見えない明日に揺れる僕たちは

多田莉都

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第6章

二学期が始まり 2

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「彩夏は帰省で、オレは夏期講習だぜ? 目的が違う」
「そんなのただ改札口に入ってくとこを見た人にはわからないよ」

 だから勝手な噂が広まるっていうことか。困った話だ。狭い町だ、噂話なんてあっという間に広まってしまう。

「それで、話を聞いた美咲は絵理沙に何て返したんだよ。違うんじゃないとか言ったのか」
「『さぁ?』って答えた」
「マジで?」

 何の火消しにもなっていないだろ、それはと思った。

「それじゃ何も解決しないだろ……」
「かもね。絵理沙も『え、何それ? いつからそんな風になってたの?』って驚いてた」
「助けてくれたっていいだろ……」
「助ける義務はないからね」

 淡々と美咲は言った。顔に笑みの一つもない。
 ただ、それはそのとおりだ。これは美咲の問題ではない。でも、美咲は彩夏と仲が良いんだし、僕とも幼稚園からのつきあいだ。少しぐらい誤解を解いてくれてもいいんじゃないだろうか。

「佑も彩夏も私には何も言ってくれんかったしね」

 なんだかトゲのある言い方だった。たしかに美咲には横浜で彩夏と会ったことなんて話してはいない。

「東京だか横浜だか知らんけど、実際にあっちでも会ってたんでしょ?」
「うーん……会ったは会ったんだけどな」
「何かあったの?」
「いや…………別に。横浜を案内してもらったぐらい」

 彩夏の家庭事情やダンススタジオのことが頭の中を過った。
 彩夏のプライベートな部分だし、僕からペラペラと話すことではない。だから美咲であったとしても、話したりはしていなかっただけだ。
 
「ふーん……そうですか」
「なんだよ」
「なんか隠してるっぽい言い方だね」
「……そんなことはない」

 美咲は、ハァーと大きなため息を吐いた。
 
「今更、佑に隠し事されるなんて思ってもみなかったよ。はいはい、横浜で会って案内してもらっとか、それじゃあ噂になるのも当然っちゃ当然だよね?」

 美咲は僕から目を逸らし、右手で右目近くの前髪を弄りながら言った。このしぐさをしているときの美咲は昔から「落ち着いていない」ときだ。
 
「そうかもだけど……」
「みなとみらい? 中華街? まぁ楽しい旅行だったんだろうねぇ」
「なんだよ。なんでそんな怒ってるみたいな言い方なんだよ」
「別に怒ってなんかないし」

 そんなことを言う美咲の表情は笑顔だった。
 が、絶対に機嫌は悪いだろ、髪、弄ってたじゃん……なんて言いそうになったがやめた。危険すぎる発言だ。
 よくわからないがこの件で美咲にも迷惑がかかってしまったのかもしれない。
 ここで美咲と揉めてしまうのは僕に何の得もない。僕にとってある意味、美咲は女子の中で最大の味方の子だ。

「迷惑かかったんだったらごめん」
「別に迷惑なんてかかってない」
「いや、なんかあったから美咲、機嫌悪いんだろ?」
「機嫌悪くないから。悪くなったとしたら……」
「悪くなったとしたら……?」
「いま!」

 キッと睨みつけられて僕はちょっと怯んでしまった。
 
「所詮、私と佑は『ただの』長いつきあいなんだってわかった。もういいよ」
「え……」

 僕はどんな悪いことをしたんだろうか。ここまで美咲を怒らせたのは初めてのような気がした。
 その目からは、ある意味、彩夏の母よりも強い圧迫感があった。

「悪いけど、一人で帰る!」

 そう言い捨てて美咲は髪を弄るまでもなく、背中から怒りのオーラを漂わせて歩いていった。さすがに僕は追いかけることができず立ち尽くしていた。

 水面に落とした小石が深い底へと沈んでいくような感覚があった。
 美咲と僕は幼稚園からずっと一緒の学校で、友達で、いろんなことを話してきた。普通よりはずっと上の関係だと思うけれど、シンプルに言えば「親友」なのかもしれない。確かめたことなんてないけれど、もし美咲もそう思ってくれていたとしたら僕は「裏切り」みたいな気持ちを与えてしまったんだろうか。そう思うと僕にも罪悪感のようなものが湧き上がってきた。
 
 裏切ってるつもりなんてないのに、な。
 背中に嫌な汗をかきながら僕は家へと帰った。
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