、か弱いボルボルの少女が一人、頭を抱えて震えている姿だけであった。



「助けて……ください」

 小さな小さなその体を丸めて、涙声で必死に懇願するその姿に、二人は拍子抜けてしまった。

「だ、大丈夫よ」

 優しく声をかけながら、カリンダはゆっくりと少女に近づく。

「私たちはあなたの敵じゃないの」
「ひっ!?」

 カリンダのそっと出したはずの手でさえも、ボルボル少女は怯えるばかり。
 どうしたものか、とカリンダと顔を見合わせたその時だった。

「うおおおお!」

 物陰から勢い良く飛び出してきたのは、二人が探していたエバーではないか。

「その子から離れろおおおお!」

 エバーはカリンダに向かって、持っていた木の棒を振り上げる。

「カリンダ!」

 突然のことで、体制が整っていないカリンダは、エバーの突進を避けられそうにない。

 カチ――。

 振り下ろされた木の棒が、カリンダの目の前で止まった。
 両手で覆い、小さな体をさらに小さくしようするボルボルの少女。そして、必死の形相で飛びかかるエバー。
 揺れる蝋燭の火も止まる時間の中で、ヒカルはエバーを岩壁の目の前にまで移動させた。

「ごめんね」

 ――カチ……ドン!

 時間が動くのと同時に、エバーが壁に頭を思い切りぶつけた。握りしめていた木の棒がカランコロンと転がっていく。

「何が起きたの?」

 一瞬の出来事。もちろんカリンダもそう見えたはず。目の前に飛びかかってきたエバーが、次には壁に一人手に頭をぶつけているのだから。

「君がしたの?」
「さて、エバーは見つかったね。すっかり伸びちゃっているけど」

 カリンダには曖昧に返事をして、床に倒れたエバーに近づこうとすると、今度はボルボルの少女か、エバーの前に割って入ってきた。
 肩は震え、涙のまま。しかし、その目はしっかりとこちらを見つめている。

「驚かせてしまってごめんね。でも大丈夫。俺たちはエバーの友達なんだ」



 サボテン岩の周辺で行われているパピーとボルボルの争いは、さらに激しさを増していた。両者一歩も引かず。しかし、多数に無勢。ボルボル軍が徐々に押されはじめていた。

 ウインがサボテン岩に到着した時にはすでに争いは始まっていた。両者入り乱れる混乱の中を、彼はリリーを必死に探していた。

「リリー! どこだ!?」

 目の前を一本の矢が飛んでいく。ボルボルの剣をかわし、後ろからパピーのタックルを食らう。

「痛てて……」

 見つけたらすぐに器に戻せば良い。しかし、そんな考えが浅はかだとすぐに思いしった。

 小さな種族たちの争いはあくまでも戦争なのだ。生半可な気持ちでは、すぐに骨を砕かれ、身を裂いてしまう。

 すぐに立ち上がってみるけれど、こんなところじゃおちおち人探しなど出来やしない。

「おや?」

 どうしたものか、と考えていると後ろから聞いたことのある声がした。

「あなたは!?」

 ウインの後ろにいたパピー。彼は襲いかかるボルボル兵たちを見事な剣さばきで制圧し、再びウインの元へやってきた。

「こんなところで何をしておる旅のお方」

 そう言いつつ、腰の短剣を抜くと、ウインの後ろに勢い良く投げつける。見ると、弓矢を構えていたボルボル兵がその場で倒れていた。

「巻き込まれたのか? 早くお逃げなさい」

 ウインに手を差しのべてれたパピーは、なんと今朝町中で出会った紳士パピーであった。
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