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第21幕 卒業旅行は終わりで始まり
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「瀬菜……カナちゃんとなにかあったの?」
「いや、なにかってほどじゃないんだ。俺が気にしているだけで……」
「やっぱりなにかあったんだね?」
「本当に由良りんは関係ないんだ。けど悠斗、そのさ……、俺たちちゃんと思い合っている……よな?」
そっと顔を上げ様子を窺うが、悠斗の顔は暗闇に遮られ確認することができなかった。こんなにも心配し、大雨の中、どこに居るのか分からない俺を探してくれたのだ。疑う必要はなかったが、なぜか由良りんの言葉がモヤモヤと胸に刺さっていた。シャツをギュッと握りしめ言葉を待つが、悠斗からの返事はない。
「……悠斗? もしかして、お前──」
「カナちゃんに言われたのはそれだけ?」
「う、うん……」
「……瀬菜、外が静かになったみたい。きっと雨が治まった。また降る前に戻ろう?」
頷き立ち上がろうとすると、ズキッと手のひらに痛みを感じる。そういえば深く釣り針を刺し、無理矢理抜いたのを思い出す。
「もしかして怪我してるの? 見せて?」
恐る恐る懐中電灯に利き手を差し出すと、手のひらは埃で黒く汚れ、赤黒くベッタリと濡れていた。不注意とはいえ、無理矢理抜いたのがいけなかったようだ。
「これは酷い……戻ったら手当しないと。ほかは平気?」
「あっ、うん。大丈夫だと思う」
「本当に? 取り敢えず戻らないとなにもできないか。ならこれお願いね?」
首を傾げていると、悠斗にカッパや脱いだ濡れた服と懐中電灯を渡される。
「ほら早く背中に乗って? 瀬菜が道照らしてね?」
「えっ? 海亀?」
助けられたのは俺なのだが、まるで浦島太郎だ。助けた亀に乗れと言われた気分だが、どうやら龍宮城へ連れて行ってくれるらしい。
「なに馬鹿なこと言ってるの。手繋げないからおんぶ」
「……あぁ」
荷物は悠斗が持てば左手で手を繋げるだろ? ……とは口が裂けても言えない。おそらくなにか言った途端に怒られてしまう。素直におぶられ外に出ると、先ほどの雨風が嘘のように止み、雲はあるものの所々に輝く星が見えている。
小屋のほうを振り返ると、濡れた砂浜がジャリジャリと音を立て点々と悠斗の足跡だけを残していく。ひとり分の足跡がなんとなく寂しそうで悠斗の背中に密着した。潮の香りと混ざり、悠斗の香りが鼻先に触れる。
穏やかだった綺麗な海は、心を表すように雨が止んでも荒波が寄せては引き、うるさいぐらいに波音を立たせていた。
「あのね……瀬菜、さっきの話だけど、ちゃんと瀬菜のこと思ってあげられているか……そう言われたら、自信ないかもしれない」
「いや、なにかってほどじゃないんだ。俺が気にしているだけで……」
「やっぱりなにかあったんだね?」
「本当に由良りんは関係ないんだ。けど悠斗、そのさ……、俺たちちゃんと思い合っている……よな?」
そっと顔を上げ様子を窺うが、悠斗の顔は暗闇に遮られ確認することができなかった。こんなにも心配し、大雨の中、どこに居るのか分からない俺を探してくれたのだ。疑う必要はなかったが、なぜか由良りんの言葉がモヤモヤと胸に刺さっていた。シャツをギュッと握りしめ言葉を待つが、悠斗からの返事はない。
「……悠斗? もしかして、お前──」
「カナちゃんに言われたのはそれだけ?」
「う、うん……」
「……瀬菜、外が静かになったみたい。きっと雨が治まった。また降る前に戻ろう?」
頷き立ち上がろうとすると、ズキッと手のひらに痛みを感じる。そういえば深く釣り針を刺し、無理矢理抜いたのを思い出す。
「もしかして怪我してるの? 見せて?」
恐る恐る懐中電灯に利き手を差し出すと、手のひらは埃で黒く汚れ、赤黒くベッタリと濡れていた。不注意とはいえ、無理矢理抜いたのがいけなかったようだ。
「これは酷い……戻ったら手当しないと。ほかは平気?」
「あっ、うん。大丈夫だと思う」
「本当に? 取り敢えず戻らないとなにもできないか。ならこれお願いね?」
首を傾げていると、悠斗にカッパや脱いだ濡れた服と懐中電灯を渡される。
「ほら早く背中に乗って? 瀬菜が道照らしてね?」
「えっ? 海亀?」
助けられたのは俺なのだが、まるで浦島太郎だ。助けた亀に乗れと言われた気分だが、どうやら龍宮城へ連れて行ってくれるらしい。
「なに馬鹿なこと言ってるの。手繋げないからおんぶ」
「……あぁ」
荷物は悠斗が持てば左手で手を繋げるだろ? ……とは口が裂けても言えない。おそらくなにか言った途端に怒られてしまう。素直におぶられ外に出ると、先ほどの雨風が嘘のように止み、雲はあるものの所々に輝く星が見えている。
小屋のほうを振り返ると、濡れた砂浜がジャリジャリと音を立て点々と悠斗の足跡だけを残していく。ひとり分の足跡がなんとなく寂しそうで悠斗の背中に密着した。潮の香りと混ざり、悠斗の香りが鼻先に触れる。
穏やかだった綺麗な海は、心を表すように雨が止んでも荒波が寄せては引き、うるさいぐらいに波音を立たせていた。
「あのね……瀬菜、さっきの話だけど、ちゃんと瀬菜のこと思ってあげられているか……そう言われたら、自信ないかもしれない」
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