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学園復帰編
5 side ソフィア
しおりを挟む「何ですかリュカの態度。まるで忠犬じゃないですか」
食後のお茶を飲みながらキッチンに視線を向けたケビンが少し呆れた顔でそう言った。私もケビンにつられて視線を向ければ、ルナが怪我しないように甲斐甲斐しく世話する孫の姿があった。心配性だねぇ。
「遅い春が来たみたいでねぇ」
「……狂犬の名が泣きますね」
ケビンの言葉に苦笑いが浮かぶが、今の孫の姿を見てりゃ仕方ないね。"狂犬"と異名がつくほど荒れ狂っていた孫は、自分に合った仕事とネグルという相棒のお陰で落ち着きを見せはじめていたが、次は恋の季節が来るとは思いもしなかったよ。
「狂犬のままじゃ困るけどねぇ。あれはあれで鬱陶しいよ」
「何かありましか?」
「全てのモノから守りたいらしい。心まで全部さ」
「あのリュカがまた、凄い事を言いますね」
魔法が使えず踠き苦しんだ孫は、騎士として才能を開花させ今では団長の右腕とまで成長した。それはそれで嬉しいんだが、頭で考えるより先に行動してしまいがちの脳筋をどう鍛えるかは今後の課題だろうね。
「あの脳筋には先に伝えたが、ドラゴンの護衛とはいえ特別扱いに不満が溜まる」
「えぇ、私の所にも既に声が上がっております」
「だろうねぇ。だから城で訓練をやるよ。ケビンとアランも一緒だ」
「師匠、本気ですか?そんな事をすれば訓練場が壊れてしまいます」
「ルナに結界を張らせるから問題ないさ」
「成る程、ご令嬢の実力と我々の実力の両方を見せつけるおつもりで」
賢い弟子に頷いて肯定すれば、ケビンの視線はルナに固定された。何か考える仕草をみせるケビンに私は黙って答えが出るのを待つ。なんだいルナを魔法師団にスカウトする気かい?
「ご令嬢、求婚者が殺到しませんか?」
「そっちの心配かい!……まぁ、するだろうけど決めるのはあの娘だよ」
改めてルナを見ると家庭的で貴族特有の選民意識も無く魔法の実力もある。本人は平凡な容姿だからモテないと思い込んでいるが、一度でも話をすればルナの纏う和やかな空気と気立ての良さで人々を惹き付けるだろうからねぇ。綺麗な顔だと思うんだけど、人形の様な顔した兄さんと比べれば見劣りするのかねぇ。全く自信がないのも困ったもんだよ。
「リュカが暴れませんか?」
「…………否定はしないでおくよ」
ルナに近づく男達を剣で凪払う姿が容易に想像出来てしまうから否定せずにいると、ケビンから恨みがましい目を向けられ苦笑いで答えた。ケビンは深いため息の後で改めてリュカに視線を向けた。
「あれは苦労してきましたから幸せになって欲しいのですがね」
「先ずは女性との接し方から教えてやなにゃいけないね」
「そこからですか?」
「あぁ、距離感がおかしいんだよ。相手がルナだから許してくれてるが他の人ならな殴られても文句は言えないね」
村での様子を話せばケビンは目を瞑りこめかみを押さえて俯き考える仕草を見せた。私だって、あの馬鹿が触れそうな程、顔を近づけるとは思いもしなかったよ。
「あの馬鹿は後で私と妻で躾するとして訓練場で何をやるおつもりで?」
「簡単な事さ。私達と団員で対戦をすれば良いだけさ」
「回復薬を準備せねばなりませんね」
「それは要らないよ。ルナは上級の回復が使えるからね。リュカの左手の古傷を治しちまったよ」
「まさか!あれは五年以上も前の傷ですよ!?上級の中でも最上級の全回復じゃないと」
私が黙って頷けばケビンの目は大きく開き再びキッチンへ視線を向けた。視線の先では二人が何か言いながら朝食用の仕込みをしているが、ミューは大人しく近くに置いた椅子の上から見守っていた。ドラゴンが何もしないという事はルナが信頼し気を許している証拠。でもねぇ……友愛なのか親愛なのか、まだ区別はつかない。
「リュカ様、つまみ食いは駄目です!」
「いや、味見、味見」
「もう!駄目ですってば!」
子供みたいな言い訳をする孫は十以上も年下のルナに叱られ肩を落としていたが、ミューに急かされて庭の花を見に行く事にしたらしい。ルナも料理の邪魔をする二人を庭に送り出すと、気合いを入れて料理を再開している。
何でもない穏やかな日々。
この幸せを守る為にも、一刻も魔女を探しだしルナに掛かる魔法を解く必要がある。私ももう歳だ。この機会を逃せば魔女に接触する機会を失うだろう。だからこそ失敗は許されない。
「ケビン、学園に気になる子がいた。ちょいと調べて欲しい」
「して、その名は?」
「エリザベス・スミス。学園の一年にいるが呑まれそうなんだよ」
「ッ!!承知した。直ぐに対処します」
どんなに小さな芽でも邪魔なモノは早く摘んでおかないといけないからねぇ……
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