見えない明日に揺れる僕たちは

多田莉都

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第8章

文化祭 当日(Happy Morning Up)

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 晴れで、降水確率10%という天気予報どおりに朝からいい天気だった。
 僕は朝早くに自転車を漕いで学校に行く。いつもならガラガラの朝の時間なのにピロティ―の自転車置き場はもう何台も止まっていた。文化祭も三度目になると「ああ、いつもの光景だな」と見慣れてくるものがある。クラスや部活の出し物でこの日ばかりは朝早くから生徒が集まってくる。僕は自転車をいつもの位置に止めてから、教室でなく、先に体育館に向かった。
 体育館の中に入ると、「佑」と声をかけられた。

 左を見ると蒼真と蒼真の兄である律くんがいた。蒼真は最近、バンド演奏にハマっていて、律くんの音響話に目を輝かせていた。
 何回か音響の話を律くんから聞いていたが、文化祭は日曜ということもあり「蒼真や佑がちゃんとやれるかわからねーからオレがやってやるよ」と音響自体を担当してくれることになっていた。

「あ、律くん、本当に今日はありがとね」
「いいって、いいって。こういうのオレ好きだから」

 小学生のときから変わらないノリの笑顔で律くんは言ってくれた。正直、律くんが来てくれるのはありがたかった。
 照明も高校の友達を連れてきてくれるとのことで、図らずも僕たちは自分たちだけではできないことを無償でやってもらえることになった。

 体育館にある音響の部屋に行き、一応の説明を受ける。
 律くんが言うには、ウチの中学の音響はほかの中学や公立高校よりずっといいものが揃っているらしい。昔、演劇に力を入れていた先生がいろいろと私財を投げうって寄付の形で導入されているものもあるらしい。

「高校生になってからさ、軽音部でPAとかやらされるんだけど、ウチの中学のほうが設備いいなぁって思ったんだよ」
「PA?」

 僕が言うと蒼真が

「音響のスタッフのことだよ」

 と言った。何の略なのか思いつかない。

「軽音のライブってメンバーが楽器やるだけじゃなくってさ、ギターの音量をどうするとか調整が必要で、それをサポートするスタッフとかのことをPAって言うんだよ」
「なるほど」
「同じコードの音だとしても楽器の調整や音響の調整で全く違う音になるんだよ」
「へぇー」

 僕は知らない言葉だったので素直に感心した。

「佑よりオレが知ってることもあるってことだな」
「オマエもオレから聞いただけだろ」

 調子に乗った発言をした蒼真を律くんが軽く叩いて突っ込んだ。

「いや、でも本当にオレは全然知らないからさ、すごいなぁって思ったよ。律くんすごいな」
「オレも軽音部やらないと知らなかったけどな。で、まだまだ知らないことばっかでOBの人とかにいろいろ教わってる」
「へぇー」

 また素直に感心してしまった。
 当たり前のことなのだが、まだまだ僕の知らないことなんてたくさんあるのだと、朝の数分で僕は思い知らされてしまった。つくづく自分は井の中の蛙なんだな、と音響室から出て体育館の天井を見上げながらおもった。三年近く使っている体育館の音響や照明がいいものだなんて考えたこともなかった。

 音響の部屋から出てくると、体育館の中を動く人が少し増えていることに気が付いた。下級生が椅子を並べたりしているし、一般の人も様子を見に来たりしているようだった。カメラマンもいて準備の様子を撮ってくれているようだった。
 いよいよ始まるんだなぁと思っていると、校舎と体育館が繋がる入り口が開く音がした。

「あ、佑と蒼真、そんなとこにいた。そろそろ一回、教室来てくれる?」

 体育館の入り口に柚葉が立っていた。

「ああ、ごめん今いく」

 と柚葉のもとへ駆け寄ると、柚葉がきょとんとした顔で僕を見ていた。

「なに?」
「なんか珍しく佑がやたらと機嫌よさそうな顔してるなって思った。なんかいいことあったのかなって」
「そうかぁ?」

 と左頬を抑えながら、僕は自分が少しにやけていることは自覚していた。新しいことを知ったこのワクワクする感覚を抑えられなかった。

 なんとなく幸せな朝だ。
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