最弱にして最強となる冒険者〜龍神の恩恵を授かりし最弱ランクの闘い〜

uyosiの脳内は茜色

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二章 授かりし恩恵

不法者扱い

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一方その頃、救援に急ぎ向かったレイネ。
 目指すはビルディスタ冒険者協会。

 運が良く調教師である名はコメットと言う村人が力を貸してくれた。
 言われた通りにレイネはドゥグールと呼ばれる四足歩行の生き者。調教された魔獣の背に体を預けた。

「上手いものだね嬢ちゃん」

 コメットはレイネの身軽な動きっぷりに感心しつい褒めてしまった。状況が悪く無ければさぞレイネは喜ぶ事間違いない言葉だったが。レイネの表情を見るに、今は浮かれている場合じゃないって言うのがひしひしと伝わる。
 コメットもそれを感じたのか、考えを改め再度ドゥグールに指示を送り急ぎインドゥ村を後にした。
 
 レイネは自身に課せられた責務の重さをその身に感じていた。
 ネイトに託された重み。自分が早く伝えなければ、村もネイトもフライヤも全滅してしまうと。

(ネイト待ってて──直ぐ戻るから)

 
 来る時とは大違い、風を切り大地をかけるドゥグールのスピードは、か弱い女の子レイネを圧倒させていた。
 ドゥグールの体にしがみつき風になびく毛が問答無用でレイネの顔に触れる。
 身動き取れないレイネは、されるがままに時折奇声を上げていた。その度に、前を走るコメットが振り向き、レイネの姿を確信するや安堵し確認するや安堵しを繰り返していた。
 恐らくドゥーグールに振り落とされていないのかを確認していたのだと思う。
 調教師特有の能力で魔獣との意思疎通をはかってはいるが、ドゥグールの特性では安定した動きは実現出来ない。
 スピードに特化した魔獣故、乗る者の身体に委ねるしか方法がない。

 ある程度は気をつかうようにとは疎通していた見たいだが、ドゥグールの表情は変わる事なくただ前方を見ていただけだった。

 見るからに理解していないのは明白な気もするが。
 コメットの気遣いもドゥグールには伝わらないのだろ。

 だからこそなのか、奇声が聞こえる度に振り向き確認していたのだろ。
 仮に落下したとしてもそれはそれで大惨事。
 このスピードでの落下なら軽症では済まない、軽く腕の一本二本、それ以外にも身体の骨ぼねにかなりのダメージをおうだろ。

 軽く骨折は間逃れる事は出来ない。

 コメットも少しの不安は抱いていたようだが《Aランク》冒険者ならばと、それにドゥグールとの相性も良さそうに見て取れていた、だからこそ、逆に心配するのも無理ってもん…………それが、しがみつくレイネの姿に当てられ、心配せずにはいられない。

 極力ドゥグールには嬢ちゃんを気遣えと何度も呼びかけているようだが、何故か聞き入れる事なくただビルディスタに向けドゥグールは全速力で足を進める。

 
 きゃっ、うっ……、はぁ……。ヴぁぁッ。


 必死にしがみつきようやく見えて来たビルディスタ東門。
 ほんの少し前となんら変わることの無い景色。

 橋を駆け抜け門番を通過。
 
 駆け抜けた事に、ビルディスタ東門を警備する兵士が大声をあげる。

「おい! 止まるんだ。止まれ! 不法者を追え、早く行け」

 しがみつく姿のレイネの事を認識出来ない門番は慌て急ぎ緊急音を鳴らす、すると、何事かっ、と言わんばかりに次から次へと兵士が姿を見せる。
 状況を把握した兵士は瞬時街にいる兵士に作られた魔法により通話コネクトを実行する。

『こちら東門。不法者が二名侵入した直ぐに取り押さえよ』

 街の中は大混乱、突如二頭のドゥグールが姿を見せた事に周囲の人々は大声を叫び、本能で避ける事に自然と道を作る。
 その道を問答無用で駆け抜け目的の場所まで一気に進む。

 徐々にドゥグールのスピードは減速しはじめる。
 ふとレイネは握る力を弱め始める。
 完全に止まるまでほんの少し、それを体で感じ、伏せていた顔を正面にあげる。
 すると、先に着いたと思われるコメットは無数の兵士に取り押さえられていた。

 直ぐ様、レイネの元にも兵士が武器を構えやってくる。

「不法者、速やかに手を上げ武装を解除しろ。抵抗してもお前らに勝ちはない」

 レイネは兵士の言葉を無視し、先に目前の建物冒険者協会に急ぐ決断をした。その為、囲う兵士の隙間をゆるりと通り抜け入り口に手を伸ばす、直後…………。

 手が触れる直後扉が開いた。
 勢いは止まらず中から出て来る人に勢いよくタックル、反動にレイネは尻餅を付き、接触した青年と思える者は声を荒げ痛みを訴える。

「いってぇー! なんだよ……って、レイネ……」

 が、目に映ったレイネをみるや、痛みを忘れ、静かに立ち上がり、横を通り抜けようとする。
 つかさずレイネは阻止するため、青年の袖を強く握る。
 ぼそっとレイネの弱々しい声が漏れる。
「まって……ビルグ」
 強く握られた袖と、その場所から立ち去ろうとした動きで多方向に力が加わり身体のバランスを崩しカッコ悪くも尻餅を付き、レイネの真横に顔が並ぶ。
 …………」
 並んだ際に見えたレイネの表情に潤んだ瞳に当てられたビルグは言葉を失い、それとは別にレイネの初めて見る表情に焦りを抱く。
 ……それもレイネの瞳からは涙が溢れ出し、まるで窮地を救ってくれる人に縋るように。
 残念ながらビルグ自身は《Bランク》左程の意味はなさない。でもレイネが抱いた気持ちはそれだけではないだろ。幼少期一緒に過ごしていたビルグと再びこうも会話ができ、それに絶対的ピンチに信頼の置ける者と会えた事、込み上げる感情は時として爆発し全てをさらけ出してしまう。
 
 冒険者協会入り口前に幼き少女レイネは大きな声を響かせ泣きじゃくる。
 はたからみれば目付きの悪い青年が少女を泣かせ虐めている姿がイメージされてしまう。
 だからこそか、ビルグは焦り周囲の目を確認するが…………。
「何故、こんなにも兵士がいるんだ?」
 初めて場の状況を理解した。
 そしてビルグと目が合った兵士は告げる。
「そこの冒険者、その女を渡せ」
「渡せ? 何言ってんだ?」
「そいつは不法者、ビルディスタに無断で侵入した者だ。庇うとならばお前にも罪が下るぞ」

 兵士の言っている言葉を真面目にも理解出来ないビルグ。
 理由は明白レイネはビルディスタで生まれ育ったのだから。
 その為兵士に再度問う。
「不法者? 無断で侵入? …………本気で言ってんのか?」
「あービルディスタの法令に基づき無断での侵入及び身分を明かさない者は即刻取り押さえ、罪人とし処分を下せねばならん。庇うと言うのであれば同罪としお前も処分する──直ちに身柄を渡せ、二度は言わん」

 兵士と事を構えるのは流石に抵抗があるのか? ビルグの取った行動は、袖を掴むレイネの手を振り解く。
 静かに冒険者協会入り口に並ぶ階段を降り始め、兵士の前に胸を張る。

 目付きの悪い鋭い目をより鋭くさせ兵士にメンチを切り、反抗的態度を見せつけ声を発せようとした時。

「何事だ! 揃いも揃って兵士が協会に何様だ!」

 冒険者には見えない風貌の強面なる人物が姿をみせる。
 場の空気は一気に変わり、騒がしかった一帯は静まり返った。

 清楚に身を包む服を掲げ腰に付ける剣がその者を示す。

 姿を見た兵士は直ぐ様膝を付き、武器を納め頭を下げる。

「これは、ギルドマスター・アーメスト・ジュピタ様。申し訳ございません」
「謝罪は聞いとらん! 何様と聞いた!」
「はっ。不法者が逃げ仰せた事に我ら兵士が取り押さえる為に集まっております」
「……で、不法者は何処に?」
「それは目前におられますその少女です」

 ギルドマスター・アーメスト・ジュピタは兵士の言葉を聞き少女レイネに視線を送る。

「…………よく見ればゼットの娘じゃないか!」

 ジュピタの言葉に兵士の顔が青ざめて行く。それも此処までの騒動に状況を大袈裟にしてしまい、あまつさえウルリカ・ゼットの娘と言われた事に。だがつい兵士は口を挟んでしまった。

 冒険に出たレイネを確認していた者から。

「ですが……ゼット様の娘さん、レイネ様は、数時間前にビルディスタを離れておられます。人違いでは…………?」
「お前は何を確認して話をしておる? それにワシが見間違えるとでも?」
「ステータスプレートの確認です」
「そうか。ならお前さんはこの子を見て思い出さんのか?」
 とジュピタに言われた通り、泣きじゃくり目元が赤く充血するレイネを見る。だがピンと来ないのか、返事に困っている。

「はぁー呆れた。兵士の再教育をせねばならんな。おいそこの兵士、この場は解散せい、他の兵士も連れて下がれ」
 
 ジュピタの一言に兵士は身を翻し離れようとする中、たった一人ビルグと睨み合いをしていた兵士は、納得しきれないのか反抗的な目をビルグに向ける。

 見たところによれば、左程の年齢差がない事から年代は近い者だと言う事がわかる。

 つまりビルグ同様に新米兵士。

 だからこそなのだろか、引くに引けない睨み合いで、目を離せば負けと言う、勝手極まりない戦いを二人の中で成立させているのだろ。
 それも数秒で上官である兵士に首根っこを掴まれ、若き新米兵士は引きずられ、ビルグの前から消え失せた。

 ビルグは握る拳の力を解放し、微妙ながらも足を震わせていた。
 兵士と事を構える事に武者震いを抱いたのか…………そればかりはビルグにしかわからない。


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