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第一話 出会い
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その日、私は学園主催のパーティに出席していた。
色々な令息令嬢達と上辺だけの会話をするのにも疲れて来た頃。私は人気のないテラスで、夜風に当たっていた。
(中身のない会話も、意外と疲れるものね)
パーティの喧騒をBGMに、私は外の景色をぼんやりと眺めていた。
パーティの熱気から距離をおいてみれば、静かな夜の風景との温度差が案外心地よい。
こうしてテラスの柵に頬杖をついて夜の景色を眺めていると、両親から「良い婚約相手を見つけて来なさい」と言われたことすら忘れてしまいそうだった。
(……そろそろ戻らないと)
ここにいては、ぼんやりと時間を過ごしてしまう。ここに出席している他の令嬢と同じように、私も婚約相手を探さないと……と、テラスを離れようとした時。
「パーティは嫌いかい?」
いつのまにか横に立っていた誰かから、声をかけられた。
少しの間驚きで声が出なかった、すぐに我を取り戻して態度を取り繕った。
「いえ、少し疲れてしまったので、夜風に当たっておりました」
言いながら相手の顔をよく見ると、カルダーフォン公爵家の令息、ダンデ・カルダーフォン様だった。そういえば、彼の噂話をしている女子生徒を学園で見かけたことがある。私でも知っているくらいだし、社交界では有名な人らしい。
「実は私も、パーティの騒がしい雰囲気に少し疲れて来た頃だったんだ」
軽く微笑むその顔は、女性の扱いに慣れてそうで、心の中にはほんの少しだけ警戒心が湧いた。
「……では、お邪魔になってしまいそうなので、私は皆様の元へ戻ろうかと思います」
ただ、人気のないテラスで私にわざわざ声をかけて来たということは、このままだと口説かれそうなのは目に見えていたので、この場を離れることにした。
「まあ待て」
「……はい?」
すぐに止められてしまった。
「君は確か、フェルナ・リーチェと言ったか」
「……!失礼致しました。名乗り忘れていました。おっしゃる通り、私はフェルナ・リーチェと申します」
「なに、謝る必要はない。ワタシも名乗っていないからな。君の名前は、先ほどパーティの中で聞こえて来たから知っていたのだ」
「いえ、本来ならば、声をかけていただいた時に名乗るべきでした。それも、ダンデ・カルダーフォン様がお相手となれば尚更です」
「ワタシの名前を知っていたのか」
「ええ、お噂はかねがね聞いております」
「ふふ、悪い噂でなければ良いが」
せっかく上辺だけの会話から離れてテラスへと出て来たのに、またこんな会話をするのでは、休む暇がない。
だから、話が一度切れたタイミングで、「では」と言ってその場を離れようとしたのだが。
「君は、ダンスは得意か?」
ダンデ様がそう聞いて来た。
「ダンスでしたら、少々嗜んでおります」
「それは良いことを聞いた。実は私は、ダンスがあまり得意ではないのだ。しかし、パーティではこの後ダンスをしなくてはならないだろう?」
「はい」
この後は、良い婚約相手を見つけられればその方と共にダンスに参加する催しとなっている。
「君が踊れるのであれば、良ければワタシに教えてもらえないだろうか?」
これだけぐいぐい来られると、拒絶するのも疲れてしまう。
手を握って一緒にステップを踏んでいると、この人は悪い人ではないのかもしれないと思ってもしまう。
両親からの期待と、ダンデ様からのアプローチ。両方の圧力にこじ開けられてできた心の歪みに、すっぽりと収まってしまったのかもしれない。
「君と踊っていると、失敗して恥をかくことは無さそうだ」
「ダンデ様はとてもお上手です。誰と踊られても、失敗することはないでしょう」
「いや、それは違うな。君が相手だから、ワタシも上手くステップを踏めるのだ」
「もったいないお言葉です」
そう言った私の言葉への返事がなかったから、不思議に思ってダンデ様の顔を覗いた。
「もしもこの後一緒に踊る相手がいなければ、ワタシと踊ってはくれないだろうか?」
そう言ったダンデ様の顔があまりにも迫真のものだったから、私は油断してしまったのかもしれない。
あるいは、他の令嬢と同じように、公爵令息という身分に目が眩んでしまったのかもしれない。
どっちにしろ、私のこの時のダンデ様への返事は、後々失敗だったと分かる。
「……はい。ぜひ、ご一緒させて下さい」
色々な令息令嬢達と上辺だけの会話をするのにも疲れて来た頃。私は人気のないテラスで、夜風に当たっていた。
(中身のない会話も、意外と疲れるものね)
パーティの喧騒をBGMに、私は外の景色をぼんやりと眺めていた。
パーティの熱気から距離をおいてみれば、静かな夜の風景との温度差が案外心地よい。
こうしてテラスの柵に頬杖をついて夜の景色を眺めていると、両親から「良い婚約相手を見つけて来なさい」と言われたことすら忘れてしまいそうだった。
(……そろそろ戻らないと)
ここにいては、ぼんやりと時間を過ごしてしまう。ここに出席している他の令嬢と同じように、私も婚約相手を探さないと……と、テラスを離れようとした時。
「パーティは嫌いかい?」
いつのまにか横に立っていた誰かから、声をかけられた。
少しの間驚きで声が出なかった、すぐに我を取り戻して態度を取り繕った。
「いえ、少し疲れてしまったので、夜風に当たっておりました」
言いながら相手の顔をよく見ると、カルダーフォン公爵家の令息、ダンデ・カルダーフォン様だった。そういえば、彼の噂話をしている女子生徒を学園で見かけたことがある。私でも知っているくらいだし、社交界では有名な人らしい。
「実は私も、パーティの騒がしい雰囲気に少し疲れて来た頃だったんだ」
軽く微笑むその顔は、女性の扱いに慣れてそうで、心の中にはほんの少しだけ警戒心が湧いた。
「……では、お邪魔になってしまいそうなので、私は皆様の元へ戻ろうかと思います」
ただ、人気のないテラスで私にわざわざ声をかけて来たということは、このままだと口説かれそうなのは目に見えていたので、この場を離れることにした。
「まあ待て」
「……はい?」
すぐに止められてしまった。
「君は確か、フェルナ・リーチェと言ったか」
「……!失礼致しました。名乗り忘れていました。おっしゃる通り、私はフェルナ・リーチェと申します」
「なに、謝る必要はない。ワタシも名乗っていないからな。君の名前は、先ほどパーティの中で聞こえて来たから知っていたのだ」
「いえ、本来ならば、声をかけていただいた時に名乗るべきでした。それも、ダンデ・カルダーフォン様がお相手となれば尚更です」
「ワタシの名前を知っていたのか」
「ええ、お噂はかねがね聞いております」
「ふふ、悪い噂でなければ良いが」
せっかく上辺だけの会話から離れてテラスへと出て来たのに、またこんな会話をするのでは、休む暇がない。
だから、話が一度切れたタイミングで、「では」と言ってその場を離れようとしたのだが。
「君は、ダンスは得意か?」
ダンデ様がそう聞いて来た。
「ダンスでしたら、少々嗜んでおります」
「それは良いことを聞いた。実は私は、ダンスがあまり得意ではないのだ。しかし、パーティではこの後ダンスをしなくてはならないだろう?」
「はい」
この後は、良い婚約相手を見つけられればその方と共にダンスに参加する催しとなっている。
「君が踊れるのであれば、良ければワタシに教えてもらえないだろうか?」
これだけぐいぐい来られると、拒絶するのも疲れてしまう。
手を握って一緒にステップを踏んでいると、この人は悪い人ではないのかもしれないと思ってもしまう。
両親からの期待と、ダンデ様からのアプローチ。両方の圧力にこじ開けられてできた心の歪みに、すっぽりと収まってしまったのかもしれない。
「君と踊っていると、失敗して恥をかくことは無さそうだ」
「ダンデ様はとてもお上手です。誰と踊られても、失敗することはないでしょう」
「いや、それは違うな。君が相手だから、ワタシも上手くステップを踏めるのだ」
「もったいないお言葉です」
そう言った私の言葉への返事がなかったから、不思議に思ってダンデ様の顔を覗いた。
「もしもこの後一緒に踊る相手がいなければ、ワタシと踊ってはくれないだろうか?」
そう言ったダンデ様の顔があまりにも迫真のものだったから、私は油断してしまったのかもしれない。
あるいは、他の令嬢と同じように、公爵令息という身分に目が眩んでしまったのかもしれない。
どっちにしろ、私のこの時のダンデ様への返事は、後々失敗だったと分かる。
「……はい。ぜひ、ご一緒させて下さい」
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