38 / 78
第6章
二学期が始まり 2
しおりを挟む
「彩夏は帰省で、オレは夏期講習だぜ? 目的が違う」
「そんなのただ改札口に入ってくとこを見た人にはわからないよ」
だから勝手な噂が広まるっていうことか。困った話だ。狭い町だ、噂話なんてあっという間に広まってしまう。
「それで、話を聞いた美咲は絵理沙に何て返したんだよ。違うんじゃないとか言ったのか」
「『さぁ?』って答えた」
「マジで?」
何の火消しにもなっていないだろ、それはと思った。
「それじゃ何も解決しないだろ……」
「かもね。絵理沙も『え、何それ? いつからそんな風になってたの?』って驚いてた」
「助けてくれたっていいだろ……」
「助ける義務はないからね」
淡々と美咲は言った。顔に笑みの一つもない。
ただ、それはそのとおりだ。これは美咲の問題ではない。でも、美咲は彩夏と仲が良いんだし、僕とも幼稚園からのつきあいだ。少しぐらい誤解を解いてくれてもいいんじゃないだろうか。
「佑も彩夏も私には何も言ってくれんかったしね」
なんだかトゲのある言い方だった。たしかに美咲には横浜で彩夏と会ったことなんて話してはいない。
「東京だか横浜だか知らんけど、実際にあっちでも会ってたんでしょ?」
「うーん……会ったは会ったんだけどな」
「何かあったの?」
「いや…………別に。横浜を案内してもらったぐらい」
彩夏の家庭事情やダンススタジオのことが頭の中を過った。
彩夏のプライベートな部分だし、僕からペラペラと話すことではない。だから美咲であったとしても、話したりはしていなかっただけだ。
「ふーん……そうですか」
「なんだよ」
「なんか隠してるっぽい言い方だね」
「……そんなことはない」
美咲は、ハァーと大きなため息を吐いた。
「今更、佑に隠し事されるなんて思ってもみなかったよ。はいはい、横浜で会って案内してもらっとか、それじゃあ噂になるのも当然っちゃ当然だよね?」
美咲は僕から目を逸らし、右手で右目近くの前髪を弄りながら言った。このしぐさをしているときの美咲は昔から「落ち着いていない」ときだ。
「そうかもだけど……」
「みなとみらい? 中華街? まぁ楽しい旅行だったんだろうねぇ」
「なんだよ。なんでそんな怒ってるみたいな言い方なんだよ」
「別に怒ってなんかないし」
そんなことを言う美咲の表情は笑顔だった。
が、絶対に機嫌は悪いだろ、髪、弄ってたじゃん……なんて言いそうになったがやめた。危険すぎる発言だ。
よくわからないがこの件で美咲にも迷惑がかかってしまったのかもしれない。
ここで美咲と揉めてしまうのは僕に何の得もない。僕にとってある意味、美咲は女子の中で最大の味方の子だ。
「迷惑かかったんだったらごめん」
「別に迷惑なんてかかってない」
「いや、なんかあったから美咲、機嫌悪いんだろ?」
「機嫌悪くないから。悪くなったとしたら……」
「悪くなったとしたら……?」
「いま!」
キッと睨みつけられて僕はちょっと怯んでしまった。
「所詮、私と佑は『ただの』長いつきあいなんだってわかった。もういいよ」
「え……」
僕はどんな悪いことをしたんだろうか。ここまで美咲を怒らせたのは初めてのような気がした。
その目からは、ある意味、彩夏の母よりも強い圧迫感があった。
「悪いけど、一人で帰る!」
そう言い捨てて美咲は髪を弄るまでもなく、背中から怒りのオーラを漂わせて歩いていった。さすがに僕は追いかけることができず立ち尽くしていた。
水面に落とした小石が深い底へと沈んでいくような感覚があった。
美咲と僕は幼稚園からずっと一緒の学校で、友達で、いろんなことを話してきた。普通よりはずっと上の関係だと思うけれど、シンプルに言えば「親友」なのかもしれない。確かめたことなんてないけれど、もし美咲もそう思ってくれていたとしたら僕は「裏切り」みたいな気持ちを与えてしまったんだろうか。そう思うと僕にも罪悪感のようなものが湧き上がってきた。
裏切ってるつもりなんてないのに、な。
背中に嫌な汗をかきながら僕は家へと帰った。
「そんなのただ改札口に入ってくとこを見た人にはわからないよ」
だから勝手な噂が広まるっていうことか。困った話だ。狭い町だ、噂話なんてあっという間に広まってしまう。
「それで、話を聞いた美咲は絵理沙に何て返したんだよ。違うんじゃないとか言ったのか」
「『さぁ?』って答えた」
「マジで?」
何の火消しにもなっていないだろ、それはと思った。
「それじゃ何も解決しないだろ……」
「かもね。絵理沙も『え、何それ? いつからそんな風になってたの?』って驚いてた」
「助けてくれたっていいだろ……」
「助ける義務はないからね」
淡々と美咲は言った。顔に笑みの一つもない。
ただ、それはそのとおりだ。これは美咲の問題ではない。でも、美咲は彩夏と仲が良いんだし、僕とも幼稚園からのつきあいだ。少しぐらい誤解を解いてくれてもいいんじゃないだろうか。
「佑も彩夏も私には何も言ってくれんかったしね」
なんだかトゲのある言い方だった。たしかに美咲には横浜で彩夏と会ったことなんて話してはいない。
「東京だか横浜だか知らんけど、実際にあっちでも会ってたんでしょ?」
「うーん……会ったは会ったんだけどな」
「何かあったの?」
「いや…………別に。横浜を案内してもらったぐらい」
彩夏の家庭事情やダンススタジオのことが頭の中を過った。
彩夏のプライベートな部分だし、僕からペラペラと話すことではない。だから美咲であったとしても、話したりはしていなかっただけだ。
「ふーん……そうですか」
「なんだよ」
「なんか隠してるっぽい言い方だね」
「……そんなことはない」
美咲は、ハァーと大きなため息を吐いた。
「今更、佑に隠し事されるなんて思ってもみなかったよ。はいはい、横浜で会って案内してもらっとか、それじゃあ噂になるのも当然っちゃ当然だよね?」
美咲は僕から目を逸らし、右手で右目近くの前髪を弄りながら言った。このしぐさをしているときの美咲は昔から「落ち着いていない」ときだ。
「そうかもだけど……」
「みなとみらい? 中華街? まぁ楽しい旅行だったんだろうねぇ」
「なんだよ。なんでそんな怒ってるみたいな言い方なんだよ」
「別に怒ってなんかないし」
そんなことを言う美咲の表情は笑顔だった。
が、絶対に機嫌は悪いだろ、髪、弄ってたじゃん……なんて言いそうになったがやめた。危険すぎる発言だ。
よくわからないがこの件で美咲にも迷惑がかかってしまったのかもしれない。
ここで美咲と揉めてしまうのは僕に何の得もない。僕にとってある意味、美咲は女子の中で最大の味方の子だ。
「迷惑かかったんだったらごめん」
「別に迷惑なんてかかってない」
「いや、なんかあったから美咲、機嫌悪いんだろ?」
「機嫌悪くないから。悪くなったとしたら……」
「悪くなったとしたら……?」
「いま!」
キッと睨みつけられて僕はちょっと怯んでしまった。
「所詮、私と佑は『ただの』長いつきあいなんだってわかった。もういいよ」
「え……」
僕はどんな悪いことをしたんだろうか。ここまで美咲を怒らせたのは初めてのような気がした。
その目からは、ある意味、彩夏の母よりも強い圧迫感があった。
「悪いけど、一人で帰る!」
そう言い捨てて美咲は髪を弄るまでもなく、背中から怒りのオーラを漂わせて歩いていった。さすがに僕は追いかけることができず立ち尽くしていた。
水面に落とした小石が深い底へと沈んでいくような感覚があった。
美咲と僕は幼稚園からずっと一緒の学校で、友達で、いろんなことを話してきた。普通よりはずっと上の関係だと思うけれど、シンプルに言えば「親友」なのかもしれない。確かめたことなんてないけれど、もし美咲もそう思ってくれていたとしたら僕は「裏切り」みたいな気持ちを与えてしまったんだろうか。そう思うと僕にも罪悪感のようなものが湧き上がってきた。
裏切ってるつもりなんてないのに、な。
背中に嫌な汗をかきながら僕は家へと帰った。
16
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる