ファイナリアクロニクル ミラーリングデイズ

みすてー

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3.見習ジャーナリストの妄想レポート

3-3 ロイヤルフレア

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 エリシオは意外とまだ粘っていた。
 細長い影が彼の無事を知らせてくれていた。

 馬車の後部座席のドア、足をかけるステップにつま先をひっかけて、上部の飾りに手をかけて体は風をきっていた。

 乗りなよ、という助言を断り、はためく風に帽子を押さえながら、エルはしがみつくように馬車からエリシオと暴漢たちの姿を認めた。

 あれです、と大きな声で叫んだが、御者の男は親指をたてるだけ。
 なんだか調子のいい、軽い感じに不信感にとらわれる

 あっという間にエリシオの目の前で、男たちを横切るように止まった。
 派手に車輪を滑らせ、石畳から金切り音が響く。馬の荒い息、馬体からにじむ汗が湯気となっていた。

「エリシオ、無事っ」

 エルの甲高い声が響く。
 すぐに駆け寄って腰を抱き留めた。

 しかし、エリシオが体幹が弱いのを忘れていた、駆け寄って体重預ければすぐによろけて、二人であたふたする。

 そこはもうちょっと踏ん張って、かっこつけてほしいところだ。

 緊張感が抜けたのか、エリシオはぺたんと座り込んでしまった。

 しかし、馬車から降りてきたのがエルだけでないことに気づいたのか、その姿を見るなりに、エリシオは慌てて腰をあげて姿勢を正す。

「帝国の憩いの名所が台無しね」

 高身長の赤い髪の女性が口にした。よく通る張りと艶のある声。

 刃物を持った男たちが目の前でも、ことさら構える様子もない。

 もう一人の小柄な青い髪の女性はフードをかぶっていた。

「せっかく今日は噴水を頼んでいたのに、台無し」

 背中には長柄の武器らしきものが布に包まれている。
 その布がしゅるしゅると布がほどけ落ちる。現れたのは立派な鞘に包まれた大柄の剣。
 彼女はその剣に手をかけて抜こうとしていた。目はすでに刃物を持った男たちに向いていた。

 待って。

 高身長の女性が止めた。

「せっかくだからお披露目するわね」

 高身長で髪は長く、腰まであるのがわかる。スタイルもよく、手足はすらりと伸び、腰も細く、そしてパンツスタイルの女性だ。エルは自分以外で久々に見た。不思議な感激を覚える。

 その彼女は腰にサーベルのような剣を下げていた。

 それを抜刀したかと思うと、二度三度剣を振る。
 単なる素振りではなかった。
 刀身に炎が揺らめいた。種火が刀身を流れ、燃え盛る炎でサーベルを包んだ。まるで炎の剣だ。

「へえ」

 小柄なフードの女は感心しているようだった。

「これがロイヤルフレア。あなたも似た力使えるでしょう」

「まあね」

 端的に答えると、素早く噴水に移動し、剣を突っ込んだ。

 かと思うと、冷たい風が吹き込むようになり、噴水の池がみるみる凍っていく。
 水面から氷柱が形成され、それを取り出し、あやしい男たち目掛けて雑に投げつけていた。
 かたや、流れるような剣術で炎の剣で男を翻弄していた。

「うそ、なにこれ」

 エルは驚嘆の声をあげる。

 目の前で繰り広げられる命のやり取り。しかし、女性二人の力が圧倒的だった。

 不思議な力を駆使し、それに頼りながらも身体の使い方がしなやかで軽やか。まるでステップを踏んでいるかのように。

 実力差は明らかだった。

 特に小柄な女性の方はぴょんぴょんと飛び回り、身のこなしのやわらかさと軽々と大柄な剣を振りかざし、氷の力で相手の力を封じていく。

 はためいた風がフードをめくらせていた。

 先ほども馬車の中で見ていたが、もしかして、と到底信じられなかった。

 いや、今でも信じられないが、とエルは隣のエリシオを見やると彼は生唾を飲み込み、見入っていた。

 これはエリシオが好きなネタだ。
 あの青い髪は帝国皇室のロイヤルブルー。
 つまりは姫君の一人。

「ねえ、エリシオ、大丈夫?」

 不意に声をかけられたと思ってか、エリシオは驚いたようにエルの姿を認める。

「あ、ああ。エルは会社に向かったんじゃなかったのか」
「途中ですれちがったから、止めてもらった」
「だからって、馬車の前に飛び出してくるのは無茶だぜ」

 御者の若い男が会話に入ってきた。

「乗っていたのがあの二人で幸運だったな、ブランドフォード家のお嬢さん」

 エルは気まずそうにエリシオを見上げる。
 まるで隠していたことがバレたコドモみたいに。

「本名で名乗って、助けを求めたの。それだったら助けてくれるかなと思って」

 普段は嫌だけどの一言も忘れない。

「ま、あの二人は無敵だから誰が助けを求めても」

 結果は見ての通りと御者の男はいう。
 圧倒的な強さでならず者の男たちを戦闘不能にし、まるで昔からの相棒のように揃って馬車に戻ってくる女性二人。

 剣を振りかざして鞘に戻す一連の動作も慣れたもので、エリシオから見れば感動すら覚える。

「君がエリシオくん? お家まで送って行こうか」

 背の高い女性が提案したが、エリシオはすぐに首を振った。

「せっかくのご好意、申し訳ありません、すぐそこの会社まででお願いします」

 えっ、と不思議そうな声をあげたのはエルだった。

「そう。仕事熱心ね。エルさん、彼、無事でよかったわね。ほらほら一緒に乗って乗って」

 軽いノリで背中を押される。

 二人乗りの馬車に四人が詰め込まれた。
 革張りの座席の座り心地はともかく、狭い車内のため、エルはエリシオの膝の上にいた。背の高いエリシオがまるで包み込むようになってしまう。

 そして隣から美人顔の女性が覗き込んでくる。

「私はファイナリアにあるフィーナル王国のフィン。こっちはここのお姫様のミスト。知ってるでしょ」

 青い髪、青い瞳のロイヤルブルーも背の高いフィンの膝の上にいた。

「無理やり乗らなくてもよかったんじゃないの」

 窮屈な車内が不満なようだ。

「向こうから騎馬警官が来てたわ」

 ふーん、じゃあしかたないかあと納得していた。

「私たちの力は面倒臭いのよ、だからできればあまり人に知られない方がいい」

「それに、あの時間帯にあたしらがあそこにいるのも不自然だから、本当にいろいろ面倒くさいことになりそう」

 だから逃げる。

 要は、送ってあげるというのは方便で、あの場からすぐに動きたかったということだ。

「せっかくフィンと噴水見ながらおしゃべりできると思ったのになあ」

 我らがロイヤルブルーのお姫様は不満げに口を尖らせた。

「また山を越えて会いに来るから、その時の楽しみにとっておきましょう」
「あんたは大人だね、まったく」

 わたしの知っている皇室の人の会話ではないけれど、小気味良くて気持ちがいい。
 エルはなんだかうれしくなってしまった。
 気づけば馬車に押し込められ、エリシオの膝の上に座らされている。
 窮屈で、身体がぴったりとくっついて、エリシオだって目を逸らしている。

 どこもケガはしてないようだ。

 とりあえず、そういうことにほっとして今の状況を考えないようにした。
 エリシオはというと、なぜか指折り数えてなにか考えことをしていた。
 そういえばエルだって教わったことだ、記事の見出しは指折り数えてひねり出せって。

「会社に向かってください、第三帝国新聞社に」

 言い出すんじゃないかと思えば、やっぱりとため息をつく。

 今夜はまだ付き合うことになりそうだ。

 こうなったエリシオを止めるのは大変なんだと、先輩ではなく、幼馴染の顔で彼を見上げるように覗き込んだ。
 意外と顔が近くて、二人で照れた。
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