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村長の娘サラ

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「ユキ!」

 畑仕事をする人たちに挨拶を交わしながら、時に世間話を一言二言かけながら歩いていると、前方からこれまた幼馴染のサラが現れた。
 ユキがビクリと体を震わす。

「あんたまたドジやらかしたらしいじゃない」

 勝ち気な瞳でユキを指さしながらサラが鼻で笑う。
 もう今朝の噂が広がっているのか? いやいくらなんでも早すぎる。たぶんサラは前の話をしているのだろう。
 身に覚えがありすぎることに、ユキはガックシと消沈する。

「うるさいなぁ」

 気落ちした気分でサラに構う余裕などない、一言そう告げるとそのまま歩き去る。

「ちょっとユキのくせに私を無視する気」

 村では週に2度、同じぐらいの子供たちを集めて読み書きや計算などを教えてくれる『学校』なる日がある。サラやカイルたちとはそこで知り合ったのだが、サラは出会った時からなぜか、ユキにだけこんなけんか腰の態度をとってくるのだ。

 村で読み書きができる大人はほとんどいない、だから子供たちも初めはそれができなくてあたりまえだ、しかし魔法使いの弟子だったユキはすでに一通りの読み書きと簡単な計算はできていた。
 じゃあなぜわざわざそんなところに通っているのか。リオン曰く『私は世界のあらゆることを知っているし、教えてやることができる。ただし人との関係は教えられない』だそうだ。単に面倒なだけなのではとも思うが、そのおかげでカイルと言う親友とも出会えたし、他の村の子供たちやその親とも知り合いになれた。だからユキは『学校』に通えることを感謝している。

 話を戻すがサラは村の村長の娘で、村で唯一『学校』に行く前から多少文字が読めることが自慢だったようだ。なので、初日にその自慢の鼻をへし折ったユキを敵対しているのだろう、とユキは思っている。

「ちょっと待ちなさいよ」

 サラが怒ったように声を荒げる。

「なんで無視するのよ! 寂しいじゃない!」
「?」

 ユキが振り返る。サラが自分でもびっくりしたように口を押えている。

「寂しいの? 僕に無視されて」

 何かを言いかけた口を押えて、首を横にブンブン振る。

「サラ?」
「なによ! ユキのくせに!」
 
 サラはどうにかそう叫ぶと、脱兎のごとく走り去る。
 いつもよくわからないサラだが、今日は一段と意味不明だ。その背中を見送りながらユキが首を傾げる。

「カイルといい。サラといい、口を押えて」

 眉間に皺を寄せる。

「今日はみんなお腹の調子悪いのかな?」

 そんな感想を口にして、それからハッとする。

「まさかこの薬のせいなんじゃ」

 ユキがそう思った時、また声をかけてきたものがいた。
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