5 / 11
ネズミ小僧
しおりを挟む
「犬飼たちをうまく引き付けたようだな」
ネズミ小僧はすっかり人数の減った通りから、屋敷の中に難なく忍び込むと。フムと顎に手を当て中の様子を伺った。
中には安久田が雇った浪人風の用心棒たちが数人。それと賭博場の強面たちも何人かいた。
「結構多いな」
毎回予告状を出すたびに、用心棒の人数が増えていくような気がする。
いままで予告状を出されて無事だった屋敷がないのだから当たり前な話なのだが、ネズミ小僧はそれを出すのをやめる気はないらしい。
「ひい、ふう、みい」
ざっと数えると、痺れ薬の塗られた吹矢の数を確認する。
そしてすぐに発見されない人物から静かに一人また一人と片づけていく。しかし、交代者がいつまでたってもこなかったり、立ったままずるりと床に倒れるものが出始めて、ようやく用心棒たちが騒ぎ出した。
「くそ、どこかに隠れているぞ」
仲間の首に刺さっている針を見つけ、一気に警戒を高める。
しかし次の瞬間、ところどころから一斉に噴出した煙に、用心棒たちの視界が奪われる。
「くそ!」
やけくそに刀を振り回すものがでて、勝手に仲間内で傷つけ合いだす。
「それは困りやすね」
しかしそんなものからさきにネズミ小僧は、すっと背後に近づくと、そのものの気を失わせていった。
「一応あっしにも、越えちゃならない縛りがあるんですよ」
いままでネズミ小僧が忍び込んだ屋敷で死者は出ていない。そりゃ戦闘になれば気を失わせたり、相手の腕を折るぐらいはやってしまうが、命までは奪わない。だからよけいに世間は華麗なる義賊と騒ぐのだ。
だがネズミ小僧にとっては本当はそんなことどうでも良かった、優しさから命を奪わないわけじゃない、自分で作った決まりの中でやりきることにこの遊びの面白みを感じてるだけだった。
「まったく、ネコさんは恐ろしい方だ」
真っすぐに自分を捉えた常闇を思わす黒い瞳を思い出す。
義賊と騒がれるもう一人の相手。存在は知っていたがあったのは今夜が初めてだった。
どうせ自分と同じような目をした人物に違いない、そう思っていたのに……
真っ暗な夜だからこそ星が煌めくように、静かな常闇のような瞳の奥には、確かな強い光がともって見えた。
彼女は自分とは全く違った、自分の行いが正義だと胸を張っていえないことをわかっていながら、苦悩しそれでも突き動かされる心に従って、自分の信念を曲げずに突き進んでいる。そんな決意が見えた。
自分は義賊とは程遠いいが、ネコ娘は義賊と呼ぶに値するのかもしれない。そう思わせた。
「しかし馬鹿だ」
今までネコ娘が助けてきた娘たちは、ほとんど人さらいや奴隷商人のようなものたちからだった。だから助けられた娘たちは解放され、ネコ娘に感謝し、世間もやれ英雄だと騒ぎ立てた。
しかし今回の相手はちょっと違う。賭博のかたに売られた娘をただ開放しても親の借金が消えるわけではない、いままで助けた娘たちが無事親元でいまでも暮らせているのは、ひとえにネコ娘が解放した娘たちの借金がいかさま賭博である証拠を役人たち、犬飼たちが突き止めたからだ。再び借金のかたに連れ戻されないように、人知れず手回しをしてくれていたからだ。
しかし今回の相手はそうはいかない。きっと証拠は握りつぶされ。解放された娘たちは再び借金のかたに連れていかれるだろう。
「世の中そんなに甘くない」
やるならとことんつぶさないとダメだ。中途半端な悪は本物の悪人には勝てない。
「そこいくと、あっしは本物の悪だから」
楽しげに笑う。
ネズミ小僧はすっかり人数の減った通りから、屋敷の中に難なく忍び込むと。フムと顎に手を当て中の様子を伺った。
中には安久田が雇った浪人風の用心棒たちが数人。それと賭博場の強面たちも何人かいた。
「結構多いな」
毎回予告状を出すたびに、用心棒の人数が増えていくような気がする。
いままで予告状を出されて無事だった屋敷がないのだから当たり前な話なのだが、ネズミ小僧はそれを出すのをやめる気はないらしい。
「ひい、ふう、みい」
ざっと数えると、痺れ薬の塗られた吹矢の数を確認する。
そしてすぐに発見されない人物から静かに一人また一人と片づけていく。しかし、交代者がいつまでたってもこなかったり、立ったままずるりと床に倒れるものが出始めて、ようやく用心棒たちが騒ぎ出した。
「くそ、どこかに隠れているぞ」
仲間の首に刺さっている針を見つけ、一気に警戒を高める。
しかし次の瞬間、ところどころから一斉に噴出した煙に、用心棒たちの視界が奪われる。
「くそ!」
やけくそに刀を振り回すものがでて、勝手に仲間内で傷つけ合いだす。
「それは困りやすね」
しかしそんなものからさきにネズミ小僧は、すっと背後に近づくと、そのものの気を失わせていった。
「一応あっしにも、越えちゃならない縛りがあるんですよ」
いままでネズミ小僧が忍び込んだ屋敷で死者は出ていない。そりゃ戦闘になれば気を失わせたり、相手の腕を折るぐらいはやってしまうが、命までは奪わない。だからよけいに世間は華麗なる義賊と騒ぐのだ。
だがネズミ小僧にとっては本当はそんなことどうでも良かった、優しさから命を奪わないわけじゃない、自分で作った決まりの中でやりきることにこの遊びの面白みを感じてるだけだった。
「まったく、ネコさんは恐ろしい方だ」
真っすぐに自分を捉えた常闇を思わす黒い瞳を思い出す。
義賊と騒がれるもう一人の相手。存在は知っていたがあったのは今夜が初めてだった。
どうせ自分と同じような目をした人物に違いない、そう思っていたのに……
真っ暗な夜だからこそ星が煌めくように、静かな常闇のような瞳の奥には、確かな強い光がともって見えた。
彼女は自分とは全く違った、自分の行いが正義だと胸を張っていえないことをわかっていながら、苦悩しそれでも突き動かされる心に従って、自分の信念を曲げずに突き進んでいる。そんな決意が見えた。
自分は義賊とは程遠いいが、ネコ娘は義賊と呼ぶに値するのかもしれない。そう思わせた。
「しかし馬鹿だ」
今までネコ娘が助けてきた娘たちは、ほとんど人さらいや奴隷商人のようなものたちからだった。だから助けられた娘たちは解放され、ネコ娘に感謝し、世間もやれ英雄だと騒ぎ立てた。
しかし今回の相手はちょっと違う。賭博のかたに売られた娘をただ開放しても親の借金が消えるわけではない、いままで助けた娘たちが無事親元でいまでも暮らせているのは、ひとえにネコ娘が解放した娘たちの借金がいかさま賭博である証拠を役人たち、犬飼たちが突き止めたからだ。再び借金のかたに連れ戻されないように、人知れず手回しをしてくれていたからだ。
しかし今回の相手はそうはいかない。きっと証拠は握りつぶされ。解放された娘たちは再び借金のかたに連れていかれるだろう。
「世の中そんなに甘くない」
やるならとことんつぶさないとダメだ。中途半端な悪は本物の悪人には勝てない。
「そこいくと、あっしは本物の悪だから」
楽しげに笑う。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる