訳ありエルフを嫁にするため、現役復帰を決意した元賢者の俺

ささやんX

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第二章 新しい朝

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 暖炉の上の、やかんが静かに湯気を立てている。
 湯気で曇った窓から、柔らかい朝日が小屋の中に差し込んでいる。
 やかんに茶葉を放り込むと紅茶のいい匂いが部屋中に拡がっていく。
 セルケトさんは、テーブルに皿を並べている。
 軽く焼いたパンをのせたパン籠をテーブルの真ん中に置いた。
 そして私に笑顔で近づくと、かまどに掛かった鍋を手に取った。
 そして軽く尻を振りながらテーブルの戻ると、お玉でシチューを深めの皿に盛り始めた。
 私は、やかんを持って彼女の横に並んで、二つのカップに紅茶を注いだ。
 そして、一昨日セルケトさんから買ったバターをスプーンですくって入れてかき混ぜる。
 これは、冬にたまにする紅茶の飲み方ですごく暖まる。
「いただきます」
 昨日も彼女と一緒に朝食をとった。ただし昨日はおばさんの姿で、今日は若いエルフの娘だ。肉が位置を変え、小じわが減っている。胸もツンを上を向いている。最初からこれだと、おっさんからすると罪悪感があるよな。
 肩までの橙色の軽い髪が、その間からピンと出ている耳が彼女の童顔には似合っている。
 しかし銅色の瞳は、薄い唇と口元を相まって挑むような気配を感じるのは私だけか。あるいは私にだけか。
 中身は変わらないが、気分は正直に言うと少し違う。
 昨日は、結構、気遣っていた。今日は護ると思う気持ちが強い。
 父親の気持ち、もちろん嫁なので……そこは娘と違うがな。
 左耳の先端が千切れているのは、過酷な過去があったのだろう。
 千切れた耳には、赤い宝石のイヤリングで揺れている。
 それが魔石ではないのは確認している。
 ただ、彼女は、おばさんの服しか持ってこなかったので、苔緑色の厚手のセーターを着ている。これがかなり大きくて、というか今のセルケトさんが小柄なので、彼女の尻の下まで隠してしまう。
「新婚だから、サービス、サービス」とスカートも履かずに太ももを見せてくれる。
 本当の笑顔なら、それは私にとって嬉しいし、それが続けばいいと思っている。

 顔がにやつく前にシチューにスプーンで掬って口に入れた。
 シチューは、昨晩の残りだから、煮込みすぎで野菜がぐずぐすになっている。
 そのほうが寒い朝には、身体に染みわたる感じがしていい。
 セルケトさんは、バター入り紅茶を飲んで少し考えている。
「この飲み方知ってる、アミラさん、そうか…」
「ん?」
 そして、いきなりテーブルの下で私の足を蹴った。
 虫でもいたのだろうか、少し屈んでテーブルの下を見回したがいないようだ。
 それより、もっと気になるモノがあるんだが、なんか新鮮だな…
 いかん、それより、なぜ蹴ったかだ?
 アミラ?に心当たりはないが、この飲み方を私に教えてくれた行商のおばさんだろう。
(しまった!)
「今まで”した”女は全て忘れなさい」
「わかったよ」
 そう言うと、セルケトさんは、思い出したように笑った。
「それより自分の嫁のパンツを覗き見てムラムラしてるフィアス、ははは、可愛い」
 足をばたばたさせながら私を見て言った。
 いい言い方をすると、彼女は私の事を知ろうとしている。
 なら私が嘘をついた事は気が付いただろうか。元妻の事は私は決して忘れない。

 外で鳥の声が聞こえた。
 窓ごしに庭を見ると、昨晩の雪で一面埋めつくされている。
 それでも、昨晩の戦闘でできた複数の大きな穴の跡は分かる。
 へこんでいるし、そこで黒い鳥が、何かを啄んでいる。

 私は手元のパンに眼を戻した。
「今日の昼には、騎士団が来るんだっけ」
 瑞々しさの残る若い声で、セルケトが私に声をかけた。
 昨日のセルケトおばさんが、引っ込み思案な声だったので、まだ慣れない。
「ああ、山の連中が本部に連絡したからな」
 昨晩、山の連中、そう騎士団の駐屯地からの先遣隊が私にそう告げたのだ。
「ねぇ、もう少し優しく言えないかな、なにか昨日のフィアスの方が優しかった」
 セルケトさんは、少し不満のようだ。
 今の会話に優しさを挟む余地があるのだろうか?
「昨日は他人で、今は婚約者だから、もう余裕なのかな」
 そう言われて私は少し考えた。確かに昨日までは、彼女をセルケトさんと呼んでいたな。今は名前を呼ばずに話していたかもしれない。
「ごめん、そんな気は無いのだが……」
「その無意識がたちが悪いのよね」
 彼女は無言で立ち上がって、棚から小さなナイフを取り出した。
「剥いてあげる」
 そう言って、セルケトはリンゴを剥き始めた。

「はい、あ~ん」
 私はセルケトの手ずから、ウサギ型のリンゴを私に食べさせてくれる。
「おいちいですか?」
「?」
「だから、こういう事はどこの新婚でもやってる事だから…、はい、答えなさい」
「おいちい」
 一瞬、脳みそがチーズになった感じがした。たしかに新婚はやってる事かもしれない。ただ、私は再婚で40歳を超えたおっさんだ。セルケトも見かけは若いが、実際は違うだろう。なにしろエルフは長寿だからな。
 いきなりセルケトに頬を指で挟まれた。
「恋愛ってね、傍から見たらこっぱずかしいものなのよ」
 私は、この歳になって恋愛論を語られてしまった。
 しかも、私が直近にした事を例にあげて…
「ベッドの上じゃ、”おいちい”よりも、もっと恥ずかしいことを…」
「やめてくれ!私が悪かった、ごめんなさい」
 さすがに聞いていられず、慌ててとめた。
「今日、貴方の娘が来るんでしょ、騎士団にいる」
 いきなり、話を変えてきた。私は驚きながらも身構えた。
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