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10 ジェームズ視点②
しおりを挟む「さて、分かっていると思うが、私が尋ねたいのはリリアの居場所についてだ」
殿下は一刻も惜しいと言うかのようにコツコツと指で机をたたきながら僕に尋ねた。それを見ながら尋常ではない冷気が殿下から漏れ出ているのに気が付く。不機嫌なんてものじゃない、これは返答次第では殺られる。剣の腕では王国中で3本の指に入るといわれている殿下なら、そこに置いてある高そうな剣で僕を斬りかねない。
「リリアが王城から出て行った。しかも無断で。リリアはどこに居る?」
そう問いかける殿下は、尋ねつつもすでに答えを知っているようだった。殿下が氷の君と言われるゆえんである碧眼でこれ以上無いほど冷たく射貫かれ、背筋にひやりとした物が伝った。もう全部正直に話してしまいたい衝動に駆られるが、妹の顔を思い出して何とかこらえる。
「さあ、どこでしょうな。あの子は今体調不良で療養中なのです。今は殿下にお会いできないかと」
「質問に答えろ。リリアは今どこに居る?」
「どことおっしゃいましても…知ってどうなさるのですか?」
殿下はもはやいらだちを隠そうともせずに立ち上がった。
「リリアの侍女が言っていた。彼女が婚約破棄するつもりだと。このまま放っておけば彼女は私と婚約破棄したいなどと言い出すだろう…まさかと思うが、お前がタイミングよく現れたのは婚約破棄を告げるためなんて言わないよな?」
「えっ?ああ、実はそう」
「もしそうならカーテノイド公爵家の今後についてじっくりと話し合わなければならないな。公爵令嬢が無許可で城を出入りし、あまつさえ連絡もよこさないのだから」
殿下は僕の言葉にかぶせるように言った。僕は開いた口が塞がらなかった。今この人、なんて言った?今後について話し合うって、それ絶対処罰とかそういうやつですよね?
えーっと、つまり今の殿下の言葉を要約すると、「お前のとこの令嬢がルール違反したんだからてめえの家で落とし前つけろや」ってこと?
いやいや、何言っちゃってんの?元はといえばあなた方王族がふがいないことが原因ですが?リリアが王城でひどい目に遭ってもなーんにも対応しなかったのはそちらですし?なーに被害者面してんだよ…ってこわいこわいこわい!!なんか出してる!!
殿下は長くてキラキラ光る銀色の剣をさやから取り出していた。窓から差し込む光にそれをかざす殿下。どっと汗が噴き出した。
「そういえば最近お前と手合わせしていないな。久しぶりにどうだ?」
「…はは…」
え、嘘でしょ!?あ、あなたそれここで出しちゃだめなやつ!だめなやつですからああ!!え、何?それで何するの?あ、手紙でも切るのかな?いやあ、剣で手紙切るとか器用ですね!って違う違う、手合わせ!?この人と?嘘でしょ!!あなた自分の剣の実力分かって言ってます?
「リリアは公爵家か?」
「は、はいっ!…あっ」
完全に剣に気を取られて、殿下の質問に普通に答えてしまった。しまったと思ったがもう遅い。殿下は剣をすっと流れるような仕草で鞘に収め、腰に下げて僕の横を通り過ぎた。
「殿下!お待ちください!」
声のする方へ振り向くと、殿下の側近、アーノルドが殿下を追いかけているところだった。
「どこに行かれるのです!?」
「決まっているだろう。カーテノイド公爵家だ」
「先触れを出してからにしてください!あまりに急ですよ!向こうでも戸惑ってしまわれるでしょう!?」
「うるさい。リリアも何の連絡もよこさず消えたじゃないか。お互い様だ」
「そういう問題じゃありませんからね!?一国の王太子が礼儀を欠いた行動をすると臣下に示しが…ってああ!」
殿下はなんと2階の窓から下に飛び降りてしまった。アーノルドは頭を抱えている。僕は彼の肩をぽんとたたいた。
「…大変だな、君も」
同情したつもりだったが、アーノルドにはキッと睨まれてしまった。
「そもそもお宅の妹君が無断外出なんてしなければこんなことにはならなかったんですよ!?殿下に何かあったらどうしてくれるんですか!!」
「はあ?相変わらず自分たちのことしか考えてないんだな。リリアにはリリアの事情があったんだよ。これだから文官は頭が固くて困る」
思ったことを思わず口にしてしまい、気づいたらアーノルドはゆでだこのように赤くなっていた。
「何ですって!?ろくに家から出ずに文句ばかり言うあなたに言われたくありませんね!」
「何だと!?王城の仕事が世の中の全ての仕事だとでも思っているのかい?君は書類を整理する前に一度その散らかった頭の中身を整理した方がいいね!」
「なっ……そういうあなたは、さっき殿下が剣を取り出されたとき震えて立てなくなっていましたけどね!」
「いやあれは誰でも怖いだろ!!というか殿下は確信犯でしょ!?僕の気が逸れるの狙ってたんだよね!?そのためだけに抜刀するなんて何て方だ!!」
「…確かに殿下もやり過ぎですが…」
「ほら見ろ!そうだ、お前から殿下に申し上げておけよ。もうあんなことはなさらないでくださいってな!ああもう、殿下にリリアの場所が知れてしまった。私も早く戻らないと」
僕はそう吐き捨てると無礼な文官に背を向けてサリーを迎えに行った。
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