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最終章 一度目のその先へ
変わりゆく
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「ユアン、もう少し安くならないか」
アレクがユアンの屋敷のテーブルに突っ伏しながらそうこぼした。
市街地と王宮の間に位置するユアンの屋敷は、いつからかアレクの休憩所になっていた。
ここ最近毎日のように取引というか愚痴をこぼしにきている。
メアリーと一緒にいる時間よりアレクと過ごす時間の方が多いのではないかと思うぐらいに。
「いや、これ以上下げたら、こっちも赤がついちゃうんで」
ユアンが困ったようにそう言った。本当にぼったくっているわけではない、大きな魔法石はフーブル国では採掘できず輸入に頼っているのだが、その運送費手間賃もろもろ合わせたらほぼタダといっていい値段である。それにユアンが稼いだ資金はほぼアスタの研究ラボに回されていた。
どうやら新たな魔法石の使い方を思いついたらしい。それが成功すればさらに未来には役に立つということだ。
「メアリーの店は繁盛してるんだろ」
確かにメアリーの店は今や市街地で一番の人気店だ。美味しいだけでなくメアリーの聖魔法が料理にも効いているのか、メアリーの料理を食べるとみな元気になったと言って帰っていくらしい。
また色々な国を回るうちに妊娠中に気をつけないとならない食材や取ると体に良いものなどを知ったユアンは、妊婦用メニューや過去の自分と同じように肥満に悩む人のためのダイエットメニューなどを考案し提供していた。
「こっちも従業員を養わなければならないので」
いくら国のため未来のためとはいっても、今を生き抜かなくては意味がない、それに利益を上げるためにはそれなりの投資も必要なのだ、なのでこれ以上は本当に死活問題なのだ。
現にこれだけユアンもメアリーも成功しているのに、二人の生活は質素なものであった。
「ハァ。だよな」
「で、今日はどうしたんですか?」
まるで自分の屋敷のごとくソファーで寛いでいるアレクに、仕事の書類を確認し終えるとユアンはそう声をかけた。
値段の交渉をしに来ただけではないのは、アレクの疲れ具合から予想がつく。
「とうとう、じいさんたちが予算を切りやがったんだ」
じいさんとは、貴族の重鎮たちのことだろう。
「道の工事や街灯・水場などはいいが、平民の家一つ一つに自然災害対策費なんてだせないらしい」
「まぁ、そうですよね」
街灯や水場の設備、道の舗装などは、ローズマリーの公約とはいえ、よくやったと思う。
「逆によくここまで、できたと思いますよ」
いままでの王太子妃の公約としては一番予算をさいた大事業だっただろう。フローレス家も相当援助して成し遂げたと聞いている。
なのでさらに平民たちの家の補強予算案を通すのは難しい話だった。
「やはり全ての建物の修繕より、ルナの言う土魔法石の設置の方が安くあがるから、そちらのほうで話を進めてみるしかないんじゃないですか」
街灯や水場などが綺麗に整えられた街並みを見る限り、ユアンも地震による火災はだいぶ抑えられるのではないかという期待がある。
後は地震による建物の倒壊をいかに防ぐかだが、貴族の屋敷と違って、小さな家や建物内に何人も住んでいるような集合住宅、全てを補強するのはどんなにこの先予算をだしても難しいだろう。それに時間もかかるどこかで区切りをつけないと国も困窮してしまうのはよくわかる。
アレクがため息を付く。
その時部屋の扉がノックされた。
「メアリーお帰り」
「ただいま、ユアン……」
目が合ったとたん花が咲いたようにほころぶ。
かと思うとその瞳がウルウルと潤んでいく。
「ど、どうしたのメアリー」
ユアンが椅子を倒しながら立ち上がると、メアリーの周りであたふたとする。
「何かあったの? 嫌な客がきたの?」
しかしメアリーは横に首を振った。
「違うのユアン」
メアリーが若草色の瞳を煌めかせながらユアンを見上げる。
「赤ちゃんができたの」
「──っ!!」
「メアリー嬢! 本当か! そりゃめでたい。ユアンもとうとう父親か」
アレクに背中をバシバシ叩かれハッと我に返るユアン。
「ほ、本当に?」
「うん。ただこんな時期だし、それにユアンの話を聞いていたから、安定期に入って、もう大丈夫だと思えるまで黙ってたの。ごめんなさい」
そう言われてみれば最近メアリーはフワフワした体形の分からない服ばかり好んできていた。
風邪気味だとか、疲れがたまってるからと、少し距離を置かれていたのはそういうわけだったのか。
メアリーのお腹にそっと手を当てる。
まだ目立つほどではないが、確かにそこにはいままでなかった確かなふくらみがあった。
「メアリー」
ガバリとメアリーに抱きつく。
「ユアン。気を付けて」
そう言われて慌てて体を離す。
「きっと、大丈夫。未来は必ず変えてみせるわ」
ユアンの頬をメアリーが優しく包み込む、そして力強くそう断言した。
☆──☆
『ユアン、ごめんなさい』
誰も悪いわけではない。ベッドの上で泣いているメアリーにかける言葉を見つけられずただユアンはメアリーのその細い肩を抱きしめた。
同じ部屋、同じベッド。だが──
「ユアン。抱いて上げて」
少し憔悴してるが頬を高揚させたメアリーがほほ笑んでいる。
メイドたちによって体を綺麗にしてもらい、フカフカのおくるみに包まれ、メアリーの乳をたっぷり飲んで満足したのか、さっきまでフギャフギャと泣いていたのに今はすっかり大人しくなった赤ん坊を見る。
「大丈夫?」
「大丈夫よ」
恐る恐る赤子を受け取る。
抱かれ方が気に食わないのか、一瞬、目を開けたように見えたが、すぐにそのまま深い眠りに落ちていく。
ユアンに似た青みがかった黒髪に一瞬見えた瞳はメアリーと同じ若草色。
「ユアン名前は考えてくれた?」
「レオン。レオン・ハーリング」
「レオン。いい名前ね」
「……ありがとう。メアリー」
生まれ変わってから小さな変化は沢山あった。でも今初めて自分の未来が本当の意味で大きく変わったことをユアンは実感した。
アレクがユアンの屋敷のテーブルに突っ伏しながらそうこぼした。
市街地と王宮の間に位置するユアンの屋敷は、いつからかアレクの休憩所になっていた。
ここ最近毎日のように取引というか愚痴をこぼしにきている。
メアリーと一緒にいる時間よりアレクと過ごす時間の方が多いのではないかと思うぐらいに。
「いや、これ以上下げたら、こっちも赤がついちゃうんで」
ユアンが困ったようにそう言った。本当にぼったくっているわけではない、大きな魔法石はフーブル国では採掘できず輸入に頼っているのだが、その運送費手間賃もろもろ合わせたらほぼタダといっていい値段である。それにユアンが稼いだ資金はほぼアスタの研究ラボに回されていた。
どうやら新たな魔法石の使い方を思いついたらしい。それが成功すればさらに未来には役に立つということだ。
「メアリーの店は繁盛してるんだろ」
確かにメアリーの店は今や市街地で一番の人気店だ。美味しいだけでなくメアリーの聖魔法が料理にも効いているのか、メアリーの料理を食べるとみな元気になったと言って帰っていくらしい。
また色々な国を回るうちに妊娠中に気をつけないとならない食材や取ると体に良いものなどを知ったユアンは、妊婦用メニューや過去の自分と同じように肥満に悩む人のためのダイエットメニューなどを考案し提供していた。
「こっちも従業員を養わなければならないので」
いくら国のため未来のためとはいっても、今を生き抜かなくては意味がない、それに利益を上げるためにはそれなりの投資も必要なのだ、なのでこれ以上は本当に死活問題なのだ。
現にこれだけユアンもメアリーも成功しているのに、二人の生活は質素なものであった。
「ハァ。だよな」
「で、今日はどうしたんですか?」
まるで自分の屋敷のごとくソファーで寛いでいるアレクに、仕事の書類を確認し終えるとユアンはそう声をかけた。
値段の交渉をしに来ただけではないのは、アレクの疲れ具合から予想がつく。
「とうとう、じいさんたちが予算を切りやがったんだ」
じいさんとは、貴族の重鎮たちのことだろう。
「道の工事や街灯・水場などはいいが、平民の家一つ一つに自然災害対策費なんてだせないらしい」
「まぁ、そうですよね」
街灯や水場の設備、道の舗装などは、ローズマリーの公約とはいえ、よくやったと思う。
「逆によくここまで、できたと思いますよ」
いままでの王太子妃の公約としては一番予算をさいた大事業だっただろう。フローレス家も相当援助して成し遂げたと聞いている。
なのでさらに平民たちの家の補強予算案を通すのは難しい話だった。
「やはり全ての建物の修繕より、ルナの言う土魔法石の設置の方が安くあがるから、そちらのほうで話を進めてみるしかないんじゃないですか」
街灯や水場などが綺麗に整えられた街並みを見る限り、ユアンも地震による火災はだいぶ抑えられるのではないかという期待がある。
後は地震による建物の倒壊をいかに防ぐかだが、貴族の屋敷と違って、小さな家や建物内に何人も住んでいるような集合住宅、全てを補強するのはどんなにこの先予算をだしても難しいだろう。それに時間もかかるどこかで区切りをつけないと国も困窮してしまうのはよくわかる。
アレクがため息を付く。
その時部屋の扉がノックされた。
「メアリーお帰り」
「ただいま、ユアン……」
目が合ったとたん花が咲いたようにほころぶ。
かと思うとその瞳がウルウルと潤んでいく。
「ど、どうしたのメアリー」
ユアンが椅子を倒しながら立ち上がると、メアリーの周りであたふたとする。
「何かあったの? 嫌な客がきたの?」
しかしメアリーは横に首を振った。
「違うのユアン」
メアリーが若草色の瞳を煌めかせながらユアンを見上げる。
「赤ちゃんができたの」
「──っ!!」
「メアリー嬢! 本当か! そりゃめでたい。ユアンもとうとう父親か」
アレクに背中をバシバシ叩かれハッと我に返るユアン。
「ほ、本当に?」
「うん。ただこんな時期だし、それにユアンの話を聞いていたから、安定期に入って、もう大丈夫だと思えるまで黙ってたの。ごめんなさい」
そう言われてみれば最近メアリーはフワフワした体形の分からない服ばかり好んできていた。
風邪気味だとか、疲れがたまってるからと、少し距離を置かれていたのはそういうわけだったのか。
メアリーのお腹にそっと手を当てる。
まだ目立つほどではないが、確かにそこにはいままでなかった確かなふくらみがあった。
「メアリー」
ガバリとメアリーに抱きつく。
「ユアン。気を付けて」
そう言われて慌てて体を離す。
「きっと、大丈夫。未来は必ず変えてみせるわ」
ユアンの頬をメアリーが優しく包み込む、そして力強くそう断言した。
☆──☆
『ユアン、ごめんなさい』
誰も悪いわけではない。ベッドの上で泣いているメアリーにかける言葉を見つけられずただユアンはメアリーのその細い肩を抱きしめた。
同じ部屋、同じベッド。だが──
「ユアン。抱いて上げて」
少し憔悴してるが頬を高揚させたメアリーがほほ笑んでいる。
メイドたちによって体を綺麗にしてもらい、フカフカのおくるみに包まれ、メアリーの乳をたっぷり飲んで満足したのか、さっきまでフギャフギャと泣いていたのに今はすっかり大人しくなった赤ん坊を見る。
「大丈夫?」
「大丈夫よ」
恐る恐る赤子を受け取る。
抱かれ方が気に食わないのか、一瞬、目を開けたように見えたが、すぐにそのまま深い眠りに落ちていく。
ユアンに似た青みがかった黒髪に一瞬見えた瞳はメアリーと同じ若草色。
「ユアン名前は考えてくれた?」
「レオン。レオン・ハーリング」
「レオン。いい名前ね」
「……ありがとう。メアリー」
生まれ変わってから小さな変化は沢山あった。でも今初めて自分の未来が本当の意味で大きく変わったことをユアンは実感した。
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