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第3幕 溢れる疑惑
03
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ガバリと強く抱き着かれ、子供のようにはしゃぐ姿にげんなりする。
その姿は若々しく四十代には到底見えない。喜びを全身で伝えのし掛かって来るオヤジに、腰にズキッと鈍痛が走る。
うう……腰、腰が……。
くっ、砕けるーー‼︎
「ちょ、わかったから……オヤジ、取り敢えず離れてくれる?」
「久々なのに瀬菜ってば冷たい……お父さん悲しいよ……」
「はいはい。で? 急に帰って来てどうしたんだ?」
「ほら、お母さんと海外旅行、今週木曜日からでしょ? 支度もあるし、瀬菜行かないって言うし早めに休み取れたから、たまにはお父さんしようかと思って! だから、いっぱい甘えていいからね!」
スリスリと頬を寄せてくる父親に冷たい声で伝える。
「……いや、俺、そんな歳じゃないからお構いなく」
おふくろもぶっ飛んでいるが、オヤジはもっとぶっ飛んでいる。ひとり暮らしが寂しいのか、帰って来るとこの調子でここぞとばかりに息子の俺に甘えてくるのだ。確かに昔は父親が不在のことを悲しんだ時期もあった。でもすでに俺は寂しがるような歳ではないのだ。
オヤジにあれやこれやと高校生活のことを質問され話をしていると、おふくろも帰宅し久々の家族団欒で賑やかになった。一緒に寝ようと言いだすオヤジの寝言を交わし、部屋に入ると鍵を掛け疲れた俺はベッドに横たわると知らぬうちに眠っていた。
***
ドンドン、ドンドンドンッ‼︎
あまりにも大きな音で扉を叩かれ、流石の俺も目を覚ます。悠斗の優しい起こしかたとは大違いで、朝からイライラとしてしまう。
鍵を開け扉を開くと、オヤジがエプロン姿で満面の笑みを携えおはようの挨拶をしてくる。低血圧に加えて最悪の目覚めに素っ気なく答える。
「……はよ……」
「瀬菜、寝起きもカワイイね~♪ お父さん嬉しいな~♡ 顔洗って朝ごはん食べよ♪」
はぁ……とため息を吐き、リビングに向かいご飯を食べる。オヤジの料理は益々磨きがかかっている。料理だけは柳家で天才的な才能を発揮している。もうすぐ完食というところで、悠斗がリビングに「おはようございます」と言いながら顔を出した。
「瀬菜が珍しく起きてると思ったら、おじさん帰っていたんですね」
「久しぶりだねー悠斗君。瀬菜ってば本当に起きないよね。鍵まで閉めちゃうんだよ?」
「オヤジが俺のベッドに潜り込むからだろ!」
「一緒に寝てなにが悪いの! 瀬菜ってば酷い! たまにはいいじゃん!」
「良くねぇよ! ご馳走様! 悠斗ちょい待ってて? 俺、支度して来る」
「うん、ここで待っているね? ゆっくりでいいよ?」
すっかり目覚めたので、いつにも増して早く支度を済ませると、和気藹々と話し込んでいる悠斗に声を掛け、オヤジの戯言に巻き込まれないうちに早々に家を出る。
「おじさん凄く嬉しそうだね。瀬菜のこと色々聞かれたよ?」
「昨日からあのテンションでさ。マジ疲れる。なに話していたんだ?」
「学校のこととか色々。ほら、瀬菜のことひとりにしっちゃってるし、仕事柄とはいえ心配なんだよ」
「俺、もう高校生だぞ? なにかあれば悠斗んちも助けてくれるし」
「でもやっぱり親ってそういうものだから」
「うん……。あっ、それはそうとコレ、今日もして?」
悠斗に絆創膏を渡し貼ってと催促する。
悠斗は苦笑い気味に受け取り、昨日と同じ場所に絆創膏を貼る。
「……なんだか切ないな。俺の印を隠しちゃうのって」
「でもほら、隠れててもここにあるだろ。それに気持ちも……さ」
照れながらそう言う俺に、悠斗は花を咲かせたように笑顔になる。
「うん。消えそうになったら、また付けてもいい?」
「ぶはっ! 乙女かよ! 俺、絆創膏でかぶれちゃうよ」
「ふふっ、それもそうだね。はい、もういいよ」
木曜日までは悠斗と過ごせる時間は登下校だけかなーと思い、たまには親孝行するかと考えながら学校に向かった。
その姿は若々しく四十代には到底見えない。喜びを全身で伝えのし掛かって来るオヤジに、腰にズキッと鈍痛が走る。
うう……腰、腰が……。
くっ、砕けるーー‼︎
「ちょ、わかったから……オヤジ、取り敢えず離れてくれる?」
「久々なのに瀬菜ってば冷たい……お父さん悲しいよ……」
「はいはい。で? 急に帰って来てどうしたんだ?」
「ほら、お母さんと海外旅行、今週木曜日からでしょ? 支度もあるし、瀬菜行かないって言うし早めに休み取れたから、たまにはお父さんしようかと思って! だから、いっぱい甘えていいからね!」
スリスリと頬を寄せてくる父親に冷たい声で伝える。
「……いや、俺、そんな歳じゃないからお構いなく」
おふくろもぶっ飛んでいるが、オヤジはもっとぶっ飛んでいる。ひとり暮らしが寂しいのか、帰って来るとこの調子でここぞとばかりに息子の俺に甘えてくるのだ。確かに昔は父親が不在のことを悲しんだ時期もあった。でもすでに俺は寂しがるような歳ではないのだ。
オヤジにあれやこれやと高校生活のことを質問され話をしていると、おふくろも帰宅し久々の家族団欒で賑やかになった。一緒に寝ようと言いだすオヤジの寝言を交わし、部屋に入ると鍵を掛け疲れた俺はベッドに横たわると知らぬうちに眠っていた。
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ドンドン、ドンドンドンッ‼︎
あまりにも大きな音で扉を叩かれ、流石の俺も目を覚ます。悠斗の優しい起こしかたとは大違いで、朝からイライラとしてしまう。
鍵を開け扉を開くと、オヤジがエプロン姿で満面の笑みを携えおはようの挨拶をしてくる。低血圧に加えて最悪の目覚めに素っ気なく答える。
「……はよ……」
「瀬菜、寝起きもカワイイね~♪ お父さん嬉しいな~♡ 顔洗って朝ごはん食べよ♪」
はぁ……とため息を吐き、リビングに向かいご飯を食べる。オヤジの料理は益々磨きがかかっている。料理だけは柳家で天才的な才能を発揮している。もうすぐ完食というところで、悠斗がリビングに「おはようございます」と言いながら顔を出した。
「瀬菜が珍しく起きてると思ったら、おじさん帰っていたんですね」
「久しぶりだねー悠斗君。瀬菜ってば本当に起きないよね。鍵まで閉めちゃうんだよ?」
「オヤジが俺のベッドに潜り込むからだろ!」
「一緒に寝てなにが悪いの! 瀬菜ってば酷い! たまにはいいじゃん!」
「良くねぇよ! ご馳走様! 悠斗ちょい待ってて? 俺、支度して来る」
「うん、ここで待っているね? ゆっくりでいいよ?」
すっかり目覚めたので、いつにも増して早く支度を済ませると、和気藹々と話し込んでいる悠斗に声を掛け、オヤジの戯言に巻き込まれないうちに早々に家を出る。
「おじさん凄く嬉しそうだね。瀬菜のこと色々聞かれたよ?」
「昨日からあのテンションでさ。マジ疲れる。なに話していたんだ?」
「学校のこととか色々。ほら、瀬菜のことひとりにしっちゃってるし、仕事柄とはいえ心配なんだよ」
「俺、もう高校生だぞ? なにかあれば悠斗んちも助けてくれるし」
「でもやっぱり親ってそういうものだから」
「うん……。あっ、それはそうとコレ、今日もして?」
悠斗に絆創膏を渡し貼ってと催促する。
悠斗は苦笑い気味に受け取り、昨日と同じ場所に絆創膏を貼る。
「……なんだか切ないな。俺の印を隠しちゃうのって」
「でもほら、隠れててもここにあるだろ。それに気持ちも……さ」
照れながらそう言う俺に、悠斗は花を咲かせたように笑顔になる。
「うん。消えそうになったら、また付けてもいい?」
「ぶはっ! 乙女かよ! 俺、絆創膏でかぶれちゃうよ」
「ふふっ、それもそうだね。はい、もういいよ」
木曜日までは悠斗と過ごせる時間は登下校だけかなーと思い、たまには親孝行するかと考えながら学校に向かった。
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