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42件目 AからZへ、君と歩く一日
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春の風が、制服の裾を軽やかに揺らした。
僕の隣を歩く七海は、いつものように笑っている。
その笑顔は、見慣れているのに、毎回少しだけ胸を刺す。
──まるで、空から迷い込んだラブリー天使。
それが僕の幼馴染、天羽七海だった。
「遼、今日の放課後、空いてる?」
「ん? 別に予定はないけど」
七海はにこりと微笑んで、僕の腕を軽く引いた。
「じゃあ決まりだね。あの丘、行こっか」
***
丘の上には、まだ誰もいなかった。
僕たちだけの時間。僕たちだけの空。
「小さいころ、ここで将来の話したよね」
「したな。宇宙飛行士になりたいとか」
七海はうなずき、空を見上げる。
「私は言ったんだよ。ずっと遼の隣にいたいって」
その言葉が、風よりも柔らかく僕の鼓膜を撫でた。
僕はなぜか、そのとき咄嗟に言葉を返せなかった。
***
「遼って、ほんとに鈍感」
「な、なんだよ、急に……」
七海は僕の前に立ち、少し上から見下ろしてくる。
彼女は僕より五センチ背が高い。だけどその距離は、なぜかとても安心する。
「ずっと好きだったのに」
「七海……?」
「ずっとね、AからZまで、いろんな言葉で伝えようとしてきたんだよ」
A:ありがとう
B:バカ遼
C:チョコあげるね
D:大好き……
「でも、ぜんぶ君、受け取ってなかったでしょ?」
僕は俯いた。認識していたのに、認めるのが怖かった。
七海が、僕のことを“恋愛対象”として見ているなんて。
「で、でも、今なら……」
「うん。今なら?」
彼女はそっと目を細めて、僕の顔を覗き込んでくる。
その目は、からかいも照れもなく、ただまっすぐだった。
「今なら、ちゃんと好きって言える」
「うん」
七海がそっと距離を詰めた。
そして、ふわりと、唇が触れた。
やわらかくて、あたたかくて、言葉にならない味がした。
***
「これで、Zまで言ったつもりだけど」
七海が笑う。風が彼女の髪をふわりと持ち上げる。
その姿は、やっぱり天使だった。
「次は、またAから始めるよ。今度はふたりでね」
──AからZまでの言葉は、七海が紡いでくれた。
でも、これからは僕がそれをひとつずつ返していく番だ。
「遼?」
「うん、これからも隣にいて」
「もちろん」
夕陽が丘を赤く染めていた。
手をつなぎながら、僕たちはゆっくりと歩き出す。
Zの先にある新しいAを目指して。
僕の隣を歩く七海は、いつものように笑っている。
その笑顔は、見慣れているのに、毎回少しだけ胸を刺す。
──まるで、空から迷い込んだラブリー天使。
それが僕の幼馴染、天羽七海だった。
「遼、今日の放課後、空いてる?」
「ん? 別に予定はないけど」
七海はにこりと微笑んで、僕の腕を軽く引いた。
「じゃあ決まりだね。あの丘、行こっか」
***
丘の上には、まだ誰もいなかった。
僕たちだけの時間。僕たちだけの空。
「小さいころ、ここで将来の話したよね」
「したな。宇宙飛行士になりたいとか」
七海はうなずき、空を見上げる。
「私は言ったんだよ。ずっと遼の隣にいたいって」
その言葉が、風よりも柔らかく僕の鼓膜を撫でた。
僕はなぜか、そのとき咄嗟に言葉を返せなかった。
***
「遼って、ほんとに鈍感」
「な、なんだよ、急に……」
七海は僕の前に立ち、少し上から見下ろしてくる。
彼女は僕より五センチ背が高い。だけどその距離は、なぜかとても安心する。
「ずっと好きだったのに」
「七海……?」
「ずっとね、AからZまで、いろんな言葉で伝えようとしてきたんだよ」
A:ありがとう
B:バカ遼
C:チョコあげるね
D:大好き……
「でも、ぜんぶ君、受け取ってなかったでしょ?」
僕は俯いた。認識していたのに、認めるのが怖かった。
七海が、僕のことを“恋愛対象”として見ているなんて。
「で、でも、今なら……」
「うん。今なら?」
彼女はそっと目を細めて、僕の顔を覗き込んでくる。
その目は、からかいも照れもなく、ただまっすぐだった。
「今なら、ちゃんと好きって言える」
「うん」
七海がそっと距離を詰めた。
そして、ふわりと、唇が触れた。
やわらかくて、あたたかくて、言葉にならない味がした。
***
「これで、Zまで言ったつもりだけど」
七海が笑う。風が彼女の髪をふわりと持ち上げる。
その姿は、やっぱり天使だった。
「次は、またAから始めるよ。今度はふたりでね」
──AからZまでの言葉は、七海が紡いでくれた。
でも、これからは僕がそれをひとつずつ返していく番だ。
「遼?」
「うん、これからも隣にいて」
「もちろん」
夕陽が丘を赤く染めていた。
手をつなぎながら、僕たちはゆっくりと歩き出す。
Zの先にある新しいAを目指して。
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