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第八章 サボテン岩の戦い
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「助かりました」
紳士パピーの手を取り、ぐい、と引き起こしてもらうウイン。
「実は人探しをしておりまして」
「バカな。なにもこんなところまで来る者などおるか」
確かに、とウインは心のなかで呟く。
「当方は王族親衛隊総統括元帥ボルサネーロ・トランス。王家直属の軍族、謂わば軍の責任者でございます」
今朝の雰囲気とは違い、軍人口調で高々に宣言する彼は、「ボルネと呼んでくれ」と付け加えた。
「なんにせよ、ここはそなたたちが来る場所ではございません! 早く町へお逃げなさい」
そう言うと、ボルネは再び腰の剣を抜いた。戦場は嵐の渦だ。数の勢いでボルボル兵たちを押していても、ボルボルたちには隠し玉があった。
砂煙の舞う草原の戦場に突如として現れたのは、炎を纏ったゴツゴツ岩の巨人だった。
「構えろ!」
ボルネが叫び、兵士たちが隊列を整える。
「やはり来たか……」
「あれは一体!?」
「ディアンブロス――火の精霊ボルボルがおさめる悪魔だ」
サボテン岩に匹敵するほど大きな巨人。目や口、ねずみ色の岩の肌の隙間からは、燃え盛る核の炎が漏れでている。
ディアンブロスのたった一撃、片手で草原をなぞっただけで、緑の草原は瞬く間に焼け野原になった。
今の一撃でパピーの兵士たちはどれほどやられたのか。隊列は崩れ、火を背負って逃げ惑うパピーが大勢いた。
形勢は見事に逆転した。数の勢力で押していたパピー軍であったが、現れた巨人になす術はない。
「仕方ない。奴隷兵士を用意しろ!」
パピー姿のヒカルがエバーに命じられた奴隷兵士だ。今はリリーが代わりとなってこの戦場にいるはず。
奴隷兵士はどこにいるのか、とウインが周囲を見渡していると、ディアンブロスがまた動く。
サボテン岩の草原上――ウインとボルネの上に、火の巨人の影が落ちる。
「あと一押しだったのに、くそ!」
嘆くボルネの横で、ウインは素早く呪文を唱えた。
あまり時間は経ってないけれど――。
「頼む。パッチ!」
火の巨人が振り下ろした手が空中で止まる。
パッチが止めたのだ。
「人使いが悪いぜ、看守殿」
火の悪魔なら、こっちも火の悪魔だ。
太陽のように熱いエネルギーを持つ小熊が、巨人の手を見事止めてみせた。
「体は大丈夫なのか?」
「お陰さまで、見ての通りさ」
巨人の手を押し退けたパッチは、ウインの目の前で軽くステップを踏む。山の洞窟内にて、黄金の土竜に削られたはずの足が、ちゃんとあった。
「なら良い。さっさとあいつを片付けてくれ」
「ちっ……、本当に看守殿は愛想が無いな。もう少し感動してくれても良いだろうに」
「感動ならしたさ」
「へいへい」
そっけない態度はいつもの如く、とパッチは半ばあきらめの境地で地面を強く蹴る。目指すは火の巨人――ディアンブロス。助走もなく、たったの一蹴りの音速を超えるジャンプから、ディアンブロスの岩の顔面に渾身の一撃をお見舞いする。
よろめく巨人を目の前にして、ウインは笑みを、ボルネはただ唖然としていた。
〇
「あなたは、いったい……?」
「申し遅れました。僕は竜神様を追って旅をする者。一介の召喚術士でございます」
「召喚士……」
「おい! あいつ、めちゃくちゃ固いぞ!」
お辞儀をするウインの隣に着地したパッチは、殴った拳をブラブラとふっている。
「騒がしいぞ、パッチ」
せっかくの自己紹介に水をさされたウインがパッチを睨み付ける。
「そんなに熱くはないだろ?」
「へっ! あんな木偶の坊、俺様にとっちゃあ蝋燭の火みたいなもんだ」
「はぁ……なら、さっさと倒してこいよ」
簡単に言いやがって――と愚痴を捨てながら、パッチは再び地面を蹴ってディアンブロスに飛びかかった。
巨体がさらに大きく傾く。衝撃で顔が砕け、地面に岩が落ちた。
「あの巨人を推している……いけるぞ! 兵士たちよ! 我等もこれに続け!」
ボルノが笛を吹くと、兵士たちも呼応して一気に攻め始めた。
二発の強烈なパンチを食らった巨人――ディアンブロスは、それでもしっかりと踏ん張って、体勢を整える。
生半可な攻撃じゃ効かない。
ヒリヒリとする右拳が証拠だ。
巨人もまず最初に叩くべき相手を見つけたようで、その燃え盛る眼でパッチを睨み付けた。
凪ぎ払い、踏みつけ、拳を振り下ろす。
そのどれもが厄災に匹敵するほどの威力だ。野原は焼けて、何人のもパピーが巻き添えを喰らった。
――あのバカモグラよりも厄介かもな。
なんとか距離を取りながら、パッチは考えていた。
大降りな巨人の行動を予測することは簡単だ。だが、リーチ大きすぎる。
「ウイン! 石盤女を呼んでくれよ!」
「駄目だ。彼女はもう満腹なんだ」
「何だって!? いつ食った!?」
「ついさっきだ!」
掴みかかるディアンブロスの拳を避けて、パッチは再度ウインの隣に着地した。
「ちっ! あの女、今ごろ腹一杯ですやすや寝てやがるのか」
パピーの家に放たれた火を喰らった石盤だ。この争いの元凶でもある。パッチの言う石盤女は、ウインの指示した物を何でも吸い込んで食らうことが出来るのだけれど、一度食らい尽くすと、腹が減るまで寝てしまう。つまり使えないのだ。
「分かったらさっさと倒してくれよ。お前がここに居たら、僕までディアンブロスの巻き添えをくらうだろ」
「チッ、使えねえ看守殿だ」
刺のついた台詞をウインに投げ捨てて、パッチは巨人に向かっていく。
何かあるはずだ。どこかに、弱点が!
ディアンブロスは大きくかぶりをつけてパッチを迎え撃つ。パッチも勢いよく跳び上がって拳を握った。
巨大な拳と小さな拳。巨人のパンチは地面を叩き、小熊のパンチはディアンブロスの顔面に。
作戦もクソもない。とにかく、俺様の性分には合わねえ。
「真っ向勝負だ! とことん付き合ってやる」
いつの間にか灼熱の炎を身に纏ったパッチは、空中で体勢を整えると、今度は反対の拳で巨人の顎を打ち抜いた。
巨人が倒れ、サボテン岩の草原に爆風が起きる。
そんな闘いを見守りながら、ウインもリリーを探すため、爆風の中へと駆けていった。
紳士パピーの手を取り、ぐい、と引き起こしてもらうウイン。
「実は人探しをしておりまして」
「バカな。なにもこんなところまで来る者などおるか」
確かに、とウインは心のなかで呟く。
「当方は王族親衛隊総統括元帥ボルサネーロ・トランス。王家直属の軍族、謂わば軍の責任者でございます」
今朝の雰囲気とは違い、軍人口調で高々に宣言する彼は、「ボルネと呼んでくれ」と付け加えた。
「なんにせよ、ここはそなたたちが来る場所ではございません! 早く町へお逃げなさい」
そう言うと、ボルネは再び腰の剣を抜いた。戦場は嵐の渦だ。数の勢いでボルボル兵たちを押していても、ボルボルたちには隠し玉があった。
砂煙の舞う草原の戦場に突如として現れたのは、炎を纏ったゴツゴツ岩の巨人だった。
「構えろ!」
ボルネが叫び、兵士たちが隊列を整える。
「やはり来たか……」
「あれは一体!?」
「ディアンブロス――火の精霊ボルボルがおさめる悪魔だ」
サボテン岩に匹敵するほど大きな巨人。目や口、ねずみ色の岩の肌の隙間からは、燃え盛る核の炎が漏れでている。
ディアンブロスのたった一撃、片手で草原をなぞっただけで、緑の草原は瞬く間に焼け野原になった。
今の一撃でパピーの兵士たちはどれほどやられたのか。隊列は崩れ、火を背負って逃げ惑うパピーが大勢いた。
形勢は見事に逆転した。数の勢力で押していたパピー軍であったが、現れた巨人になす術はない。
「仕方ない。奴隷兵士を用意しろ!」
パピー姿のヒカルがエバーに命じられた奴隷兵士だ。今はリリーが代わりとなってこの戦場にいるはず。
奴隷兵士はどこにいるのか、とウインが周囲を見渡していると、ディアンブロスがまた動く。
サボテン岩の草原上――ウインとボルネの上に、火の巨人の影が落ちる。
「あと一押しだったのに、くそ!」
嘆くボルネの横で、ウインは素早く呪文を唱えた。
あまり時間は経ってないけれど――。
「頼む。パッチ!」
火の巨人が振り下ろした手が空中で止まる。
パッチが止めたのだ。
「人使いが悪いぜ、看守殿」
火の悪魔なら、こっちも火の悪魔だ。
太陽のように熱いエネルギーを持つ小熊が、巨人の手を見事止めてみせた。
「体は大丈夫なのか?」
「お陰さまで、見ての通りさ」
巨人の手を押し退けたパッチは、ウインの目の前で軽くステップを踏む。山の洞窟内にて、黄金の土竜に削られたはずの足が、ちゃんとあった。
「なら良い。さっさとあいつを片付けてくれ」
「ちっ……、本当に看守殿は愛想が無いな。もう少し感動してくれても良いだろうに」
「感動ならしたさ」
「へいへい」
そっけない態度はいつもの如く、とパッチは半ばあきらめの境地で地面を強く蹴る。目指すは火の巨人――ディアンブロス。助走もなく、たったの一蹴りの音速を超えるジャンプから、ディアンブロスの岩の顔面に渾身の一撃をお見舞いする。
よろめく巨人を目の前にして、ウインは笑みを、ボルネはただ唖然としていた。
〇
「あなたは、いったい……?」
「申し遅れました。僕は竜神様を追って旅をする者。一介の召喚術士でございます」
「召喚士……」
「おい! あいつ、めちゃくちゃ固いぞ!」
お辞儀をするウインの隣に着地したパッチは、殴った拳をブラブラとふっている。
「騒がしいぞ、パッチ」
せっかくの自己紹介に水をさされたウインがパッチを睨み付ける。
「そんなに熱くはないだろ?」
「へっ! あんな木偶の坊、俺様にとっちゃあ蝋燭の火みたいなもんだ」
「はぁ……なら、さっさと倒してこいよ」
簡単に言いやがって――と愚痴を捨てながら、パッチは再び地面を蹴ってディアンブロスに飛びかかった。
巨体がさらに大きく傾く。衝撃で顔が砕け、地面に岩が落ちた。
「あの巨人を推している……いけるぞ! 兵士たちよ! 我等もこれに続け!」
ボルノが笛を吹くと、兵士たちも呼応して一気に攻め始めた。
二発の強烈なパンチを食らった巨人――ディアンブロスは、それでもしっかりと踏ん張って、体勢を整える。
生半可な攻撃じゃ効かない。
ヒリヒリとする右拳が証拠だ。
巨人もまず最初に叩くべき相手を見つけたようで、その燃え盛る眼でパッチを睨み付けた。
凪ぎ払い、踏みつけ、拳を振り下ろす。
そのどれもが厄災に匹敵するほどの威力だ。野原は焼けて、何人のもパピーが巻き添えを喰らった。
――あのバカモグラよりも厄介かもな。
なんとか距離を取りながら、パッチは考えていた。
大降りな巨人の行動を予測することは簡単だ。だが、リーチ大きすぎる。
「ウイン! 石盤女を呼んでくれよ!」
「駄目だ。彼女はもう満腹なんだ」
「何だって!? いつ食った!?」
「ついさっきだ!」
掴みかかるディアンブロスの拳を避けて、パッチは再度ウインの隣に着地した。
「ちっ! あの女、今ごろ腹一杯ですやすや寝てやがるのか」
パピーの家に放たれた火を喰らった石盤だ。この争いの元凶でもある。パッチの言う石盤女は、ウインの指示した物を何でも吸い込んで食らうことが出来るのだけれど、一度食らい尽くすと、腹が減るまで寝てしまう。つまり使えないのだ。
「分かったらさっさと倒してくれよ。お前がここに居たら、僕までディアンブロスの巻き添えをくらうだろ」
「チッ、使えねえ看守殿だ」
刺のついた台詞をウインに投げ捨てて、パッチは巨人に向かっていく。
何かあるはずだ。どこかに、弱点が!
ディアンブロスは大きくかぶりをつけてパッチを迎え撃つ。パッチも勢いよく跳び上がって拳を握った。
巨大な拳と小さな拳。巨人のパンチは地面を叩き、小熊のパンチはディアンブロスの顔面に。
作戦もクソもない。とにかく、俺様の性分には合わねえ。
「真っ向勝負だ! とことん付き合ってやる」
いつの間にか灼熱の炎を身に纏ったパッチは、空中で体勢を整えると、今度は反対の拳で巨人の顎を打ち抜いた。
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