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第4章
夏休みに、横浜で(DAY 1) 10
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帰る前に、彩夏が自分の部屋を見たいと言ってリビングを出て行った。女の子の部屋についていくべきではないと思い、僕はリビングに残った。
「また……ダンスをする許可をもらいにきます」
リビングで待っていると、長瀬真衣と二人きりになって居心地が悪いので、もう帰るはずだから僕は玄関に向かうことにした。
「あなたは」
長瀬真衣が僕を見た。
「本当に彩夏より成績が下なの?」
その質問の意味はわからなかたが、僕は素直に答えることにした。
「はい。5教科で30点以上差をつけられました」
「それはいつもどおりの実力で?」
また、彼女の影が伸びてきているような気がした。息がしにくい感覚に陥る。
「僕も……本調子ではなった。いや、調子とかは言い訳です。彩夏さんに抜かれて、僕は揺らぎました。いままで頑張ってたことが崩れていくような感じで、勉強も部活も失敗ばかりだした」
「あの子のおかげで災難ね」
「いえ……災難なんかじゃないです。逆に僕は自分っていうものが見えていないってわかりました」
「どういう意味かしら?」
「親に言われたレールに乗っかって結果を出してきただけの自分は、まだ自分で未来を選んでいないってことです。彩夏さんがいたから学ぶことができました、これからは自分で道を拓きたいと思えるようになりました」
長瀬真衣は一度だけ頷く。
「貴方のようなタイプの精神を揺らがせたのね……あの子が」
「だから僕は彼女の味方になるため、今日ここに来ました」
「そう……」
まだ何かを言いたそうにも見えたが長瀬真衣は何も言わなかったので僕も黙っておいた。
妙な沈黙の後、
「いまから言う話はただの独り言なのだけど」
長瀬真衣が話し始めた。どういう意味かわからず僕が戸惑っていると、
「私はあの子をすべて否定したいわけじゃない」
そう話した彼女の目に、ほんの一瞬、複雑な光が浮かんだ。言葉には出さない何かを、彼女は胸に秘めているようだった。
「それは――」
「ただの独り言よ」
独り言に質問は受け付けてくれないという意味だと僕は思った。
長瀬真衣は窓の向こうに視線を移した。そこに見えるのは、きっと僕にはわからない何かだろう。
「僕は何も見ていないし、聞いていません」
と僕が言うと、長瀬真衣は口元だけ笑みを浮かべた。
*
僕は玄関に向かった。
玄関で靴を履いていると彩夏がやってきた。
見送られることなく僕たちはドアを開けた。誰も歩いていない通路を僕は彩夏の後ろについて歩いた。
エレベーターホール前で彩夏が下りのボタンを押す。僕は彼女の横に並ぶ。
エレベータは21階に止っていたらしく、階数表示がカウントダウンされていくのをぼんやりと見ていると、
「……次、だね」
と彩夏が言った。
「うん、次だ」
僕もそう返した。
チラッと横を見ると、ほんの少し彩夏が微笑んでいるように見えた。
僕自身のことは何も解決していないはずなのだけど、僕もまたほんの少し前に進みだしているような気がした。
僕たちの次の道へと誘うかのようにエレベーターの扉が開き、僕たちは乗り込んだ。
「また……ダンスをする許可をもらいにきます」
リビングで待っていると、長瀬真衣と二人きりになって居心地が悪いので、もう帰るはずだから僕は玄関に向かうことにした。
「あなたは」
長瀬真衣が僕を見た。
「本当に彩夏より成績が下なの?」
その質問の意味はわからなかたが、僕は素直に答えることにした。
「はい。5教科で30点以上差をつけられました」
「それはいつもどおりの実力で?」
また、彼女の影が伸びてきているような気がした。息がしにくい感覚に陥る。
「僕も……本調子ではなった。いや、調子とかは言い訳です。彩夏さんに抜かれて、僕は揺らぎました。いままで頑張ってたことが崩れていくような感じで、勉強も部活も失敗ばかりだした」
「あの子のおかげで災難ね」
「いえ……災難なんかじゃないです。逆に僕は自分っていうものが見えていないってわかりました」
「どういう意味かしら?」
「親に言われたレールに乗っかって結果を出してきただけの自分は、まだ自分で未来を選んでいないってことです。彩夏さんがいたから学ぶことができました、これからは自分で道を拓きたいと思えるようになりました」
長瀬真衣は一度だけ頷く。
「貴方のようなタイプの精神を揺らがせたのね……あの子が」
「だから僕は彼女の味方になるため、今日ここに来ました」
「そう……」
まだ何かを言いたそうにも見えたが長瀬真衣は何も言わなかったので僕も黙っておいた。
妙な沈黙の後、
「いまから言う話はただの独り言なのだけど」
長瀬真衣が話し始めた。どういう意味かわからず僕が戸惑っていると、
「私はあの子をすべて否定したいわけじゃない」
そう話した彼女の目に、ほんの一瞬、複雑な光が浮かんだ。言葉には出さない何かを、彼女は胸に秘めているようだった。
「それは――」
「ただの独り言よ」
独り言に質問は受け付けてくれないという意味だと僕は思った。
長瀬真衣は窓の向こうに視線を移した。そこに見えるのは、きっと僕にはわからない何かだろう。
「僕は何も見ていないし、聞いていません」
と僕が言うと、長瀬真衣は口元だけ笑みを浮かべた。
*
僕は玄関に向かった。
玄関で靴を履いていると彩夏がやってきた。
見送られることなく僕たちはドアを開けた。誰も歩いていない通路を僕は彩夏の後ろについて歩いた。
エレベーターホール前で彩夏が下りのボタンを押す。僕は彼女の横に並ぶ。
エレベータは21階に止っていたらしく、階数表示がカウントダウンされていくのをぼんやりと見ていると、
「……次、だね」
と彩夏が言った。
「うん、次だ」
僕もそう返した。
チラッと横を見ると、ほんの少し彩夏が微笑んでいるように見えた。
僕自身のことは何も解決していないはずなのだけど、僕もまたほんの少し前に進みだしているような気がした。
僕たちの次の道へと誘うかのようにエレベーターの扉が開き、僕たちは乗り込んだ。
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