【完結】夜を舞う〜捕物帳、秘密の裏家業〜

トト

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ネズミ小僧

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「犬飼たちをうまく引き付けたようだな」

 ネズミ小僧はすっかり人数の減った通りから、屋敷の中に難なく忍び込むと。フムと顎に手を当て中の様子を伺った。

 中には安久田が雇った浪人風の用心棒たちが数人。それと賭博場の強面たちも何人かいた。

「結構多いな」

 毎回予告状を出すたびに、用心棒の人数が増えていくような気がする。
 いままで予告状を出されて無事だった屋敷がないのだから当たり前な話なのだが、ネズミ小僧はそれを出すのをやめる気はないらしい。

「ひい、ふう、みい」

 ざっと数えると、痺れ薬の塗られた吹矢の数を確認する。

 そしてすぐに発見されない人物から静かに一人また一人と片づけていく。しかし、交代者がいつまでたってもこなかったり、立ったままずるりと床に倒れるものが出始めて、ようやく用心棒たちが騒ぎ出した。

「くそ、どこかに隠れているぞ」

 仲間の首に刺さっている針を見つけ、一気に警戒を高める。
 しかし次の瞬間、ところどころから一斉に噴出した煙に、用心棒たちの視界が奪われる。

「くそ!」

 やけくそに刀を振り回すものがでて、勝手に仲間内で傷つけ合いだす。

「それは困りやすね」

 しかしそんなものからさきにネズミ小僧は、すっと背後に近づくと、そのものの気を失わせていった。

「一応あっしにも、越えちゃならない縛りがあるんですよ」

 いままでネズミ小僧が忍び込んだ屋敷で死者は出ていない。そりゃ戦闘になれば気を失わせたり、相手の腕を折るぐらいはやってしまうが、命までは奪わない。だからよけいに世間は華麗なる義賊と騒ぐのだ。

 だがネズミ小僧にとっては本当はそんなことどうでも良かった、優しさから命を奪わないわけじゃない、自分で作った決まりの中でやりきることにこの遊びの面白みを感じてるだけだった。

「まったく、ネコさんは恐ろしい方だ」

 真っすぐに自分を捉えた常闇を思わす黒い瞳を思い出す。

 義賊と騒がれるもう一人の相手。存在は知っていたがあったのは今夜が初めてだった。
 どうせ自分と同じような目をした人物に違いない、そう思っていたのに……

 真っ暗な夜だからこそ星が煌めくように、静かな常闇のような瞳の奥には、確かな強い光がともって見えた。

 彼女は自分とは全く違った、自分の行いが正義だと胸を張っていえないことをわかっていながら、苦悩しそれでも突き動かされる心に従って、自分の信念を曲げずに突き進んでいる。そんな決意が見えた。

 自分は義賊とは程遠いいが、ネコ娘は義賊と呼ぶに値するのかもしれない。そう思わせた。

「しかし馬鹿だ」

 今までネコ娘が助けてきた娘たちは、ほとんど人さらいや奴隷商人のようなものたちからだった。だから助けられた娘たちは解放され、ネコ娘に感謝し、世間もやれ英雄だと騒ぎ立てた。
 しかし今回の相手はちょっと違う。賭博のかたに売られた娘をただ開放しても親の借金が消えるわけではない、いままで助けた娘たちが無事親元でいまでも暮らせているのは、ひとえにネコ娘が解放した娘たちの借金がいかさま賭博である証拠を役人たち、犬飼たちが突き止めたからだ。再び借金のかたに連れ戻されないように、人知れず手回しをしてくれていたからだ。
 しかし今回の相手はそうはいかない。きっと証拠は握りつぶされ。解放された娘たちは再び借金のかたに連れていかれるだろう。
 
「世の中そんなに甘くない」

 やるならとことんつぶさないとダメだ。中途半端な悪は本物の悪人には勝てない。

「そこいくと、あっしは本物の悪だから」

 楽しげに笑う。
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