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溢れるほどの
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「ステラ様!」
「ハウンド……」
相変わらずよく通る声だった。いつの間にやら柵を挟んで向かい側にいる。
優雅な足取りだったため気付かなかったがそれなりに急いできたらしい。額にうっすらと汗がにじんでいた。
(ハウンドがいたならあの状況も納得ね)
ステラが騙せない場合に備えて他の貴族にも目をつけているのだろうか。
緑と昼の光の中の彼は、また違った印象があった。
木漏れ日の中で、光に透けるほど艶やかな少し長い黒髪が風になびいている。
彼自身がきらきらと陽光を反射して、ステラは思わず眩しさに目を細めた。
緑豊かな公園と彼に置いていかれた人々が、あっという間に背景になってしまう。
「どうしてここに?」
「それは私のせりふよ」
グレアム家からレイクガーデンはそれなりに距離がある。
散歩というには不自然だから、ステラは話をそらした。
詐欺師である彼がどうしてここにいるのか純粋に疑問でもある。
「王都に戻って間もないので挨拶回りをしていました。私もまだまだ若輩者ですからね」
詐欺師だというのにブリジットやデリックよりきちんと社交活動を行っている。
そんなハウンドはステラがいることが幸せだとでも言わんばかりに微笑む。
「……なにかありましたか?」
太陽に雲がかかり、彼の薔薇色の瞳の色が濃く強くなる。
ざわざわと強い風と共にステラの心がざわついて、思わず視線を落とす。
今一番会いたくなかったのだ。
ハウンドが贈ってくれたであろうドレスの変わり果てた残骸を見ていられなくて、クローゼットの奥深くにしまってしまった。
それでも彼に説明しないわけにはいかないだろう。
家の内部事情をそのまま話すのはためらわれたので、事故で汚してしまったことにする。
ハウンドは一瞬なにかを考えていたようだった。
(投資なんだしいい気はしないわよね。それに……あのドレスを汚しておいて実際にはブリジットのドレスで参加するのは呆れられるかも)
ブリジットには似合っていたが自分では着こなせないだけだと思って努力しているが、勉強したところでこれといった打開策はまだ見つかっていなかった。
見られたくない、と思ってしまう。
物思いに沈むステラを引き上げるように、ハウンドはことさら明るく「なるほど!」と笑いかける。
その声に呼応するかのように、また雲間から太陽が現れた。
「先に一着届いてしまったんですね。驚かせてしまって申し訳ありません。おそらくもう、『ちゃんと』届いていると思いますよ」
「どういうこと?」
会話が要領を得ない。
しかしそんなのお構いなく、ハウンドは柵を飛び越えてステラの横に立った。
辻馬車をつかまえてステラと一緒に乗り込む。
「え? ハウンド、挨拶は?」
目を白黒させるステラにハウンドはどうでも良さそうにああ、とこたえる。
「今後のステラ様のためになるかと顔を出したんですが、ステラ様がお困りなら挨拶なんかどうでもいいですよね。またの機会にします」
せっかくステラ様が会いに来てくださったんですからと笑う姿は愛らしい子犬のようにも見える。
たしかに野外の社交場では、いつ参加し退場するのかはある程度自由だ。
自由だが。
(窓越しに、恨めしそうなご令嬢たちの視線を感じる)
馬車が走り出してレイクガーデンを離れるまでステラは生きた心地がしなかった。
「ハウンド……」
相変わらずよく通る声だった。いつの間にやら柵を挟んで向かい側にいる。
優雅な足取りだったため気付かなかったがそれなりに急いできたらしい。額にうっすらと汗がにじんでいた。
(ハウンドがいたならあの状況も納得ね)
ステラが騙せない場合に備えて他の貴族にも目をつけているのだろうか。
緑と昼の光の中の彼は、また違った印象があった。
木漏れ日の中で、光に透けるほど艶やかな少し長い黒髪が風になびいている。
彼自身がきらきらと陽光を反射して、ステラは思わず眩しさに目を細めた。
緑豊かな公園と彼に置いていかれた人々が、あっという間に背景になってしまう。
「どうしてここに?」
「それは私のせりふよ」
グレアム家からレイクガーデンはそれなりに距離がある。
散歩というには不自然だから、ステラは話をそらした。
詐欺師である彼がどうしてここにいるのか純粋に疑問でもある。
「王都に戻って間もないので挨拶回りをしていました。私もまだまだ若輩者ですからね」
詐欺師だというのにブリジットやデリックよりきちんと社交活動を行っている。
そんなハウンドはステラがいることが幸せだとでも言わんばかりに微笑む。
「……なにかありましたか?」
太陽に雲がかかり、彼の薔薇色の瞳の色が濃く強くなる。
ざわざわと強い風と共にステラの心がざわついて、思わず視線を落とす。
今一番会いたくなかったのだ。
ハウンドが贈ってくれたであろうドレスの変わり果てた残骸を見ていられなくて、クローゼットの奥深くにしまってしまった。
それでも彼に説明しないわけにはいかないだろう。
家の内部事情をそのまま話すのはためらわれたので、事故で汚してしまったことにする。
ハウンドは一瞬なにかを考えていたようだった。
(投資なんだしいい気はしないわよね。それに……あのドレスを汚しておいて実際にはブリジットのドレスで参加するのは呆れられるかも)
ブリジットには似合っていたが自分では着こなせないだけだと思って努力しているが、勉強したところでこれといった打開策はまだ見つかっていなかった。
見られたくない、と思ってしまう。
物思いに沈むステラを引き上げるように、ハウンドはことさら明るく「なるほど!」と笑いかける。
その声に呼応するかのように、また雲間から太陽が現れた。
「先に一着届いてしまったんですね。驚かせてしまって申し訳ありません。おそらくもう、『ちゃんと』届いていると思いますよ」
「どういうこと?」
会話が要領を得ない。
しかしそんなのお構いなく、ハウンドは柵を飛び越えてステラの横に立った。
辻馬車をつかまえてステラと一緒に乗り込む。
「え? ハウンド、挨拶は?」
目を白黒させるステラにハウンドはどうでも良さそうにああ、とこたえる。
「今後のステラ様のためになるかと顔を出したんですが、ステラ様がお困りなら挨拶なんかどうでもいいですよね。またの機会にします」
せっかくステラ様が会いに来てくださったんですからと笑う姿は愛らしい子犬のようにも見える。
たしかに野外の社交場では、いつ参加し退場するのかはある程度自由だ。
自由だが。
(窓越しに、恨めしそうなご令嬢たちの視線を感じる)
馬車が走り出してレイクガーデンを離れるまでステラは生きた心地がしなかった。
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