最低な彼

桃華

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 テルと私は真逆の存在。似ている所なんてない。
 それは初めて家に遊びに行った時に思い知らされた。
 母親は数年前に亡くなって、父親はいつも不在だって聞いていた。だから、双子の妹とずっと二人暮らしみたいなものだって。

「虐待じゃん。それ。寂しくないの?」

 だから、勝手に私と同じ境遇なんだと思ってた。

「違うってもうこの年だし。偶にしかいない方が、気楽でいいかな」

 テルはムキになる私に向かってそう言ったけれど、そんなのは強がりだろうと勝手に思ってた。

「…まぁ手のかかるユリアもいるから、以外と寂しくはないかな?」

 そう言って、寂しそうに微笑む彼の表情を見るのが辛かった。
 だって、明るい彼はみんなの虚構だってこと…私は知ってるから。
 私には分かってしまうから。頼る人もいない、誰からも愛されないひとりぼっちの辛さを…。

 でもそれは私の勝手な思い込みだった。彼はみんなから愛されていたから。

 初めて入った彼の家には、写真が沢山飾ってあった。
 母親に抱きついている、幼いテルとユリア。
 父親と剣の稽古中に、ユリアがふざけている写真。

 みんな笑顔で楽しそうで…。理想の家族って感じ。

 自分とは大違いだと思い知った。

 そう気付いた瞬間に、心の中でガラガラと音を立てて何かが崩れてしまった。

(馬鹿みたい……)

 何で私なんかと、テルが同じだなんて思ってしまったんだろう。

 家に行かなくても、テルが愛情を受けて育ったことくらい、誰にでも分かるはずだったのに。
 テルは今でも妹のユリアとはすごく仲が良い。
 家庭崩壊してるような家で育ったとは、到底思えない兄弟仲なのに。
 私の目から見ても、テルはユリアを甘やかしている。ユリアもそんなテルを頼り切っている。

(…じゃあ、あの寂しそうな表情は何なの??王子様は虚だって…どういう意味?)

 テルは私とは真逆の家庭環境だった。

 純血の天使族の家系に産まれたサキュバスと天使族のハーフ。
 家族からは疎まれて、忌み嫌われている私と違ってる。
 誰も頼る人なんていないし、仲良くしたい身内もいない。

 自分の方がテルよりも辛い環境だ。それなのに、虚構だと悲しそうな顔を見せるテルに苛立ちすら覚えた。

「テルおかえり!あ…レナちゃんも来てくれたんだ」

 リビングで出迎えてくれたのは、ユリアだった。
 夕飯の準備中だったのか、部屋の中にはビーフシチューのいい香りが漂っている。

「ただいま。ユリア」

「テルさ、忘れてるかもだけど…。今日の夕食当番。本当はテルだからね」

「あ…。普通に忘れてた」

「もう作ったからいいよ。次変わってくれれば」

 その会話ですら苛立った。私と違うって、思い知らせる為の演技に見えた。

「そんなことより、レナちゃんの分も準備するね?テル以外の誰かに手料理振る舞うなんて初めて…」

 ユリアが私に笑いかけてくる。その表情がマウントをとっているように思えて、頭に血が昇る。

(…ムカつく…)

 目の前に用意されたビーフシチューは、とても美味しそう。
 私のことを歓迎してくれていながら、気恥ずかしそうに私を席に案内してくれるユリア。
 歓迎されたことのない私は、どうしていいのか分からない。
 苛立ちと、困惑からユリアのことを睨み付けた。

「…いらない!そんな物食べるわけないじゃん!!行こうテル。私、外食がいい」

 そんな暴言を投げつけると、呆気に取られている二人を無視して部屋を飛び出した。
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