見えない明日に揺れる僕たちは

多田莉都

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第8章

文化祭 当日(Chase the Girl)1

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 体育館を出たが、広い学校をどこから探せばいいのかわからない。みんなの前では強がったが、正直、厳しい。

「佑さん、ちぃーっす」

 振り向くと、陸上部の後輩・木田文哉が友達数人と立っていた。

「ダンスの発表12時からですよねー。見に行きますよー」
「おう、見に来いよ……って文哉、いいとこに」

 僕は文哉に近づく。「はい?」と文哉がたじろいで一歩、後ずさりした。

「三年の柴崎彩夏って知ってる?」
「え、はい。あの横浜から転校してきたかわいい人ですよね。知らない奴なんていないよな?」

 と、同意を求めると文哉の友達たちは皆、頷いた。
 名前の知らない女子生徒は、

「あんなかわいい人、見たことないですよ。メッチャ憧れ!」

 と目をキラキラさせながら言った。
 彩夏がそんな有名人だとは知らなかった。いや、いまはそんなことに感心している場合ではない。

「そうか。で、だな。その柴崎彩夏がちょっと親を迎えにいっててさ、集合時間なのにちょーっとだけ遅れててさ、学校の中で見かけたら早く体育館に来るよう言ってほしいんだ」
「え、なんすかそれ、なんかあったん……」
「いいから、文哉。オマエも探すの手伝え。100m走で全国出たいんだろ」
「え、人探しと全中の何の関係が……」
「やることに意義がある。いいから手伝ってくれるか? あとでお礼はするから。できれば文哉の友達も協力してほしい」

 僕が文哉の友達を見渡すと、何か緊迫したものを察してくれたのか「わかりました!」と返事をしてくれた。いい後輩たちだ。

「恩に着るよ。12時ギリギリまで探して見つからなかったら、体育館に行ってもらっていいからさ」

 僕は文哉の肩を軽く叩くと、校内を探すことの続きを始めた。

*
 文化祭である今日に限っては、学校中が見慣れない光景になっている。外部の人も多いから誰が誰だかはっきりってわからない。
 まだ衣装に着替えていないはずの彩夏は制服でいるのだと思うが、どの女子生徒も違う子だった。

「ちっくしょう。どこだよ」

 スマホを見てみたが、柚葉からの連絡は来ていなかった。
 少し走り回っただけなのに、身体は重いし、額に汗が浮かぶ。ちょっと部活をしていない間に僕の肺機能はメチャクチャ衰えてしまったんじゃないだろうか。

「やみくもに探したってみつからないよなぁ……何か……」

 とそのとき、一人の大人が目に入った。朝から見かける人だった。高価そうな一眼レフのカメラを持っているのでわかった。朝から学校内を撮影しているカメラマンの人だ。いろんな場所を撮っているなら見かけているかもしれない。
 
「あの、すいません」

 声をかけるとカメラマンの人が僕のほうを見た。顎に髭を少し生やしていて、彫りが深めの男っぽさのある人だった。40代か30代ぐらいだろうか。

「はい?」
「あの……すいません。今日、たくさん写真を撮られてると思うんですけど」
「ああ、そうだね。たくさん撮ってます、はい」
「えーっと、ちょっと人を探してて、この子を見ませんでした?」

 ダンスの練習風景を僕は何度か撮っていたので、彩夏が映った写真や動画を持っていた。スマホから彩夏の映っているシーンを出して、画面を拡大する。

「どれどれ……失礼」

 男性は僕のスマホを覗き込んだ。よく見てもらおうとスマホを男性に渡す。

「ああ、この子ね」

 意外なほど、あっさりと男性は反応してくれた。

「見たよ」
「本当ですか?」
「うん。キラッとしてる子だよね。ダンスの発表をする子だよね? 朝から見てるよ。ついさっきも」

 さっき?

「さっき!? ど、ど、どこで!?」
「おいおい、どうした、落ち着けよ」

 僕が食い入るような反応をしてしまったせいだろうか、男性はちょっと引き気味になりながら、僕にスマホを返してくれた。

「ええと、この子だよね」

 男性は一眼レフで撮影した写真の一覧を見せてくれた。画面を動かした中で、体育館のステージでの写真が出てきた。
 朝のリハーサルでのものだろうか、ダンスチームが半袖ハーフパンツの体操服で踊っている写真だった。中央にいるのは彩夏だった。さっきこの人は「キラッと」と言ったがたしかに朝の光の中で輝いているように見えた。いや、写真のことを考えてる場合ではない。

「なんだなんだ? 君が狙ってる子だったりとかか?」
「いやそういうんじゃなくて」
「……ってことは、何かトラブル中ということかな?」
「あ、すいません。ちょっと急いでて」

 僕の態度がよくなかったかもしれない。僕は頭を下げた。

「この子をちょっと探してて。さっきも見たってどこでですか? ちょっと急いでるんです」
「OK、OK。そうだな……ほんの数分前ぐらい前からあっちを歩いてたはずだよ」
「あっち……?」

 男性は僕の後ろの窓を指さした。僕はゆっくりと後ろを振り返る。グラウンドが見えた。

「グラウンド脇のアスファルトの道があるでしょ。そこを女の子二人でね。右のほうへ少し急ぎ目に歩いてたかな。僕はグラウンドを撮りたかったからそこにいたんだけどーー」

 二人? 誰だ、もう一人って誰だ?
 なんでグラウンド脇の道を? あそこから体育館なんて行けるはずもないのに。いや、考えてる場合じゃない。
 
 

「ありがとうございます!」

 僕は大きく頭を下げて走り出した。
 階段を駆け下り、最後の四段はジャンプで飛び降りる。

 ダン! と廊下に叩きつけられた両足の裏が軽くジンジンとしたけれど、そんなことに構っている暇はない。僕は走った。

 上履きのままグラウンド脇に通じる通用口を出る。こんな日にここに来る奴なんていない。誰もいない道を僕は全力で走った。どこだ、どこにいるんだ。
 メチャクチャなフォームで、ペースも考えず飛ばして走る。ああ、こんな風に全力で走るなんていつ以来なんだろう。息が持たない。ああ、どうして僕はもっと練習していなかったんだろう。なんでこんなに速く走ることができなくなっているんだろう。彩夏はどこにいるんだ。
 思考回路もメチャクチャになり、息が持たなくなり、減速して僕は止まった。両ひざに手をつきながら息を切らしているとき、少し前方のほうから誰かの気配を感じた。
 


 息が整わないままに顔をあげたとき、ウチの学校の女子の制服が目に入った。


 女子生徒の誰かがこちらへ向かって歩いてきていた。
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