最低な彼

桃華

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 私を愛してくれる人なら誰でも良かった。

 誰かから必要とされたくて、愛されたくて、身体を差し出した。

 家族に疎まれる、穢れた血の混血児にはそこしか居場所がなかったから。

 身体を重ねることで愛を感じていた。

 どれだけのわがままを聞いてくれるかが、愛の重さを計る物差しになってた。

 だから男が途切れはしなかったけれど、離れていくのも早かった。
 私が一番じゃないならそんな奴は、もういらない。そう言ってブチ切れて別れる…。けど、寂しくてまた誰かにすがる為に身体を差し出す。…が、もはや私のルーティンになってた。
 そんな私を周りの人間は、裏で『ビッチ』と呼んでることも知ってる。

 でも、別に良いと思ってた。混血児で、誰からも何の期待もされてない私だもん。
 人生はイージーだと思ってないとやってられなかった。

 そんな私が、テルと初めて話したのは、夏休み前。

 出来の悪い私は補習を受けることになっていたんだけど、先生が学年一位だったテルに補習の講師を頼んだらしい。

 断ればいいのに内申点を上げたいのか、私に気があったのか…。分からないけど、テルはそれを引き受けた。

 当時付き合ってた人と別れたばかり。おまけにテストは全部赤点。やる気も生きる気力も無くなってた夏休み直前の放課後。
 そんな真っ黒な私と、キラキラしてるテル。真反対な二人が教室で二人きり。

(……最悪だ……)

 サボって帰ろうかとも思ったけれど、留年するのも嫌だったから、大人しく教科書を広げて席に座って待っていた。


 時間通りに現れたテルは、何故か席に着いている私を見て目を丸くしてる。

「何?」

「ちゃんといたんだ?帰ったかと思ってた」

 テルは薄らと微笑みながら、私の前の席に座った。

「帰りたかったよ。でも、留年の方が嫌だったから…」

 話をしたこともないのに、テルは全てを見透かしたように私のことをじっと見つめてくる。
 そんな視線にうんざりして、わざとらしく大きな音を立てながら、テキストとノートを開いた。

「…嫌かもしれないけど付き合って」

「嫌とか思ってないから。普段から妹の勉強見てるし、結構教えるの得意だよ?」

 テルの視線は真っ直ぐで、輝いているように見えた。

「何でもいいけど…一週間後の補講テストに合格させてよね?」

「安心しろよ一週間あれば、余裕だって…」

 話したこともない。しかも黒い噂の絶えない私を前にしても、テルは嫌な顔一つせず、しかも真面目に教えてくれた。

 テルは私を腫れもの扱いしなかった。難しい問題が解けたら、頭を子供にするみたいに撫でてくれたし。
 問題解けなくて、イライラする私にプリンとか買ってきてくれた。

 私のこと、混血児とかビッチとかじゃ無くて、みんなと同じように扱ってくれる。
 そんなテルに、言いようのない心地良さを感じてしまっていた。

 そのおかげで一週間はあっという間だった。テストの赤点も免れたし。

 でも、テルと過ごせないのは寂しいって思った。

「レナって、思ってたような奴じゃなかった」

 テストの結果を喜んでテルに見せに行ったら、一言目がこれだった。

「…どう言う意味?」

「メンヘラであざとい感じかと思ってた」

 まさかのメンヘラ発言。この発言を聞くまでは「好きかも」なんて、思い始めていたのに。

「は?何その勝手なイメージ。しかも普通本人にそれ言う?ふざけてるの?」

 イラつきながらそう答えた。かわいそうな自分は大嫌いだった。

 悪魔族との混血で。昔から、蔑むような視線を受けてきたからかもしれない。

 私の存在を隠したかった両親に、への入学をさせられたからかもしれない。

 そんなことを考えて不貞腐れて鞄を手にした。テルはそんな私を見て笑ってる。

「俺もレナと同じだよ。周りから見た俺も嘘ばっかり」

「…え…?」

 その台詞に思わず目を見開いた。聞き間違いかと思ったけれど、テルはそのまま話を続ける。

「みんな俺の虚像を好きなんだろなって思うと、虚しくなる。つーか、何を俺に期待してんだろって思う」

「へー。王子様のテルは虚像なんだ」

「気の強いビッチのレナも虚像だろ?」

「どうかな?」

 気の強いビッチとか、酷いことを言われたはずなのに。何故か私は笑ってた。
 私とは真逆な存在だと思っていたテルは、実は私と同じだと分かって嬉しくなった。

「っ…ねぇ!」

「ん?何?」

「あ…その、私と付き合わない?!」

「え…?」

「似た者同士じゃん!!みんなに勘違いされてっ…自分に向けられる視線にうんざりしてさっ…。私はテルのこと、王子様だなんて思わないもん!」

「…じゃあ、何だと思った?」

「王子様のフリしたお母さん!!」

 そう叫んだ私に、テルは驚いて目を丸くした。その後いきなり吹き出したかと思うと、涙を流しながら大笑いした。

「そんな風に言われたの初めてだ…」

「だ…だって、褒め方がお母さんだもん」

「…確かに」

「……」

「お母さんみたいな本当に俺と付き合っていいの?」

「…うん。もう、ビッチも飽きちゃった」

「奇遇だな。俺も王子に飽きた所だった」

「じゃあ…」

「うん。いいよ?」

 その返事を聞いた瞬間、私はテルに抱きついてキスをした。

 自分から誰かを好きになるなんて、多分初めてだった。
 見返りなんていらないから、触れて欲しいと思ったのも初めてだった。


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