幸せが終わるとき。(完結)

紫苑

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好き。大好き。でも、

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目の前で惹かれる、その音に。思わず、涙が出た。目の下を雫が伝って、頬に流れて、時が止まったみたいだった。

ー貴方を愛していたけれど、貴方は他の誰かと未知を歩む。
ー好きなのに、切ない。好きだから、切ない。好きなのに、伝えられないの。
それがとても切ないほどに、貴方は知らない人の隣で笑う。
好き、大好き、奪いたいぐらいに。

「雨音さんって、歌も上手いんだね」
「そうだな、ピアノの方が有名だけど。」

ここは、大きなコンサートホール。ひそひそ話をしながら、二人でうっとりしてしまう。ティエから連絡があって、私とレアの結婚祝いに一番いい席のペアチケットが送られてきた。本来ならば、この席は、雨音さんの関係者しか取れない席で、雨音さんとどういう知り合い何だろうと、私は、不思議に思っていた。しかも、雨音さんほど有名ならば、一般席でさえチケットをとるのが大変で、余計に何故?と思ってしまうのだった。

ー好きよ、貴方が好きなの。

その言葉がストレートに胸に来る。いつもクールなイメージの雨音さんが、女性らしく、煌びやかに、しなやかな身のこなしが、思わず憧れて目が自分でキラキラしてしまうのが分かった。

「雨音さん…♡」

終わった頃には、私は雨音さんの事が大好きになっていた。

横に居るレアが焼きもちを妬いているなんて、気が付かないくらいに。

「終わったね、帰ろうか」

その瞬間、手を強く握られ、私は感動から驚きでいっぱいになる。

「-さっきから、雨音の事ばっかりだな」
「え、だって…雨音さん綺麗だし、カッコいいし、可愛いし…♡」
「ハートマークばっかりになってるぞ」

気が付いたら、コンサートホールには誰も居なくて、今日の公演はこれで最後だった。閉めだされてしまうのでは!?と慌てて「レア早く帰らないと!!」と言っても、拗ねてるレアは聞いてくれそうにない。ぎゅうっと強く抱きしめられ、首に生暖かい感触を感じる。

「ひゃっ…レア?」
「ティアナは俺の事好き?」
「何でそんなことをいまさら聞くの」

分かってくるくせに、この拗ねたレアは少し厄介で、好きだと何度言っても毎回離してくれない。

「好きだよ」
「本当に?」
「-好きだってば!」
「もう一回聞きたいな」

いい加減恥ずかしいぐらいに、好きだと言ってるのに離さないので、私は強硬手段に出ようと、レアの頭をめがけて拳を振りかぶった。

「ティエから久々に連絡があって、嬉しかったんじゃないのか」
「え」
「…ティエの事は嫌いじゃないけど…」
「俺の知らない所で…あんまり連絡とらないで…」

肩に頭を乗せ、拗ねているレアが段々可愛く見えてきて…胸がきゅんっと跳ね上がる。そりゃあ、好きでもない人と結婚話まで出ないし、でも、レアが一番好きだから、ちゃんと断ったよ!?と自分でもあたふたと必死に好きだと伝えると、レアが少し離れてニッコリ笑った。

「行動で示してくれないと、分からない」
「ほぇっ!?」

身体がふわりと浮かび、目の前の景色が動いていく。これって、お姫様抱っこされてるよね!?と、誰も見てないのに慌ててしまう。駐車場までずっとその格好で運ばれてると、恥ずかしくてじたばた暴れてるはずなのに、レアは離してくれない。車に乗り込み、助手席に優しく下ろされると、レアは何もしゃべらなかった。怒らせてしまったのかなとひやひやしているのと同時に、私だけが辱めを受けている気がして、理不尽な気分になる。

二人で住んでいるマンションに戻ると、先に降りて手を繋いで、レアはずかずかと歩く。怒らせちゃった?何で?私なんか悪いことしたの?何で怒るの?

部屋に鍵を差し込んで、ドアをばたんと閉めると、レアが激しくキスしてきた。

「んぅっ…!?」
「…はぁ…っ」

舌と舌が混ざり合い、くちゅくちゅと音を立てながら、唇を吸われて、私は感じてしまう。前歯の奥を撫でられたと思えば、同時に胸を突然もまれて、
「何で急に…んぅぅっ…」
「だって…ずっとこうしたかったから?」
「そっ…んなぁっ…やんっ…」

抵抗はしないし、出来ない。私もそんな気分になってしまったから。拒みたくないし、私だってしたい。何度もキスを繰り返しながら、下着の中に手を入れて、割れ目を撫でながら、中に指が徐々に入ってきて、違和感を感じず、それが当たり前かのように受け入れた。

「あぁっ…やぁぁんっ…ぅんっ…」

奥まで行かないところをくるくると回すようにいじられると、徐々に体が痛くなくなってきた。少しずつ水音が響くほどに濡れてしまっていて、少し、いやかなり恥ずかしい。

「―気持ちいい?」
「うん…ベットに連れて行って…」
「やだ」

その表情は、子供がおもちゃを欲しがるようなものかと思っていたら、雄の表情をしていた。強引に奪いたいと顔に書いてあって、私は嫌じゃなかった。それどころか、少し嬉しかった。後ろのファスナーを下ろされると、ぱさとドレスが脱げていく。そのまま、玄関マットの上に押し倒されると、レアの下半身が合わさって、固いものが当たった。同時に、恥ずかしながら、早く奥まで抱かれたい気分になる。

「…レア…きて…ぇ」

自分でも真っ赤になっているのが分かる。

「好き、レアが好き…大好き…ぃ」
「―あまり煽るなよ」

ぎゅっと背中に手を回して、私からキスをすると、唇と唇の間から生暖かい唾液が入ってくる。

「好きだっ…」

耳音で囁かれる甘美に、私は弱いらしい。いつの間にかレアは裸になっていて、気がついたら、私は、中から奥まで蕩けていた。

「早くっ…」
「ぅっ…んぅっ…」

自分の中に固くて温かいものが一気に挿ってくる。声が思わず互いに上ずり、快楽をもっと求める。奥へ奥へと入ると少し苦しいけれど、とても気持ちいい。結婚してるので、隔てるものも何もなく、暖かくて直に肌を感じあった。

「やぁぁっ…レアもっ…激しく…ぅっ」
「ティアナっ…ティ…アナぁっ…好き…好きだぁっ…!」

激しく打ち付けあいながら、沢山突かれて、奥まで激しく揺れる。その奥でどくんどくんと聞こえるような気がしながら、震える声も、こんなエッチな表情も、私だけ知ってればいいと、強く思った。夢中になってる顔を愛おしいと思いながら、

「ずっとそばにいてね」
「―当たり前だろ」

重なり合いながら、軽くキスをした。お互いに感じる肌の温度が心地よく、心臓の音が聞こえて、

「ずっとこうしていたいね」

私はこの時気が付かなかった。レアが嬉しそうに笑って、そういえば、明日は午後から出勤だったよねとまで言われて、「ん?」何かの違和感を感じて、どういうことか理解したときには遅かった。

「―俺も明日も休みだから」

んんっ!?キスが何度か繰り返され、舌が入って、体を撫でられ、私はこれで何度目?折角一生懸命作ったご飯は?と思うほど、外で小鳥の鳴き声が聞こえても、繰り返されるのだった。

好き。大好き、でも、ちょっと困る。そんな結婚生活だった。
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